[2019_01_11_01]日本の原発輸出案件事実上ゼロに 成長戦略見直しも(毎日新聞2019年1月11日)
 
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日本の原発輸出案件事実上ゼロに 成長戦略見直しも

 日立製作所が、英国のアングルシー島で進める原子力発電所新設計画を凍結する方針を固めたことで、日本の原発輸出の受注案件が事実上なくなった。日立は損失を最大で約3000億円と見積もっており、民間企業にとって原発ビジネスのリスクが大きいことが改めて浮き彫りになった。原発輸出を成長戦略に位置づけてきた安倍政権も、政策の抜本的な見直しを求められそうだ。
 「これ以上赤字を垂れ流すことはできない」。日立関係者は11日、計画凍結の理由を説明した。日立は2012年、ドイツの大手電力会社から英原発事業会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を約850億円で買収。20年代半ばの稼働を目指し、原発の設計や開発のほか、英政府の認証取得、建設工事の準備などを進めてきた。
 現在も1カ月に数十億円の費用がかかっており、減損処理を行えば、最大2960億円(18年9月末時点)の損失が発生する見込みだ。日立は稼働後の発電によって回収する予定だったが、英政府との電気の買い取り価格の引き上げ交渉がまとまらず、経済合理性がないと判断した。
 原発輸出を巡っては、東芝も06年、米原子炉メーカー「ウェスチングハウス」(WH)を買収し、事業の海外進出を目指した。しかし、米国での建設遅延に伴う損失拡大に歯止めがかからず、1兆円超もの巨額損失により経営危機に陥り、稼ぎ頭だった半導体子会社の売却を余儀なくされた経緯がある。
 原発事業は、計画が頓挫すれば数千億円以上の損失が発生するほか、稼働後のリスクも企業にとって負担となる。事故などの際の賠償責任は原則、発電事業者が負うが、メーカーが過失責任を問われる可能性も残る。また「将来、再生エネルギーで技術革新が起こって低コストな主力電源としての地位が確立されれば、原発への投資は回収できなくなる。そんなリスクをはらんだ事業に民間だけではなかなか踏み出せない」との本音も電力業界から聞こえる。
 一方、日本政府にとっては英原発計画の凍結で、安倍政権が成長戦略の柱に掲げてきた原発輸出政策は袋小路に入った形だ。11年の東京電力福島第1原発事故後、国内では原発建設に対する慎重論が根強く、新増設や建て替え(リプレース)は見通せない状況となっている。政府は、民間主導の原発輸出を成長戦略の一つに据え、国内の原子力技術・人材の維持につなげる狙いだったが、見直しを余儀なくされそうだ。
 元東芝の原子力技術者で東京工業大の奈良林直特任教授(原子炉工学)は「総事業費が兆円単位の原発輸出は、政府が債務保証しないと民間だけでリスクは負えない」と指摘。「政府が前に出て主導的役割を果たさないと原発輸出はとても無理。輸出もできないとなれば、日本の原子力産業をどうしていくのか政府は真剣に考える必要がある」と話す。

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