[2021_05_23_01]北朝鮮の「航空機による原発衝突」攻撃に言及したのは誰か(ハンギョレ新聞2021年5月23日)
 
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北朝鮮の「航空機による原発衝突」攻撃に言及したのは誰か

朝鮮日報「1000万年に1度の出来事で言いがかり」 野党「原安委が『脱原発』意識して新ハヌルの運営を遅らせている」 実は野党推薦の専門家が衝突問題を積極的に提起
 原子力安全委員会(原安委)が新ハヌル原発1号機の運営許可に向けた本格審議を前に事前検討を進めている中、野党や保守系メディアが「故意の許可遅延」「言いがかり」などと主張し、物議を醸しています。
 新ハヌル1号機は、韓国水力原子力(韓水原)が慶尚北道蔚珍(ウルチン)に建設した設備容量1.4ギガワットの韓国型軽水炉原発で、昨年4月に事実上施工が終わっており、現在は試運転に向けた運営許可手続きを踏んでいるところです。今は、韓国原子力安全技術院(KINS)が昨年11月に提出した運営許可審査報告書を原安委が検討している段階です。審査報告書の検討が終わると、ようやく正式な議決案件として上程され、処理されます。
 19日付「朝鮮日報」の1面によると、原安委が新ハヌル1号機に航空機が事故で墜落したり故意に衝突したりした場合の対策を確認しようとしていることについて、国民の力は「現政権の脱原発基調を意識して、故意に運営許可を遅延させている」と考えているようです。朝鮮日報は自らも「1000万年に1度の出来事にまで言いがかりをつける原安委」と述べ、「言いがかり」と規定しています。20日には「世界日報」と「毎日経済」も「脱原発の顔色を伺う」「悪意ある妨害」と表現し、これに肩入れしています。
 今月14日に開かれた原安委において、1000万年に1度とされる航空機の墜落事故の確率が扱われ、事故ではなく故意の衝突と攻撃行為への対策が問われたのは事実です。しかし、これは「言いがかり」としてのみ考えるべきことなのでしょうか?
 原安委の委員は、みなが原子力の専門家というわけではありません。現在、充て職である委員長と事務処長を除いた与野党の推薦による7人の非常任委員のうち、原子力専攻者は1人だけです。残りは弁護士、医師、行政学の教授などです。原安委はその代わり、さまざまな原子力分野の専門家で構成される専門委員会を設置しています。原安委員は彼らの支援を受け、専門家には当たり前すぎて逆に見逃しうる部分を一般市民の視点から検討します。要するに、航空機が衝突しても安全が保たれるように原発が建設されているのかを問うのは、原安委員の役割なのです。
 朝鮮日報は、20日には「韓国で雷に打たれる確率は600万分の1だ。このように世の中を恐れていて、どのように外を出歩けるのか分からない」と述べ、1000万分の1の事故確率を問うことを風刺した社内コラムを掲載しています。しかし落雷による被害と原発への航空機の落下による放射能災害の被害は、次元が異なります。
 1000万年に1度、つまり1年に1000万分の1の確率で起こるとする原発の航空機災害度は、原安委員が作り出したものではなくKINSが決めたものです。KINSは、「軽水炉型原発安全審査指針」の第3.5.1.6節において、「10のマイナス7乗/年以上の発生確率」を航空機災害度の基準として示しました。最寄りの空港との距離、航路などを考慮して、航空機が事故で原発に落ちる確率が1000万年に1度以上と計算されれば、設計に反映せよということです。
 この問題は、今年1月8日に開かれた第131回原安委ですでに問題となっていた問題です。KINSによる運営許可審査の過程において、原発近隣の竹辺(チュクピョン)の非常滑走路などを考慮すれば、航空機災害の確率は1000万年に1回ではなく2.47回であるにもかかわらず、設計に反映されていないことが確認されたからです。原安委員の追及に対してKINSは、安全審査指針の「10のマイナス7乗」という表現は、「10のマイナス7乗程度」となっている米国原子力規制委員会(NRC)の標準審査指針をそのまま持ってきて、「程度」を落としたものだと説明しました。1000万年に2.47回は、米国NRCが解釈する「程度」の範囲内(0.5〜5回)であり、韓水原が設計にこれを反映させなかったことは問題ないとする説明でした。原安委員が米国NRCの公式答弁資料などの具体的な根拠の提示を求めると、KINSは後に改めて報告するとしました。
 この問題が4カ月が過ぎた今月14日に再び論議されたのは、KINSのこの件に関する報告が遅れたからです。原安委員が遅延させたのではないということです。しかし同日の会議でも、原安委員が要求していたNRCの公式答弁資料のような明確な根拠は提出されませんでした。KINSは「2016年に米国でNRCと会議を行った際、(程度の範囲は「0.5〜5」だとの)説明を口頭で受けたため、文書は残っていない」とし、その会議の出張報告書と、米国における1000万年に2.59回の航空機災害度を原発設計に反映していない実際の例を提示したにとどまっています。
 14日の原安委においてある委員が集中的に提起した原発に対する意図的攻撃の問題も、「言いがかり」と規定してしまうべき問題なのかは疑問です。意図的な攻撃は長い間、原発の設計において考慮されていませんでした。意図的な破壊行為まで考慮して経済性のある原発を建てるのは現実的に不可能だからです。よって、この部分は設計ではなく、重要保安施設を守る防護領域の問題として残されてきました。
 しかし想像を絶する9・11テロは、こうした考え方にも一部変化をもたらしました。米国は2009年から、大型航空機そのものを爆弾として用いるかたちの意図的な衝突を設計に反映することを決めており、韓国も遅ればせながら2016年から米国に倣っています。新ハヌル1号機は、この規定が義務化される前の2012年に建設許可が下りました。したがって故意的な航空機の衝突にどのような備えをしているかは、問わなければならない問題なのです。
 原安委による新ハヌル1号機の運営許可審議に向けた検討は、昨年11月にKINSが運営許可審査報告書を提出してから6カ月間続いています。報告書の提出から14日までに計11回の委員会が開かれています。特に報告もなく、即時審議案件として上程し許可していた過去を思い浮かべる原子力界の立場からすれば、もどかしいことでしょう。しかし2011年の福島第一原発事故以降、運営許可が下りるまでの期間は長期化し続けています。
 2011年の原安委発足以降に運営許可が下りた5基の原発の運営許可議決前の審議・報告の回数を見ると、新古里(シンゴリ)2号機と新月城(シンウォルソン)1号機(2011年許可)が各1回、新古里3号機(2014年許可)が5回、新月城2号機(2015年許可)が6回、新古里4号機(2019年許可)が8回となっています。こうした趨勢を考えれば、新ハヌル1号機の運営許可に関する原安委の報告が11回も行われていることも、異例だとばかりは言えないでしょう。
 原安委の7人の非常任委員は、政府が推薦した3人、与野党がそれぞれ2人ずつ推薦した4人で構成されることになっています。7人中5人が政府与党から推薦された人物だという説明を聞くと、原安委が政府の脱原発基調を意識して故意に運営許可を遅延させているという主張も、一層もっともらしく聞こえるかもしれません。
 しかし、原安委において北朝鮮による攻撃の可能性にまで言及し、航空機の故意の衝突問題を積極的に提起している委員は、国民の力の前身である自由韓国党が推薦したイ・ビョンリョン委員です。非常任の委員の中で唯一の原子力工学の専攻者がイ委員です。韓国原子力研究院で韓国型原子炉開発の責任を担ったイ委員は、政府の脱原発基調を意識するどころか、脱原発への反対の立場を明確にしてきた原子力工学の重鎮です。

キム・ジョンス先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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