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発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項について(とりまとめ)

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1.検討の経緯
 地震・津波関連指針等検討小委員会は、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(以下「東北地方太平洋沖地震」という。)及びそれに伴う津波等に係る知見並びに東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故の教訓を踏まえ、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(平成18年9月19日原子力安全委員会決定、以下「耐震設計審査指針」という。)及び関連の指針類に反映させるべき事項について検討を行うことを目的として、平成23年6月22日に原子力安全基準・指針専門部会の下に設置され、同年7月から平成24年3月まで検討を行った。
 その結果として、現在までに得られた知見や教訓を踏まえて、耐震設計審査指針の改訂案及び同指針の運用・解釈を明確にすることを目的とした「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(平成22年12月20日原子力安全委員会了承)」の改訂案をとりまとめた。

2.検討項目
(1)耐震設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項
 これまでに蓄積された知見や、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波等に係る知見並びに事故の教訓を踏まえ、耐震設計審査指針及び関連の指針類における当面の改訂内容並びに長期的な改訂の方向性及びその改訂内容について検討した。

(2)その他、重要と認められる事項
 耐震設計審査指針及び関連の指針類の見直しに関して、その他重要と認められる事項について検討を行った。

3.検討の進め方
 当小委員会は、耐震設計審査指針等の見直しの具体的検討に先立ち、地震調査研究推進本部、中央防災会議、国土交通省等の他機関での検討状況を踏まえつつ当面の検討内容並びに進め方について検討を行い、「地震・津波関連指針等検討小委員会における検討方針について」を作成し、同方針に沿って以下のとおり検討を進めた。

○発電用原子炉施設の耐震安全性の確保の観点から、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波等の観測記録や得られた知見を踏まえて検討を行うことが重要であるため、国内外の様々な最新の研究成果や調査結果等について当小委員会構成員が説明し、これらを踏まえて検討を行った。
○地震調査研究推進本部、中央防災会議、国土交通省や関連する学協会等では、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波等の要因の分析や各種の研究等が実施され、それらを踏まえて地震・津波対策等に関する様々な検討が実施されている。検討に当たっては、これらの他機関から説明を受け、検討を行った。
○東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波等の原子力施設に対する影響を正確に把握する必要性から、原子力安全・保安院及び原子炉設置者等から説明を受けるとともに、今回の津波の被害を受けた東北電力株式会社女川原子力発電所の現地調査を行った。
○これまでの耐震バックチェックで得られた経験、知見を踏まえ検討を行った。

4.検討結果
 別紙1に「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(改訂案)」及び別紙2に「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き(改訂案)」を添付する。また、以下に耐震設計審査指針等の見直しの主なポイントを示す。

4.1名称変更について
 現行の耐震設計審査指針において、津波については地震随伴事象として取り扱ってきた。今般、津波については、耐震設計審査指針の中で別途、独立した項目立てを行い、津波評価に必要な規定を設けることとしたことから、耐震設計審査指針の名称を内容に即したものとすることとし、地震及び津波に対する安全設計の審査指針であることが明示的になるよう「発電用原子炉施設に関する地震・津波に対する安全設計審査指針」(以下「地震・津波審査指針」という。)に改めるべきとした。また、同指針の名称の変更に伴い、「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き」を「発電用原子炉施設に関する地震・津波に対する安全審査の手引き」(以下「手引き」という。)に改めるべきとした。

4.2地震動評価について
 地震動評価については、地震調査研究推進本部における東北地方太平洋沖地震等に係る検討状況を聴取するとともに、マグニチュード(M)9.0の地震が想定できなかった理由等について検討し、それらを踏まえて地震動評価をする上で必要な耐震設計審査指針等の見直しについて検討を行った。一方、東北地方太平洋沖地震等の発生を受けて、国内外において様々な調査研究が行われているが、これら調査研究は研究途上にあり、地震の発生機構等も十分に解明されていない状況にある。このことから、耐震設計審査指針等における具体的な見直し事項は必ずしもすべてが明確となっていないが、現時点で得られた知見等を踏まえ、可能な範囲で見直しを行った。

(1)プレート間地震及び海洋プレート内地震に係る規定
 現行の耐震設計審査指針は内陸地殻内地震に係る規定が主体であるが、東北地方太平洋沖地震等に関する現状の知見を踏まえ、プレート間地震及び海洋プレート内3地震における震源領域や地震規模等の不確かさ(ばらつき)の考慮についても明示的に規定する必要があることから、地震・津波審査指針及び手引きにおいて、当該規定を追加すべきとした。

(2)プレート境界で発生した巨大地震の世界の事例の考慮について
 基準地震動Ssの策定に関しては、沈み込みプレート境界では過去の事例の有無や場所に関わらず巨大地震の発生が否定できないことを踏まえ、地震・津波審査指針及び手引きにおいて、地震発生機構やテクトニクス的背景が類似のプレート境界で発生した巨大地震の世界事例を地震動評価において考慮するための規定を追加すべきとした。

(3)地殻変動の考慮
 地殻変動については、耐震バックチェックにおいて既に考慮がされてきた。しかしながら、手引きにおいて地盤の支持性能の評価に必要な事項が規定されているものの、東北地方太平洋沖地震のような巨大な地震に伴って発生する可能性があると想定される地殻変動による施設の安全性確認については必ずしも明確には規定されていない。地殻変動は地震現象に伴う重要な現象であり、津波評価及び地盤の安定性評価をする上で考慮すべき重要な事項であるとの観点から、地震・津波審査指針の基本方針において、地殻変動の考慮を明確に位置づけるとともに、地盤の支持性能の評価に係る事項を規定すべきとした。

(4)多種多様な地震像の検討
 東北地方太平洋沖地震の発生後、東日本を中心に多くの余震や誘発地震が発生している。特に巨大な地震後においては、多種多様な地震をイメージすることが必要との指摘がなされ、検討用地震の選定にあたって、これをどのように反映をさせるか等について議論が行われ、以下の点が主要な論点となった。

@余震や誘発地震に関して、一つの地震の揺れが収まった後に発生する地震(地震の連続発生)の考慮については、基準地震動Ssに影響がないことから、それぞれ個別の地震動として検討されるべきであるとの意見があった。また、施設の設計においては、策定された地震動を連続で入力し、解析することが可能であり、繰り返し荷重として施設の設計において考慮されるべき事項であるとの意見があった。その際、地盤や施設の非線形応答の永久ひずみ(変形)を考慮した検討の必要性等が今後の課題である。
A地震の連続発生で検討の必要があるものは、基準地震動Ssに影響が考えられるケースである。現時点では、同じ地震発生様式における連動等は考慮されているが、ある地震の継続時間中にその地震がトリガー(何らかの物理的因果関係がある)となって別の地震が発生することは考慮されていない。このため、異なる地震発生様式の地震がほぼ同時(応力が伝播する時間遅れを考慮)に発生する可能性を考慮すべきかどうかについて検討した。
 上記のケースの事例としては、海外での事例としてプレート間地震とプレート内地震の同時発生(2009年サモア沖地震)がある。また、プレート内地震やプレート間地震がトリガーとなって内陸地殻内地震の発生が起こりえるか等について検討を行い、起こらないという積極的理由はなく、検討することは必要との意見があった。一方、確率的には非常に小さいと考えられる事象を考慮することは過大な要求にならないかとの趣旨の意見もあった。
 東北地方太平洋沖地震を踏まえると、多種多様な地震像を検討することは重要ではあるが、地震発生に伴う応力伝播によって、異なる発生様式の地震の発生の検討は、科学的知見に基づいて発生可能性を検討し、検討結果を踏まえて評価を行う必要がある。

 上記の論点をはじめ、異なる意見もある中で、東北地方太平洋沖地震等の知見を踏まえると、様々な地震像を検討することは重要であるとの観点から、手引きにおいて、地震発生に伴う応力伝播によって、異なる発生様式の地震が発生する可能性について、科学的知見に基づき検討することを規定すべきとした。

(5)活断層認定における不確かさの考慮
 これまでの安全審査や耐震バックチェックを踏まえた課題として、活断層の認定に係る判断について議論がなされた。その結果、手引きにおいて、活断層の認定における不確かさ(ばらつき)の考慮について追加規定することとした。なお、本検討のポイントについては「4.4耐震設計審査指針等の運用について」に記載した。

(6)活断層の認定における応力場の検討の留意事項
 現行の手引きにおいては、後期更新世の地形面や地層が分布しない場合には、さらに古い年代の地形及び地質、地質構造、応力場等を総合的に検討し活断層の認定を行う必要があるとの規定がされている。
 東北地方太平洋沖地震及びその後の誘発地震や地殻変動等の知見並びに耐震バックチェックでの課題等を踏まえ、手引きにおいて、活断層の認定における応力場の検討の留意事項を規定することとした。なお、本検討のポイントについては「4.4耐震設計審査指針等の運用について」に記載した。

4.3津波評価について
(1)津波評価に係る項目立て
 現行の耐震設計審査指針において、津波は地震随伴事象として取り扱ってきたが、世界の津波事例や津波の発生機構等から考えると、プレート境界で大きなすべりにより強い揺れと大きな津波を生成する地震や海溝近傍で発生し強い揺れを伴わないが大きな津波を生成する津波地震、海域の地殻内地震に加えて、火山の山体崩壊、地すべり等が大きな津波の発生要因となっていることから、地震・津波審査指針及び手引きにおいて、地震随伴事象として取り扱うのではなく、別途、独立した項目立てを行い、津波評価に必要な規定を設けるべきとした。

(2)基準津波の策定
地震・津波審査指針及び手引きにおいては、施設の安全設計において基準とする津波の策定及びそれに対する安全設計方針について規定することとし、施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な津波を基準津波とした。検討にあたっては、中央防災会議、地震調査研究推進本部、国土交通省の検討の内容や、世界の津波事例、津波の発生機構等を踏まえ検討を進めた。
 東北地方太平洋沖地震に伴う津波は従来の想定を大きく上回り、甚大な被害を発生させた。地震・津波審査指針及び手引きにおいて、今後は、最新の知見に基づき、十分な不確かさ(ばらつき)を考慮していくべきであるとした。また、地震動評価が活断層調査等に基づいて行われるのに対し、敷地周辺の津波痕跡調査等だけでは必ずしも最大規模の津波を想定できるとは限らないこと等を踏まえ、地震・津波審査指針及び手引きにおいて、基準津波は、津波の発生機構を踏まえて最大規模の津波を発生させる波源を考慮し、津波の伝播の影響等を検討した上で施設に大きな影響を与えるおそれがあるものとして策定すべきとした。その際、津波波源の設定は、国内及び世界の津波事例を踏まえ、その発生機構やテクトニクス的背景の類似性を考慮した上で検討を行うことを基本とすべきとした。また、設定した津波波源から計算される津波高を超える痕跡が敷地周辺にないことを確認すべきとした。

(3)津波に係る調査
 手引きにおいて、津波の発生要因に係る調査、波源モデルの設定等に必要な調査、敷地周辺に来襲した可能性のある津波に係る調査、津波の伝播経路に係る調査及び砂移動の評価に必要な調査を規定すべきとした。

(4)津波に対する安全性評価
 地震・津波審査指針及び手引きにおいて、基準津波に対して、施設設置位置(敷地高さ※)や津波に対する防御施設の設置等により敷地に津波を浸入させないことを基本とし、安全性評価の確認事項や評価に際しての留意事項等について規定すべきとした。
 なお、機能上、海水の流入を防ぐことが困難な取水、放水施設の開口部等からの敷地内の浸水は、施設の安全機能が影響を受けない範囲とすることが必要である。
※「敷地高さ」とは、原子炉の設置の許可の申請書に記載された敷地造成高等をいう。

(5)浸水に対する考慮
 自然科学の観点からは、最新の知見を踏まえ、科学的合理性を持って策定された基準津波を超える津波が原子力発電所に来襲する可能性は否定できない。その場合においても、周辺公衆に対し、放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスクを抑えるよう措置されなければならないとした。
 基準津波を超えた場合についての具体的検討については、別途、原子力安全委員会において検討が行われ、「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について(想定を超える津波に対する原子炉施設の安全確保の基本的考え方)(平成24年3月12日原子力安全委員会)」としてまとめられた。

 なお、当小委員会において、地震・津波審査指針の範囲外ではあるが、津波が敷地に浸入した場合に対する検討を行う上で重要な以下の指摘がなされた。
○敷地に浸入した場合の津波挙動を把握するためのシミュレーションを行い、津波が施設(建屋だけでなく、周辺の設備/機器も含む。)に及ぼす波力(押し波・引き波)や、津波が敷地に浸入した場合の浸入経路、浸水深、継続時間、漂流物の衝突による影響等を評価し、津波が敷地に浸入した場合であっても、津波によって直接的・間接的に施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないよう適切な設計上の考慮をすることが必要である。その際、以下の点に留意する必要がある。
・津波による建物への影響を検討する上では、浸水深、流速、波力等を見積もることが重要であり、津波が来襲した際の写真や映像解析、漂流物の挙動等の情報の活用が有効である。
・津波高が施設設置位置(敷地高さ)を超えた場合に、施設の安全機能上重要な設備
・機器等がそれ以外の設備・機器等により波及的影響を受けて破損することのないよう適切な設計上の考慮をすることが必要である。
・可燃物漏えい等による発火や引火が生じないよう設計上の考慮をすることが必要である。

4.4耐震設計審査指針等の運用について
 耐震設計審査指針等の見直しに当たっては、東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波等に係る知見並びに東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故の教訓を踏まえた検討に加え、これまでの安全審査や耐震バックチェックでの問題点、課題等についても議論した。
 特に耐震バックチェックの状況を踏まえると、原子炉設置者の調査結果の審議の中で、データの不確実性の評価に多大な時間を要することにより施設側の対応が遅れてしまうことの問題や、東北地方太平洋沖地震により誘発されたと考えられる内陸地殻内地震に伴う地表地震断層と耐震バックチェックでの耐震設計上考慮する活断層の認定に関しての問題等を取り上げた。

(1)活断層調査においては、必要な調査を行っても、活断層の存否や断層長さ等についての不確かさが残ることから、確からしさをもって判断ができない場合がある。このため耐震バックチェックでは、耐震設計上考慮する活断層の認定の確認、判断の過程において、専門家の指摘に対する原子炉設置者の対応に時間を要する場合や専門家の意見が一致しない等によって、議論に相当の時間を要してきた。
 重要なことは“施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動”を策定することであり、活断層の認定における不確かさが明確に示され、それらの不確かさが地震動評価において検討されることが重要である。
 上記のことから、活断層の認定における不確かさ(ばらつき)の考慮として、手引きにおいて、「耐震設計上考慮する活断層の認定には、必要な調査を行っても不確かさ(ばらつき)が存在する。活断層の認定に当たっては、不確かさを考慮した判断を行うこと。」を追加規定すべきとした。なお、過剰な不確かさが見積もられることのおそれがあること等、運用面で懸念があるが、これに関しては、当然、見積もられる不確かさは科学的根拠を持って示されるべきものである。

(2)東北地方太平洋沖地震の発生以降、東北地方から関東地方等では、従来、顕著な地震活動がほとんど観測されていなかった地域において地震活動が活発化し、東日本では起こりにくいとされてきた正断層型の地震も多く発生するようになった。この一例として福島県浜通りにおいては、文献に井戸沢断層および湯ノ岳断層として示された地域でM7.0の地震が発生し、地表地震断層が出現した。このうち、湯ノ岳断層は耐震バックチェックにおいて、詳細な地質調査は実施せず、断層を横断する地形面の状況と断層破砕部の性状に基づいて、その当時の応力場との関係等から活動性の評価を行い、耐震設計上考慮する活断層ではないと判断されていた。
 このような状況を受けて、原子力安全委員会は、「新耐震指針に照らした既設発電用原子炉施設等の耐震安全性の評価結果の報告に係る原子力安全・保安院における検討に際しての意見の追加」(平成23年4月28日原子力安全委員会決定)をもって、原子力安全・保安院に対し、バックチェックの確認を行うに当たり、これまで示してきた意見に加え、活断層評価の再確認等を要請した。
 東京電力株式会社は、原子力安全・保安院の指示に基づき、湯ノ岳断層について、ボーリング調査、トレンチ調査等の詳細な地質調査を実施した結果、あらためて後期更新世以降の活動を認め、湯ノ岳断層は耐震設計上考慮すべき活断層であったと再評価した。
 今後は、地震・津波審査指針及び手引きの趣旨を酌んで、これまで以上に認定根拠の本質に立ち返った総合的な検討を行うことで、判断に誤り等がないようにすることが重要である。
 また、上記を踏まえ、応力場に基づく検討の考え方について議論がされ、東北地方太平洋沖地震等から得られた教訓を明確にしておく必要性があるとの観点から、手引きにおいて、「応力場は、近傍で発生した地震等により大きく変化する可能性があることを考慮すること。」を追加規定すべきとした。

5.今後の課題と意見
 当小委員会は、耐震設計審査指針等の見直しにあたって、地震動評価や津波評価に関する事項について検討を行ってきた。検討の過程においては、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、専門委員の専門分野や当小委員会の所掌の範囲外の意見も多くあった。こうした意見については、今後の原子力安全をより一層高めるためにも貴重なものと考え、ここにとりまとめておくこととした。今後、これらの意見を参考に検討がなされることが望まれる。

○地震・津波審査指針の既設原子炉施設への適用について従来、耐震設計審査指針等は、新設の原子炉設置(変更)許可申請に対する安全審査を対象に適用がされてきた。原子力発電所の安全確保は、常に最新の知見を踏まえて見直されるべきであり、今後、地震・津波審査指針等は新設のみならず、既設の原子力発電所にも適用がされるべきである。特に原子炉運転中に審査を行う場合には、速やかな対応が求められる。場合によっては、原子炉を停止して必要な対応を取ることも考慮する等、適切な適用のあり方を考える必要がある。

○地震の継続時間や繰り返し地震動の考慮
東北地方太平洋沖地震は、地震の継続時間が長かった。また、本震後も比較的規模の大きな余震が繰り返された。耐震安全性評価においては、こうした長時間の揺れや繰り返し地震動に対する施設・設備の影響を考慮する必要があると考える。その際、地盤や施設の非線形応答の永久ひずみ(変形)を考慮した検討の必要等が今後の課題である。

○耐震設計上の重要度分類について
・地震・津波審査指針では、施設の耐震設計に関する基本的な方針として、耐震設計上の重要度分類が上位の分類に属するものは、下位の分類に属するものの破損によって波及的破損が生じないことを規定している。津波や周辺斜面の崩壊に対しても同様の規定を適用することの必要性を検討する必要がある。また、原子炉施設以外の施設がSクラス施設に及ぼす影響について検討する必要がある。特に、今回の事故において、地震動による外部電源喪失が重要な要因となっていることから外部電源受電施設等の耐震安全性に関する抜本的対策が不可欠である。
・耐震設計上の重要度分類指針の見直しの必要がある。また、津波に対する施設・設備の重要度分類を規定することも必要である。

○地震、津波観測網の整備
 地震観測に関しては、一定の整備がされているが、津波観測は十分ではない。気象庁の緊急情報に頼らず、自ら観測網を構築することで、プラントの特徴にあわせて整備(専用にチューニング)した緊急警報システムが可能となる。
 地震・津波等の情報収集設備等の整備は、どのような外力が作用したか等、正確な情報を得るために必要である。また、リアルタイムに観測し、地震や津波を早期に察知することは、運転員の備え等に有効である。さらに、施設内の地震観測点を増やすことは、その後の被害状況の把握等にも有効であり、他機関との連携に加え、9原子炉設置者自らが、地震及び津波の観測網を整備し、必要な体制等を構築することが重要である。

○海溝沿いの調査について
 海溝沿いの調査については、調査対象地域が広く、また、深海の調査等については、調査機器も限られている。耐震バックチェックでは、原子力安全・保安院が海上音波探査を実施している例もあり、国も調査に関与すべきである。

○敷地地盤の不同沈下の予測と対策
 敷地地盤の不同沈下が地震後の救援・復旧活動(特に緊急車両の通行)を阻害しないように、不同沈下の予測や対策等に関する実状を調査し、その妥当性を検討して、必要な対策を講ずることが必要である。

○3次元解析の積極的取入れ
 今後、より高度な科学的な見地からの安全性評価のために、地盤構造や施設の形状をより忠実に表現することができ、そのことによって地盤や施設の非線形特性の影響についてもより客観的・合理的な評価が可能となる3次元解析を積極的に取り入れるべきである。

○QA集の作成
 地震・津波審査指針及び手引きの運用に関して、QA集を作成する必要がある。
 地震・津波審査指針及び手引きの運用に関して、QA集を作成する必要がある。
○地震・津波以外の自然現象の考慮
 地震・津波以外の自然現象として火山等に対する検討を今後実施していく必要がある。

6.まとめ
 現在、国内外において東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波等に関する様々な調査研究が行われている。また、東北電力株式会社女川原子力発電所や東京電力株式会社福島第一原子力発電所では、上記地震の観測記録が基準地震動Ssを上回り、安全上重要な施設の損傷の有無などについても現在調査が進められている。地震・津波審査指針及び手引きの見直しは、これらの研究成果や調査結果を踏まえ、継続的に行う必要がある。また、国及び原子炉設置者は、常に新たな知見と経験の蓄積に応じて、それらを適切に反映することが必要であり、こうした取り組みを日々継続していくことが肝要である。
 現在、原子力安全規制体制について見直しが進められており、今後、技術基準等が整備されていくものと考えられる。その際には、既設原子力発電所への適用のあり方を含め、耐震設計審査指針等の改訂案及びその検討過程で整理・抽出された課題等について、その時点における最新の知見を踏まえて反映し、的確な安全規制体制の確立がなされることが望まれる。

(後略)


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