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※当記事は大津地裁の高浜原発差し止め仮処分決定の内容理解のため以下の2つの記事を取り上げた。
 (1)【記事49740】<高浜原発>運転差し止め 稼働中、初の仮処分 大津地裁(毎日新聞2016年3月9日)
 (2)【記事49900】クローズアップ2016 高浜運転差し止め 新基準への不安指摘(毎日新聞2016年3月10日)
※2:リンク箇所をクリックすると関係する記事が表示される。

参照元
<高浜原発>運転差し止め 稼働中、初の仮処分 大津地裁

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)を巡り、隣県の滋賀県内の住民29人が運転の差し止めを求めた仮処分申請で、大津地裁(山本善彦裁判長)は9日、「安全性が確保されていることについて(関電側は)説明を尽くしていない」などとして、申し立てを認める決定を出した。3号機は原子力規制委員会の新規制基準に適合したと認定されて1月末に再稼働したばかりだが、仮処分は即座に効力が発生するため、関電は10日、停止作業を始める。稼働中の原発の運転を停止させる仮処分決定は初めて。

 関電は決定を不服として、保全異議申し立てと仮処分の執行停止の申し立てを同地裁にする方針。しかし、判断には一定の期間がかかるため、いったん原発を止める。10日午前10時に着手し、午後8時ごろに停止する予定。その後は、どちらかの申し立てが同地裁に認められない限り、3、4号機は再稼働できない。

 申し立てた住民は避難計画の策定が必要な30キロ圏の外に住み、原発事故が起きると平穏な暮らしが侵害されるなどと主張していた。決定で山本裁判長は「福島第1原発事故を踏まえ、原子力規制行政がどのように変化し、原発の設計や規制がどのように強化され、この要請にどう応えたかについて、関電は主張を尽くすべきだ」との考えを示した。

 その上で電源確保などの過酷事故対策や、耐震設計の目安となる地震の揺れ「基準地震動」の算定方法などについて「危惧すべき点がある」と判断。さらに津波対策や避難計画についても「疑問が残る」などとし「(住民たちの)人格権が侵害される恐れが高いにもかかわらず、安全性が確保されていることについての説明が不十分」と結論付けた。

 新規制基準についても「災害が起こる度に『想定を超える』災害であったと繰り返されてきた過ちに真摯(しんし)に向き合うならば、対策の見落としにより過酷事故が生じたとしても、致命的な状態に陥らないようにすることができるとの思想に立って策定すべきだ」と言及して規制委の姿勢を批判。原発事故による被害は甚大で「環境破壊の及ぶ範囲は我が国を越えてしまう可能性さえあり、発電の効率性と引き換えにすべき事情はない」とも述べた。

 高浜3、4号機を巡っては、福井地裁が昨年4月に再稼働差し止めを命じる仮処分決定を出したが、同12月の異議審で同地裁の別の裁判長が仮処分を取り消した。地元同意の手続きが完了していたため、関電は3号機を今年1月29日、4号機を2月26日に再稼働させた。4号機は同29日に再稼働したが、直後のトラブルで原子炉が緊急停止したままになっている。【田中将隆】

 ◇解説 再稼働、国の姿勢を批判

 稼働中の原発の運転停止を命じた9日の大津地裁決定は、東京電力福島第1原発事故から5年がたとうとする今も、国民の不安が払拭(ふっしょく)されていない現状を司法が代弁したといえる。政府は司法の警告に真摯(しんし)に応える責務がある。

 関西電力高浜3、4号機の再稼働差し止めを巡る大津地裁での仮処分申請は2度目で、山本善彦裁判長は2014年11月、最初の申請を却下した。避難計画が策定されていないことなどを挙げ「原子力規制委員会が早急に再稼働を容認するとは考えがたい」と結論付けた。その際も基準地震動について「直近のしかも決して多数とはいえない地震の平均像を基にすることにどのような合理性があるのか」などと問いかけていた。

 今回の決定は、前回示した懸念に関電側がきちんと答えないまま再稼働したことを厳しく批判し、国への不信感をにじませた結果といえる。原発再稼働の根拠そのものを疑問視する司法判断は、昨年4月の福井地裁決定に次ぎ2度目。別の裁判所が同じ結論を導いた意味を政府や電力会社は重く受け止めるべきだ。【村松洋】

 
参照元
クローズアップ2016 高浜運転差し止め 新基準への不安指摘

関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを認めた9日の大津地裁(山本善彦裁判長)の仮処分決定は、「世界一厳しい」(田中俊一・原子力規制委員長)とされる新規制基準をクリアして再稼働した原発に、初めてストップを命じた。東京電力福島第1原発事故で住民の避難エリアが拡大した結果、原発の運転差し止めをめぐる訴訟も立地県だけにとどまらず、「広域化」の様相を呈しており、他原発の再稼働にも影響を与える可能性がある。

「福島調査、道半ば」

 高浜原発をめぐる司法判断は二転三転した。福井地裁は2015年4月、運転差し止めを命じる仮処分を出したが、同年12月の同地裁異議審では取り消され、再稼働を認めた。そして大津地裁は再び、運転差し止めを命じる仮処分決定を出し、停止命令->運転容認->停止命令--という変遷をたどった。

 司法判断のポイントとなったのは、四国電力伊方原発訴訟の最高裁判決(1992年)の解釈だ。同判決は、原発の安全性の判断は事実上行政判断に委ねられ、その立証責任は国や電力会社にあるとの考え方で、近年の原発訴訟のモデルケースとされている。

 最初に運転停止を命じた福井地裁決定は、関電などの「立証責任」には触れなかったが「新基準は合理性を欠く」と指摘した。

 しかし、あとの二つの地裁決定は、この「立証責任」をめぐって判断が180度異なった。運転を認めた同地裁異議審は「関電の立証責任は十分尽くされている」とし、3号機の再稼働(今年1月)に道を開いた。逆に、今回の大津地裁は、伊方訴訟の見解を踏襲しつつも「関電側が十分な立証を尽くしておらず、不合理な点があると推認される」と明記し、「関電は福島事故を踏まえ、安全対策がどう強化され、どのように応えたかについて主張を尽くすべきだ」と、説明不足を再三にわたって批判した。

 福島事故の原因究明については「調査が進まず、道半ば」と明記。そのうえで「安全確保には原因究明が不可欠だが、こうした点に意を払わないなら非常に不安を覚える」と、新基準をまとめた規制委を批判した。新基準についても「適合しても、ただちに公共の安寧(社会平和)の基礎になると考えることにためらわざるを得ない」とした。

 原発の避難計画の不十分さにも言及した。避難計画は、規制委の安全審査の対象外で、国がチェックする機能もない。大津地裁は「国主導での具体的な避難計画が早急に策定される必要がある」と強調した。

 今回の判断は、福井県内の原発を隣の滋賀県住民が差し止め請求し、それが認定されるという原発訴訟の広域化も示した。

 福島事故前は原発から半径8〜10キロが主な避難エリアだったが、福島事故を受けて、政府は半径30キロ圏内に拡大。その範囲内の自治体は避難計画の策定を義務付けられた。高浜原発の30キロ圏内には滋賀県の一部がかかっており、滋賀県民らが「事故で放射性物質が拡散すれば、近畿1400万人の水源である琵琶湖が汚染される恐れがある」と運転停止を求めていた。こうした広域訴訟が増えれば、今後再稼働する他の原発にもブレーキがかかる可能性がある。【酒造唯】

電力、訴訟拡大を警戒

 「非常に重い決定だ。今後各地で同様の訴訟が広がりかねない」。原発再稼働を目指すある大手電力幹部は、原発の「訴訟リスク」の高まりを警戒する。

 原発を抱える大手電力9社の2015年4〜12月期連結決算は、全社が経常黒字を確保したが、原油安による燃料費減少という「一時的な要因」(東京電力幹部)。安定的な収益改善には1基あたり月100億円前後の改善要因とされる原発再稼働が欠かせないと、電力側は主張する。規制委の安全審査をクリアするため、各社は総額2兆円超もの投資をしてきたが、今後再稼働にこぎ着けても、突然の運転停止が続けば、経営へのダメージは計り知れない。

 政府側にも困惑が広がる。運転差し止めが長期化すれば、30年の電源構成に占める原発比率を20〜22%とする目標の実現が危うくなりかねないからだ。

 再稼働の遅れによって電気料金の高止まりが続けば景気への悪影響も避けられない。経産省幹部は「司法判断には対応しようがない。原子力の必要性を粘り強く訴え続けるしかない」と嘆く。

 決定は、新規制基準について、福島第1原発の事故原因が分かっていないことなどから安全への配慮が不十分と注文を付けたが、規制委の田中俊一委員長は定例記者会見で「まだ中身を承知していないので、申し上げることはない」と述べる一方、「現在の基準が世界最高レベルに近付いているという認識を変える必要はない」と強調した。

 新規制基準に基づく安全審査に申請した原発は、これまでに16原発26基。すでに高浜3、4号機のほか、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機、四国電力伊方原発3号機の計5基が合格し、再稼働が進む。今回の決定は、今後の安全審査にどのような影響を及ぼすのか。

 菅義偉官房長官は9日の記者会見で「(従来の再稼働を進める方針に)変わりはない」と影響を否定したが、新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)は「規制委は今回の決定を真摯(しんし)に受け止め、基準のあり方などを見直すべきだ。政府も再稼働を前提とした施策から、住民の安全を最優先したエネルギー政策への転換が求められている」と指摘する。【寺田剛、小倉祥徳、千葉紀和】

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