[2019_05_20_02]温暖化対策戦略 原発依存が強まらないか(西日本新聞2019年5月20日)
 
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温暖化対策戦略 原発依存が強まらないか

 国際社会が協力して地球温暖化対策に取り組むパリ協定の適用が始まる2020年に向け、政府が長期戦略案をまとめた。
 協定は長期戦略の策定を各国に求めている。政府案は今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「脱炭素社会」の実現を目標に掲げた。産業革命前と比べた気温上昇をできれば1・5度に抑えるという協定の目標の実現に向けて、貢献していくことも明記された。
 協定の理念を形にすることに、もちろん異存はない。だが、実現への道筋はあいまいで、実効性には不安がある。
 政府の戦略案は再生可能エネルギーの主力電源化を目指す。発電効率の抜本的向上や高性能で低価格な蓄電池の開発といった、イノベーション(技術革新)が求められる難しい課題に正面から取り組むという。
 イノベーションの創出に不可欠な人材育成と研究環境の整備を急ぐ必要がある。併せて、現在の技術を前提とした温暖化対策にも知恵を絞る必要があろう。不確定な「未来の技術」に対する過度な期待は禁物だ。
 石炭火力発電については、「依存度を可能な限り引き下げる」と記すにとどめ、欧州を中心に広がる「脱石炭」にかじを切るまでには至らなかった。
 炭素税や二酸化炭素(CO2)排出量取引など課金によって抑制を促す「カーボンプライシング」を導入する国もあるが、戦略案は「専門的・技術的な議論が必要」と記しただけだった。
 政府は、6月に大阪市で開く20カ国・地域(G20)首脳会合までに戦略を決定するという。温暖化対策に対する姿勢をアピールする狙いがあるようだが、国際的評価を期待するには、消極的内容ではないか。
 原子力発電の位置付けにも、首をひねらざるを得ない。
 「可能な限り原発依存度を低減する」という、福島第1原発事故後の国是とも言える政府方針は、戦略案でもビジョンとして堅持されてはいる。
 一方、そのための対策・施策については、安全確保を大前提としつつも、再稼働や核燃料サイクルなどを推進する方向性を示している。しかも「原子力関連技術のイノベーションを促進するという観点が重要」として、小型モジュール炉や溶融塩炉などの具体例を挙げている。
 原発依存度の低減にかける政府の意欲が、どこまで本気なのか疑われても仕方あるまい。
 確かに火力発電など電力部門で排出されるCO2量は全体の4割に上る。とはいえ、温暖化対策が原発政策推進の口実とされてはならない。あくまで再生可能エネルギーの開発と普及を軸に「脱炭素」を急ぐべきだ。
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