[2019_03_13_01]過ち認め原発ゼロへ「安全第一はウソだった」 小泉純一郎元首相・独占インタビュー(アエラ2019年3月13日)
 
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過ち認め原発ゼロへ「安全第一はウソだった」 小泉純一郎元首相・独占インタビュー

 東日本大震災から8年。現場で廃炉に向けて気の遠くなる作業が続く中、安倍政権下では再稼働が相次いでいる。小泉純一郎元首相は「『日本の原発は安全』はウソだった」と在任中の過ちを認め、現状に苦言を呈す。

【図を見る】原発すでに9基が再稼働

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──いま「安倍一強」の中で「原発ゼロ」は求心力を失い、「再稼働」も続いています。安倍晋三首相は原発をやめるつもりはなさそうです。
 なんでこんな夢のある政策に切り替えないのか、不思議でしょうがない。私は安倍さん本人に「(原発推進論者に)だまされているんだぞ」「だまされるなよ」と忠告したことがあったけど、苦笑するだけで何も答えない。そもそも自らトップセールスで海外に原発を売り込んでいる安倍さんがここで「原発ゼロ」と言ったら、また批判を浴びる。豹変した、と。しかし、君子豹変。「君子は豹変する」と言えばいいんだ。

──安倍首相を後継者として育ててきた小泉さんが言っても方針転換は無理ですか。
 無理だろうな。私が言っても聞かないんだから。どうしてこんな簡単なことがわからないのか、歯がゆくてしかたない。原発推進論者の話を信じている。
 安倍さんだけでなく、麻生(太郎)さんや森(喜朗)さんといった首相経験者にも「だまされているんだぞ」と言っても、反論はしないね。

──とはいえ、小泉さん自身、首相在任中(2001〜06年)は「日本の原発は安全」と原発を推進する立場でした。
(原発推進論者の話を)信じていた。「日本にはほとんど資源がない」「石油や石炭を使ったらCO2が増えて地球温暖化が進んでしまい、それを避けるためには原発が必要なんです」などと説明されると、私は原子力技術なんてほとんどわからないから「なるほど、そうか」と信じてしまった。
 電力会社が言う「安全第一」というのもウソだった。「経営第一」「利益第一」だった。

──「推進」から「ゼロ」へ。このターニングポイントはどこだったのでしょう。
 一番大きかったのは、2011年3月11日の東日本大震災。地震、津波、そして福島第一原発のメルトダウン。いったいどうなっているんだと思った。
 私は政治家としてずっと「日本の原発は安全だ」という話を信じてきた。原発は「安全」で「コストが安く」「クリーンなエネルギー」だと聞いていた。これが経済産業省や電力会社、研究者など原発推進論者のスローガンだった。ところがあのような事故が起き、故郷を追われて逃げ惑う人々を見て、原発推進論者が言っていたことに疑問を持った。当時私は政界を引退(09年)し、のんびり過ごしていたから、勉強をしなきゃあいけないと思い、原発の本を数えきれないほど読んで勉強した。すると読めば読むほど、原発推進論者が言っていたことはウソだとわかった。

──しかし、政界を引退してから「原発ゼロ」と言い出すのは、無責任。批判されても仕方ないのではないでしょうか。
 批判はあるよ、反省する。しかしウソとわかって黙っているわけにはいかない。孔子の『論語』に、「過ちを改むるに憚ることなかれ」という言葉がある。この言葉通り、過ちを認めて「原発ゼロ」にしないといかんと切り替えた。

──原発をなくして、経済は発展しますか。
 発展する。原発ゼロで日本は困らない、むしろ発展できる。日本は太陽光や風力、水力、地熱といった自然エネルギーに恵まれている。今は蓄電技術が発達して、すでに日本は水力発電を加えた自然エネルギーの割合は15%近くにまでなっている。これは原発15基分の発電量に相当する。
 これからどんどん自然エネルギーに参入する企業が増えればコストも安くなり、地産地消が進んで地域も発展する。自然エネルギーで安心して経済成長できる社会を作り上げれば、必ず世界が見習う。そうすれば世界をリードできる。
 原発は逆だね。原発1基つくるのに、事故前は5千億円近くかかるといわれていたが、今は安全対策も厳重にしないといけない。新設したら1兆円以上かかるという。しかも原発は「トイレなきマンション」といわれるように、日本には核のごみの処分場がない。

(編集部・野村昌二)

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