【記事18210】柏崎原発 閉鎖求める声明を発表 専門家らの会(新潟日報2007年8月22日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

声明:東京電力柏崎刈羽原子力発電所の閉鎖を訴える 柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会 2007/08/21

声明:東京電力柏崎刈羽原子力発電所の閉鎖を訴える
 2007年新潟県中越沖地震によって甚大な被害を受けた東京電力柏崎刈羽原子力発電所について、IAEA(国際原子力機関)の調査団は、わずか3日間の調査をもとに、原子炉圧力容器、内部構造物、主配管などの中核機器の状況がまだ少しもわからない中、原発は安全に停止し損傷は予想を下回るものだったという報告書を8月17日に公表した。一方、総合資源エネルギー調査会に設置された調査・対策委員会の班目春樹委員長は、運転再開は少なくとも1〜2年後としながらも、早々と全7基の運転再開を前提にした発言をしている。このようにして、柏崎刈羽原発は再稼働するものという雰囲気が日本社会に植え付けられている。しかし私たちは、純粋に科学的・技術的見地から、この状況に強い危機感を覚える。その理由は以下のとおりである。

 第一に、柏崎刈羽原発周辺で再び大地震が発生する可能性を否定できない。この地域は、日本海東縁変動帯の中でも地殻活動度が高い羽越−信越褶曲帯の真っ只中にあり、活断層も多い。今世紀半ば頃の南海巨大地震まで、日本海東縁変動帯から中部・西南日本にかけての大地震活動期が続く可能性が高いことも考えれば(注1)、2004年中越地震と今回の地震によってこの地域の大地震発生が終わったなどとは、けっして言えない。また、中越沖地震の広義の余震の大規模なものが、何年かを経て発生する可能性も無視できない。IAEAは活断層調査の重要性を指摘しているが、地表で確認される活断層と結びつかずに発生する大地震があることも忘れてはならない。

 第二に、昨年9月に改訂された「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」に照らすと、そもそも柏崎刈羽原発は立地が不可能なことが明白である。なぜならば、改訂指針は、基本方針で、すべての「建物・構築物」は「十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない」と規定しており(注2)、中越沖地震で大規模な地盤変状を広範囲に引き起こして多くの構築物を損傷させた柏崎刈羽原発の敷地地盤は、疑いもなくこの規定に反しているからである。

 第三に、柏崎刈羽原発は設計時に想定した基準地震動S2をはるかに超える地震動に襲われ、原子炉圧力容器、炉心、配管、格納容器など、耐震重要度分類がAやAsの重要・最重要な施設・機器に、材料の弾性限界を超える力が作用したことはほぼ確実である。したがって、「止める、冷やす、閉じ込める」という最低限の機能は辛うじて維持されたとはいえ、多くの施設・機器に塑性変形(永久ひずみ)が残ったと考えるべきであり、場合によっては亀裂が生じた可能性もある。しかし、重大な問題は、有害なひずみが残っているかどうかを実証的に検証することは不可能であり、観測地震動を入力した数値シミュレーションによって、仮定に仮定を重ねて推測するしか方法がないことである(注3)。すなわち、7基の原発の健全性を客観的に確認することはできず、IAEAも警告しているように、顕在化していない亀裂やひずみが運転に支障を引き起こす恐れがある。このことは、原発内部に起因する事故が起こりやすくなるばかりでなく、今回よりも弱い地震動によっても大事故が引き起こされる可能性があることを意味する。
 第四に、そもそも、柏崎刈羽原発の地盤が劣悪で、直近に複数の活断層があって大地震の危険性も高いことは、1974年から33年間にわたって地元住民たちが訴え続けてきたことであった。それが、地元の震災という莫大な犠牲によってようやく実証されたのである。今回は、不幸中の幸いとして原発の大事故には至らなかったが、それは地震の起こり方の奇跡的ともいえる偶然によるものである。もし、中越沖地震の震源域がもう少しだけ南西寄りだったり、マグニチュードが1964年新潟地震並みの7.5程度だったりしたら、もっと激しい地震動が原発を襲い、「止める、冷やす、閉じ込める」機能も破壊されて、環境への放射能大量放出が起こっていたかもしれない。私たちは、これらのことを深刻に考えなければならない。

 以上の4点を真摯に受け止めることなく、大自然に対する侮りを続け、技術倫理の誇りを捨てて、柏崎刈羽原発の運転再開を図ることは許されるべきことではない。それは、深刻な危険を地元と日本社会、ひいては世界に押し付けることになる。

 今後、圧力容器内部をはじめとする全施設の徹底的な損傷状況調査、および、敷地地盤に関する詳しい科学的調査をおこなうべきことは言うまでもないが、それは、運転再開を前提としておこなうことではなく、閉鎖を視野に入れた客観的な科学的・技術的見地から、事後処理として実施するべきである。また、その結果は、政府や事業者に偏ることなく、地域住民の意見も尊重した公正な立場の人たちによって判断されるべきだと考える。

 以上、強く訴える。

2007年8月21日

柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会
   呼びかけ人(五十音順)
    石橋克彦(神戸大学教授・地震学)
    井野博満(東京大学名誉教授・金属材料学)
    田中三彦(元原発設計技術者・サイエンスライター)
    山口幸夫(原子力資料情報室共同代表・物理学)

(注1) 1854年安政東海・南海地震の前にも、1944年東南海・1946年南海地震の前にも、そのような地震活動期がみられた。また、1995年兵庫県南部、2000年鳥取県西部、04年新潟県中越、05年福岡県西方沖、07年能登半島、07年新潟県中越沖の各地震は現在の活動期の現われという見方がある。

(注2)「全ての建物・構築物に要求される」ことが、名倉繁樹・前田洋介・水間英城・青山博之「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針の改訂について」(第12回日本地震工学シンポジウム論文集CD-ROM,43-49,2006)に明確に解説されている。

(注3) 設備・機器の損傷は目視検査だけでわかることではない。亀裂の有無は、定期検査時に使われている非破壊検査技術である程度わかるとしても、7基の原発の重要・最重要機器を隅々まで調べ尽くすことはとうてい不可能である。さらに、有害な変形が生じたかどうかを、込み入った狭い現場で非破壊的に調べる実用的技術は存在しない。したがって、今後は、目視でわかるような大きな変形や損傷の確認と、限られた少数の部位に対する非破壊検査による亀裂の確認だけをおこない、有害な変形が生じたかどうかについては計算で推定すると思われるが、不確実なその計算結果を根拠に再稼働することは、あまりにも危険である。

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