[2019_03_01_01]繰り返される「地震のデマ」(島村英紀2019年3月1日)
 
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繰り返される「地震のデマ」

 この1月に、滋賀県が「毒虫が降り、触ると死ぬ」などのデマがあった姉川地震のときの公文書を公開した。
 1909(明治42)年に滋賀県北東部でマグニチュード(M)が6.8の地震が起きた。現在の長浜市で震度6、県内全域で震度5〜4を記録した。同県では珍しい典型的な直下型地震で、死者41人を出した。
 地震が起きた明治42年は「死に年」に通じると言われたこともあって「まもなく灰や毒虫が天から降り、触れるとすぐに死ぬ」と告げる行者が現れたほか、「大地が割れて、泥がわき出てくる」「多くの彗星(すいせい)が衝突して地球が壊れる」とデマが流された。悲観した人たちが「財産を残しても仕方がない」と散財したり、神仏に加護を求めたりしたことも伝わっている。
 地震のときのデマでいちばん被害が大きかったのは関東地震(1923年)のときに、朝鮮人や、誤認された人々が数千人も殺害された事件である。
 悪質だったのは、このデマは政府主導だったことで、警察を統括する内務省が各地の警察署に下達した。「混乱に乗じた朝鮮人が凶悪犯罪、暴動などを画策しているので注意すること」との通達だった。井戸に毒を投げ込んでいるという情報も流れた。
 これらはデマだったが、震災の混乱の中で、官憲や民間の自警団などによって多数の朝鮮人が殺されたほか、朝鮮人と誤認された中国人や、日本語の受け答えが十分に出来ない聾唖者、そのほか混乱に乗じて多くの社会主義者も殺された。
 2016年に起きた熊本地震(M7.3)でも、熊本市の動物園から「ライオンが放たれた」とのデマが拡散した。2018年の西日本豪雨でも「中国人、韓国人、在日朝鮮人たちが火事場泥棒」とのデマがSNSで飛び交った。
 先週起きたM5.8の北海道の胆振(いぶり)東部の地震で鳩山由紀夫元首相のツイートが大きな論争になっている。
 鳩山氏は地震直後、ツイッターで地震の原因に触れ、震源に近い苫小牧市で経済産業省が行っている二酸化炭素の回収貯留(CCS)実験について「本来地震にほとんど見舞われなかった地域だけに、CCSによる人災と呼ばざるを得ない」などと書き込んだ。
 これに対して北海道警察はデマだとしたが、じつはデマではないかもしれないのだ。
 国会論戦で、中越沖地震と中越地震が2003年から長岡ガス田で行われていたCCSによって引き起こされた可能性があるとされ、長岡のCCSは中止となった。ガス田は、後に起きた新潟県中越地震(2004年)の震央から約20キロ、新潟県中越沖地震(2007年)のときにも反対側に20キロしか離れていないところだった。新潟県中越地震はM6.8で死者68名、中越沖地震もM6.8で死者15名を出した。米国で行われたCCSが地震と関係があるという論文もある。
 天変地異のときはデマが生まれやすく、また、広がりやすい。不確かな情報でも受け入れてしまう状態になっているのだ。
 だが、デマかどうかをその場で判断するのは、じつはとても難しいことなのである。

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