[2019_06_15_03]「故郷に帰ろう」も利権です 「帰れ!コール」している町長たちは他所に家を建てている 死者や病人は増え続けても「放射能怖くないキャンペーン」 木幡ますみさんが語る「被ばく地福島」の現実はあまりに酷い 渡辺寿子(原発いらない!ちば)(たんぽぽ舎2019年6月15日) |
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5月12日、福島県の大熊町の議員で、「大熊町の明日を考える女性の会」代表の木幡ますみさんのお話を聞く、励ます会がありました。 木幡さんが語った「被ばく地福島」の中の数々の現実は、どれも東電と国が引き起こした原発事故がもたらした、人々の生活破壊の無残さを余すところなく表していました。 そのような生活破壊を引き起こした張本人である国が被災者、避難者の救済をせず、むしろさらなる苦しみを与えている実態を知り、国、特に安倍政権がおこなっている政治に対し、激しい怒りを覚えました。 また3.11という未曽有の大原発震災に人々が苦しんでいるのに、火事場泥棒的に金儲けに走る醜い人間の姿も現実として突きつけられました。 東海第二原発が万一再稼働して事故を起こしたら今日の福島の姿は明日のわが身です。 以下、木幡ますみさんのお話のいくつかを紹介し、原発事故と政治について、読者と一緒に深く考えてみたいと思います。 1.「帰ろう!コール」の大合唱 木幡ますみさんが住んで、町議として活動してきた大熊町は、4月10日原発立地自治体として初めて避難指示が解除されました(大熊町全体ではなく、町の4割ほどです)。 今、町を挙げて大熊町に帰還する運動が活発にになっています。 大熊町は震災後西に90キロ離れた会津若松市に仮庁舎を置いていましたが、大熊町大川原地区に建設していた新庁舎が完成し、5月7日から業務を開始しました。 議場や各部署からなる庁舎棟の他、災害対策会議室や防災倉庫を持つ防災・災害対策機能棟を備える大変立派な町役場ができたというのに、肝心の住民は殆ど町に戻ってきていません。 3月末時点で解除地域には138世帯367人が住民登録していますが、これまでに帰還している人は少ないと報道されています。 解除前の4月1日時点で大熊町の避難者数は約1万300人に上っています。 2.高線量の所に帰すとは人体実験だ! 故郷に帰らない理由の第一はやはり放射能問題です。大熊町は山林が多いのに、山林は除染していません(除染は不可能)。また現在の除染は土壌の天地をひっくり返すだけなので、本当には放射能は下がりません。除染すると一時的に線量は下がりますが、すぐに線量は高くなってしまいます。避難した地元の人は「除染されていなく線量が高いのに、なんで帰らなくちゃいけないのか。自分たちはモルモットなのか」と怒っています。 3.「帰ろう!運動」をしている連中が他所に家を建てている 大熊町から事故後避難した沢山の人はもう大熊町に帰るつもりはありません。「帰ろう」といっている町長や役場の人たちもすでに他の場所に家を建てたりしています。 「大熊町に帰ろう」と大げさにいっている人はお金が欲しいんです。中間貯蔵施設の誘致を進めている人たちもそれがお金になるからです。だから「故郷に帰ろう」も利権です。 4.「除染御殿」と「空き家の住人」 事故当初は東京電力の内部事業として除染業務がありました。それが今は東京電力ではなく、除染会社として独立して除染業務を行っています。 こうしたゼネコンが除染業務を大熊町の小さな会社に下請けさせます。そうした小さな業者は「われこそは」という勢いで除染業務を受けています。 「いまこそ儲けんだー!」って感じです。こうした大熊町の除染業者は「除染御殿」をいわき市などに建てています。 富岡町にもそういう業者がいて同じような「除染御殿」を建てています。 驚き、あきれたことに、そうした除染業務を請け負うゼネコンの株を福島第一原発事故を引き起こした張本人である東電元会長の勝俣恒久などが保有し、財務大臣の麻生太郎も除染事業を請け負っている清水建設や鹿島建設の株を買ったという話も聞きました。 木幡さんのこの話を聞いて、「焼け太り」や「火事場泥棒」などという言葉すら生易しく思える、儲けのためなら恥も外聞もない金の亡者の姿を見ました。 そして東京新聞の痛快なコラム「おじさん図鑑」に載っていた面白い話を思い出しました。東京新聞には無断で申し訳ありませんが、ここから一部引用させていただきます。 「『廉恥』とは心が清らかで恥ずべきを知っていること。逆に、恥知らずで不正を働いてもへっちゃらな人間を『破廉恥』という。いま『廉恥』を忘れ去り、『破廉恥』が世を席巻している。悪事を働いても、不正に加担しても、恬として恥じない。格差社会でトップクラスにいながら己の強欲をむき出しにしてはばからない。いちいち具体例を挙げないが、あの人間のことかと察しがつくはず。 『廉恥』を世の中に復活させるためには、恥を知る人々が『破廉恥』な人間をレンチで締め上げる必要がある。」一部引用おわり。 最後の痛快な「落ち」がなんとも効いていますが、さてレンチで締め上げるということは、世論の圧力で傲慢な彼らに鉄槌を下し、権力の座から引きずり下ろすことを意味しているのでしょう。 被災という他人の不幸を踏み台にして、恥ずかしげもなく荒稼ぎをしている人間がいる一方、現場で働く作業員はピンハネされて、ひどい低賃金で働かされています。 そのことは木幡さんが大熊町のわが家に一時帰宅するとわかります。自由に出入りができる隠居部屋の方を誰かが使っている形跡があるのです。 木幡さんの家は、原発から7キロしか離れていなく、線量がとても高い。家の中でさえ5マイクロシーベルトもあります。しかも家の中は、ネズミの糞や死骸が散らばっているいるような状態です。 おそらく他所からやってきて低賃金で働かされている除染作業員たちが少しでもお金を使わないようにと、除染現場の空き家に泊まっているようなのです。木幡さんがこうした実家の様子に気づいたのは2014年の春ごろからだということです。 「他人の家を勝手に使うのを私はだめだと言いたいわけではありません。そんなことより、その人たちが可哀そうすぎて悲しいです」との木幡ますみさんの言葉にこちらも胸が痛みます。 5.故郷で待ち受ける過酷な税金地獄 「帰ってこいよ。故郷は待っている」との甘い言葉につられて帰ってみたら、そこで待ち受けているのは過酷な生活です。どうやって仕事を見つけ、生活していけばよいのか、国や県は何も援助の手をさしのべず、ただ帰れ帰れというばかりです。 帰る人は殆ど高齢者で、おまけに農業をやっていた人が多く、自営業ということで月額6万円くらいの国民年金しか受けとれません。 そんな人たちに対しこれまで免除されていた固定資産税などの税金をこれからは払えとの非情な税金取り立ての地獄が待っているのです。 一体どうやって生活していけばよいのかと帰った高齢者たちは嘆くばかりです。ここにもトランプの言うがままに法外な値段の兵器を買うために税金を湯水のごとく使うのに、国が引き起こした福島第一原発事故の被害者、被災者を救済するのに税金を使わない非情、過酷な現政権のありようが如実に現れています。 6.命令(避難解除指示)に従わぬ町には金を出さぬ 今回の大熊町の一部に対する避難解除指示については、利権第一のひどい町長はともかく、町会議員には解除はまだ早いんじゃないのという者も多かったと木幡さんはいいました。 しかし、国のこの避難解除指示は全くの命令であって、もしこの命令に従わなければ国から大熊町に一切お金が下りてこないように国は仕組んでいるのです。 そうなれば町の財政がまだ独立して成り立っていないので、現在の医療費無料制度も続けられなくなるそうです。背に腹は代えられず国の命令に従わざるを得なかったということです。 国は、東京五輪を控え、福島復興を住民の健康を犠牲にしてアピールするということです。 7.福島県、デブリ取出しに備え監視強化 県独自に中性子線観測体制整備方針 4月4日付福島民報は、一面トップで「廃炉の監視態勢強化 県独自に中性子線観測 第一原発敷地外」と報じました。 これは東京電力が格納容器のデブリ取出しを2021年開始を目指しているといわれる中で、そのような事態に備え、変動する可能性がある放射線の監視態勢を強化するということです。新聞記事によると、再臨界が起きた際に出る中性子線を迅速に察知するため、検出器を原発敷地外の3カ所に設置するとしています。 格納容器のデブリ取出しは世界に例のない困難な作業となると福島民報も書いています。 東電株主訴訟の木村結さんもたんぽぽ舎副代表の山崎久隆さんも作業員と近隣住民の被ばくだけでなく、どんな危険な恐ろしい事態が起きるか予測もつかないデブリ取出しは絶対止めるべきと強く訴えています。 小出裕章さんも山崎さんと同じく以前からデブリ取出しは止めて、チェルノブイリ原発のように当面は石棺で覆っておくしかないと提案しています。 東電にデブリ取出しは止めるよう訴えていきましょう。 福島県当局ですらある程度危機感を持っているのに、復興五輪をアピールするために、現在「放射能怖くない」キャンペーンがお金(税金?)を使って大々的にやられているのは許せません。(了) (「原発いらない!ちばネットワークニュース」 2019年6月号より了承を得て転載) |
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