[2018_05_21_02]公聴会は海洋放出の地ならしか 福島第1トリチウム水処理(北海道新聞2018年5月21日)
 
参照元
公聴会は海洋放出の地ならしか 福島第1トリチウム水処理

背景に政府の焦り 「アリバイ作り」の指摘も

 東京電力福島第1原発にたまる放射性物質トリチウムの汚染水をどう処分するか。政府は今夏にも一般市民から意見を聞く公聴会を初めて開く。現在検討中の五つの処分方法案を説明して意見を聞くとしているが、薄めて海に流す案が既定路線となりつつあり、公聴会開催は海洋放出に向けた地ならしとの見方もある。
 「世界中、各国で放出しているんです。なんで福島だけダメなんですか」。経済産業省が18日に東京都内で開いた小委員会。ある委員の言葉が政府の焦りを代弁しているようだった。
 福島第1原発のタンクにはトリチウム汚染水が約87万6千トンあり、今も増え続けている。政府は処理すべきトリチウムの量を約1千兆ベクレルと推定。小委員会で経産省は、2011年の福島事故前は全国の原発から年間約380兆ベクレルが海に流され、フランスの使用済み核燃料再処理施設は年間約1・4京ベクレル(京は兆の1万倍)を出しているとの例を挙げ、福島だけが敷地内にためるのは理不尽だと強調するかのように説明した。
 トリチウムが人体に与える影響はセシウム137の約700分の1とも説明した。これに対し風評被害の専門家や消費者団体代表の委員からは「科学的に安全だから流していい、とはならない」「政府の言うことが(一般の人たちに)信頼されるかどうか疑問だ」といった意見も出た。福島県漁連なども風評被害を招くとして海洋放出に絶対反対の姿勢を崩していない。
 トリチウム汚染水の処分方法を巡っては、経産省の作業部会が16年6月、《1》水で薄めて海に流す《2》蒸発させて大気に出す《3》電気分解して大気に出す《4》セメントで固めて地下に埋める《5》深い地層に注入する―の5案のうち《1》の海洋放出が安く短期間で処理できるとの試算をまとめた。この試算を基に同年11月から小委員会が風評被害など社会的影響を検討しているが、1年半たっても結論は出していない。この間も原子力規制委員会は東電に海洋放出を促し、東電首脳は「(海洋放出の)判断はもうしている」と発言、波紋を広げた。
 8回目となる18日の小委員会の会合では、地下埋設や地層注入で処分した場合、社会的な影響の残る期間が100年程度に及ぶ一方、海洋放出なら10年程度で済むとの見解も示された。
 公聴会は福島と東京で開く見通し。意見は全国から募る。会合終了後、ある委員は「海洋放出ありきの議論が続いており、公聴会は国民の声を聴いたというアリバイ作りにすぎない」と率直に話した。経産省の担当者は記者団に「一部の専門家だけで決めたと思われないよう広く意見を聞きたい」と公聴会開催の狙いを説明。しかし、寄せられた意見を処分方法の決定にどう反映させるかは明言を避けた。

KEY_WORD:FUKU1_: