[2019_09_13_04]世界一高い山はエベレストではない!?(島村英紀2019年9月13日)
 
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世界一高い山はエベレストではない!?

 世界一高い山はエベレストだと思っている人がほとんどだろう。
 エベレストはネパールと中国との国境にあり、標高は8848メートル。たしかに、地図上の「標高」は世界一だ。1953年に初登頂されて以来、多くの登山者が登頂を目指していて、近年は、狭い道で行きかえなくてラッシュになるほどだ。
 だが、「地球の中心からの距離」でいえば、じつはエベレストよりも高い山がある。南米にあるチンボラソ火山だ。アンデス山脈の高山のひとつで、エクアドルの最高峰で国旗にも描かれている。「青い雪」を意味する。聞いたことがない名前かもしれない。
 地図上の標高は6268メートルだが、地球の中心からの距離は6384.4キロ、エベレストが6382.3キロだから、チンボラソの方が約2100メートルも高い。
 これは緯度のせいだ。エベレストの緯度は北緯度28度、チンボラソは赤道直下にあって緯度は南緯1度である。
 地球は丸いと思われているが、じつはカボチャ型で、遠心力で赤道付近が出っ張っている。
 地震や火山活動を起こすプレートは地球全体をおおっている。その厚さは場所によるが30〜150キロほどだ。プレートは地球でいちばん硬いところで、その中はずっと柔らかい。地震も火山活動も、このプレートの硬さが起こしている。
 地球は1日に1回転している。遅いようだが、赤道付近で時速1700キロ。ジェット機よりもずっと速い。この回転による遠心力で地球がカボチャ型に出っ張っているのである。
 その出っ張りは全体の300分の1。これは地球全体が液体だとしたときの出っ張りに近い。つまり、表面にあるプレート以外のほとんどは、地球はごく柔らかいのだ。
 厳密に言えば、地球の自転はだんだん遅くなっているので、地球カボチャは少し前の自転速度に応じた形になっている。地球は図体が大きいので反応が遅れるのだ。
 昔の時計は振り子を振らせる機構だった。地球上の場所によって重力が違うのが分かったのは、17世紀にパリから南米ギアナに持ってきた振り子時計が1日に2分も遅れることが発見されたときだった。同じ振り子でも重力が小さいところではゆっくり振れる。地球カボチャの出っ張っているところでは重力が小さく、振り子時計が遅れるのだ。
 赤道の近くでは、すべてのものが0.5パーセントほど軽くなる。60キロの体重だと300グラムほどの違いだ。ダイエットに励んでいる人たちにとっては無視できない重さの違いかもしれない。
 チンボラソは19世紀初頭まで、地球で一番高い山だと考えられていて、多くの登山家が登頂に挑戦した。
 エベレストは、1954年にはじめて正確に計られて、世界一だということがわかった。これはインド測量局が周辺12ヶ所で測り、結果を平均して8848メートルという数値を得たものだ。
 インドプレートが南から押してきているために年々高くなっているから、これからも少しずつ高くなるに違いない。

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