[2019_08_09_04]事前に察知できなかった小惑星の接近(島村英紀2019年8月9日)
 
参照元
事前に察知できなかった小惑星の接近

 暑い夏なので怪談をひとつ。小惑星「2019 OK」が地球をかすめた。地球に落ちたら大惨事になったはずだ。7月25日に月までの距離の5分の1以下という近距離を通ったのだ。
 小さいとはいえ、小惑星の衝突の威力は大量の核兵器にも匹敵し、大きな都市でも破壊する。
 今回、地球をかすめた小惑星の直径は130メートルだった。1908年にはこの小惑星よりも小さな直径約60メートルの小惑星がシベリアのツングースカに落ち、人類史上最大の事故になった。大地震の比ではない。ニューヨーク市の2倍近い広さの地域で木々が倒れ、東京23区と同じくらいの広さで被害が出た。
 じつは、6月30日は「小惑星の日」だった。ロシアのニュース局「ロシア・トゥデイ」が発表したリストには、地球にとって潜在的な危険性をもつ全863の宇宙物体が記載されている。
 だが、「2019 OK」はこのリストにはなかった。問題はこの小惑星が事前には分からなかったことだ。
 ブラジルと米国の研究チームが接近に気付いたのは、ほんの数日前のことだった。「2019 OK」は地球に向かって、時速約9万キロという途方もないスピードで迫っていた。
 米国では2005年、連邦議会が米国航空宇宙局(NASA)に対し、2020年までに直径140メートル以上の地球に接近する小惑星の90%を追跡するよう指示した。だが、直径数十メートル以上の天体は、地球に接近する可能性があるものだけで100万個もある。そのうち発見されているのは1万個ほどにしかすぎない。
 欧州宇宙機関や国際小惑星警報ネットワークなどの国際組織も協力しているが、能力には限界がある。
 小さな小惑星に目を光らせておくのは難しい。どちらから飛んでくるか分からないのに、正しい時間に正しい方向へ望遠鏡を向けるしかないからだ。小惑星は自分では光らないので、反射する太陽光を検出することによって初めて見える。だが、小惑星が小さければ小さいほど、その反射はかすかで見つけにくい。
 科学者にも言い分がある。「2019 OK」は比較的大きさが小さく、軌道も通常と異なり、速度が非常に速かったので発見が難しかったという。
 いままでは、地上に設置された望遠鏡で小惑星の監視が行われてきている。
 しかしNASAによると、2021年に人工衛星に搭載する「地球近傍天体カメラ」の打ち上げを計画している。これは小惑星を発見するために特別に設計された赤外線宇宙望遠鏡だ。より早期に小惑星を発見できるという。
 分かっているものでは直径900メートルの小惑星「1979XB」は、毎秒30キロで近づいていて、最接近するのは2024年。またサッカー場4つ分の大きさの巨大な小惑星「アポフィス」は、2029年に近づく。
 さて、NASAの「地球近傍天体カメラ」が今度の衝突までに間に合えばいいのだが。
「島村英紀が書いた『夕刊フジ』のコラム」より8月9日の記事)

KEY_WORD:_: