[2019_02_24_03]「放射線影響、出ないからこそ研究を」 原発訴訟対策?調査促す(東京新聞2019年2月24日)
 
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「放射線影響、出ないからこそ研究を」 原発訴訟対策?調査促す

 東京電力福島第一原発事故後の二〇一一年四月、福島県民向けの健康調査を構想していた県立医科大(県医大)に対し、公益財団法人・放射線影響研究所(放影研)の大久保利晃理事長(当時)が「放射線による健康影響が出ないからこそ研究すべきだ」と提言していたことが分かった。同時期に児玉和紀主席研究員(同)も将来の訴訟対策になりうるとして、国に調査を勧めていた。 (榊原崇仁)
 健康調査は、この直後の同年五月以降に実施されたが、児玉氏は昨年五月まで、調査のあり方や放射線の影響を議論する有識者会合の委員を務めていた。被災者本位で進められるべき調査方針が「影響なし」との予断や、それに基づく「訴訟対策」でゆがめられなかったか懸念される。
 大久保氏の提言は、一一年四月二十七日の放射線影響研究機関協議会の議事要旨にあった。本紙は県医大への情報開示請求で得た。
 それによると、会には県医大や放影研、国の研究機関・放射線医学総合研究所(放医研)、広島大、長崎大などの関係者が出席した。県医大側が健康調査への支援を訴えたのに対し、放医研幹部が「住民に大きな被ばくはない」と発言。大久保氏が「現在のレベルで健康影響がない事はその通りだが、影響が出ないからこそしっかりとした研究をすべきだ」と続けた。
 一方、児玉氏は、同月二十八日に公明党から健康調査の実施を求める要望書が政府に提出されたことを受け、官邸から助言を求められた。助言内容を記した文書は関係機関で共有されており、放医研への情報開示請求で入手した。
 懸念された甲状腺がんは「汚染ミルクの出荷制限が適切に実施された。住民に増加する可能性は低い」と指摘。さらに、健康調査を行うことで「この程度の被ばく線量では甲状腺がんが増えない結論が導かれる可能性がある」「調査の目的は他にもあり、(補償などの)訴訟で必要となる『健康影響についての科学的根拠』を得ることも含む」などと記されていた。
 大久保氏は現在、顧問研究員で、児玉氏は業務執行理事。放影研を通じて取材を申し込んだが「古い話でよく覚えていない」「コメントを控えたい」と応じなかった。

<放射線影響研究所> 原爆投下後に米国が設けた原爆傷害調査委員会(ABCC)が前身。1975年の改組で日米が共同運営し、被爆者の健康状態を追跡調査している。研究所は広島、長崎の両市にある。ABCCは人体への放射線障害を調べるため、原則治療せずに検査してデータを収集し、「調査すれども治療せず」と非難された。

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