[2019_02_02_01]<陰る原子力 アメリカリポート>(中)傾注/国策に踊らされる地元(河北新報2019年2月2日)
 
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<陰る原子力 アメリカリポート>(中)傾注/国策に踊らされる地元

 日本の原子力産業をリードしてきた米国で原子力発電が斜陽産業と化している。東北も東北電力女川原発1号機(宮城県女川町、石巻市)の廃炉が決まり、廃炉時代が迫る。ハーバード大客員研究員として、先進地アメリカで立地地域の事情を探った。(むつ支局・勅使河原奨治)
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<青森と共通点>
 原子力を巡る国策に地方・地域が揺れる姿は、青森県をほうふつさせる。
 米国南部のサウスカロライナ州には、原発のほかウラン燃料工場などの核関連施設が集中する。プルトニウムを原発で燃やすための混合酸化物(MOX)燃料の工場がある点でも青森県と似通う。そのMOX燃料工場の建設の賛否で昨年、国と州が激しく対立した。
 「連邦政府による裏切り行為だ」(サウスカロライナ州司法長官のコメント)
 州政府は昨年5月、MOX燃料工場の工事中止を決めた連邦政府を相手に、決定を覆すよう裁判で争った。1000人を超す雇用など、地元経済への悪影響を懸念したからだ。

<工場建設中止>
 一審こそ州政府が勝訴したものの、二審と最終審では敗訴。1月上旬に工場の建設中止は確定的となった。
 MOX燃料工場は2007年、廃棄する核ミサイルから取り出すプルトニウムを消費するために計画され、着工した。総工費49億ドル(約5341億円)で16年に完成予定だったが、工期は延長に次ぐ延長。進捗(しんちょく)率70%の段階で77億ドルを使い切った。
 コスト増大でMOX事業への不信感を強めた連邦政府は、プルトニウムを希釈して捨てる手法にかじを切った。これならMOX事業の半分以下の費用で済む。
 サウスカロライナ州はトランプ大統領の強力な支持基盤でもある。州知事や上院議員らが大統領に要望を繰り返した。しかし、結果は覆らなかった。

<毒殺か銃殺か>
 「(MOX事業中止は)あまり影響はないはずだ」。MOX燃料工場が立地する米国エネルギー省施設「サバンナ・リバー・サイト(SRS)」への理解・促進活動を担う団体のジム・マーラ代表が説明する。
 SRSは、1950年代に東西冷戦に備える核兵器開発を担うために造られた。約800平方キロメートルの敷地にMOX燃料工場のほか、研究施設や核物質の生産炉(廃止)などがあり、約1万4000人が働く。
 SRSの研究所に勤めていたマーラ代表は「解雇された人の大半は施設で吸収できる。施設は規模を維持するため、常に新しい仕事を求めている」と話した。
 連邦政府はMOX事業の代わりに、核弾頭の先端部分の生産を表明している。
 SRSを30年近く監視してきた市民団体のトム・クレメンツ代表は「MOX事業が中止になってもあまりうれしくない。結局は別の原子力関連施設を受け入れるだけだった。毒殺されるか銃殺されるかの違いでしかない」と嘆いた。

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