[2021_02_18_02]原発避難道へ拡幅か、景観保全か 限界集落住民「大きな道は必要なのか」(京都新聞2021年2月18日)
 
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原発避難道へ拡幅か、景観保全か 限界集落住民「大きな道は必要なのか」

 京都府綾部市東部の山間部、老富町の大唐内集落を縦断する府道老富舞鶴線の拡幅を巡り、行政と住民の意見が分かれている。主要道につながる唯一の道は、原発事故時の避難道として整備予算が充てられ、測量が進められている。ただ、限界集落「水源の里」振興の発端となった地域も含まれ、過疎高齢化が著しい。拡幅より景観を守るべきとの声も根強い。
 大唐内は市中心部から車で50分近くかかる。生活道の老富舞鶴線の道幅は、車がぎりぎりすれ違える狭さだ。福井県おおい町と隣接し、関西電力高浜原発から10キロほどの距離。府は、原子力災害時避難路整備事業として、片側1車線の拡幅へ調査を進めている。
 「すれ違う車もほとんどない、小さな集落。大きな道は必要なのか」と陶芸家のトレーシー・グラスさん(59)は反対する。大唐内ではこれまでも府道拡幅と橋の改修が行われ、集落を貫く川が濁った。30年以上前、自然にひかれて移住しただけに、「将来の移住者を考えれば、魅力である風土を失ってからでは遅い」と考える。
 市東部の交通は福井県境から山家地域につながる小浜綾部線が主要道。その拡幅整備は27・9キロ中20・2キロまで完了(1月現在)したが、奥上林を中心とした残り区間の事業は継続中だ。各集落につながる枝葉の道の整備までは、なかなか予算が回らなかった。
 東日本大震災以降に経済産業省の原子力防災の補助対象が拡充されると、府は緊急防護措置区域(UPZ)に入る舞鶴、綾部の道路整備に充て、綾部では老富舞鶴線など東部5路線の整備に活用。老富以外の工事は進行中または完了している。府中丹東土木事務所は「府の単独事業では整備しきれない道路に手を入れられる機会。補助メニューを最大限生かす」としている。
 長く水源の里の振興に携わった酒井聖義さん(93)も、小集落に見合わない整備と感じている。「この奥に行っても数軒しかない。今更大きくしても使う人がいない。それなら府道1号(小浜綾部線)の工事を進めてもらったほうが…」と複雑な心境を語る。
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