[2021_05_17_01]<さまよう避難計画 東海第二原発運転差し止め判決>(1)達成困難 94万人の安全どう確保(東京新聞2021年5月17日)
 
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<さまよう避難計画 東海第二原発運転差し止め判決>(1)達成困難 94万人の安全どう確保

 「判決では、避難計画の内容が重要だと指摘されたので、中身が伴わないといけない。策定にはまだまだ時間がかかる」
 日本原子力発電東海第二原発(東海村)の三十キロ圏内で避難計画策定が義務付けられる自治体のある首長は、そうため息をついた。
 再稼働に向けた工事が進められる東海第二を巡り、住民ら二百二十四人が運転の差し止めを求めた訴訟で、水戸地裁は三月十八日、避難計画の不備などを理由に「人格権侵害の具体的危険がある」として、運転差し止めを命じた。
 東海第二の三十キロ圏には、全国の原発で最多の約九十四万人が生活する。判決文を読み解くと、前田英子裁判長が、この九十四万人の安全を確保できる実効性ある避難計画ができるのか懐疑的な見方をしていることが分かる。
 「数万ないし数十万の住民が一定の時間内に避難することはそれ自体が相当に困難が伴う」
 「放射性物質の生命、身体に対する深刻な影響に照らせば、何らかの避難計画が策定されていればよいというわけではない」
 「防護措置が実現可能な避難計画と、これを実行しうる体制が整えられているというにはほど遠い」

■ 30キロ圏内

 そもそも、原発事故の避難計画が自治体に義務付けられるのは、原子力災害対策特別措置法や、台風や地震などと同様に災害対策基本法が根拠となる。
 計画には避難先や交通手段、ルートなどが記載。例えば、常陸太田市の計画を見ると、佐竹地区の住民は国道349号を通り、福島県鏡石町の体育館などに行くことが示されている。
 原発事故の避難計画を策定する自治体の範囲は二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故前は、原発から八?十キロ圏内だったが、事故で広範囲に放射性物質が飛散した反省を踏まえ、原子力規制委員会の原子力災害対策指針で三十キロ圏内に広げられた。
 これにより東海第二の避難計画の対象人口が九十四万人まで膨れあがることになった。東海第二の三十キロ圏内十四市町村のうち、不十分ではあるものの計画を策定したのは笠間、常陸太田、常陸大宮、鉾田、大子の五市町にとどまる。
 規制委の新規制基準の審査に適合した九原発で、未策定の自治体があるのは東海第二だけ。多くの人口を抱えるだけに、避難用のバスの確保や渋滞対策、地震などが同時に発生する複合災害の対応など課題も多岐にわたり、計画作りが難航している。

■ 追認機関

 避難計画を作る自治体を支援するのは内閣府。避難計画に「実効性がある」とお墨付きを与えるのは、内閣府が事務局を担い、首相が議長を務める原子力防災会議だ。第三者が客観的にチェックするような構図にはなっていない。
 事故後に再稼働した五原発では、避難計画の実効性に疑問符が付けられながら、原子力防災会議は追認機関の役割でしかなく、なし崩し的に了承してきた。
 東海第二でも、実効性があやふやなまま認められる恐れもある。だが、そこは他原発と異なり、水戸地裁判決が大きな歯止めになる。判決は「避難人口に照らすと、今後、避難計画の防護レベルを達成することも相当困難と考えられる」と指摘した。
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 原電に東海第二の運転の差し止めを命じた水戸地裁判決から十八日で二カ月。判決は「実効的な避難計画を策定できるか疑問がある」と問題提起した。住民の生命と財産を守る避難計画の策定は可能なのか。四回にわたって検証する。
(この連載は松村真一郎が担当します)
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