[2021_06_01_01]福島第一原発の現状 デブリ取り出しどころではない危険な現状 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年6月1日)
 
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福島第一原発の現状 デブリ取り出しどころではない危険な現状 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◎コンテナ中味不明4011基

 福島第一原発では事故直後、大量の放射性物質に汚染された瓦礫が発生した。
 さらに、フィルターや吸着剤、防護服や装備品などの汚染物も大量に発生し、それらは敷地内のコンテナ等に収納されて保管されてきた…と誰もが思っていた。
 しかし実態は、「保管」とはほど遠く、放置された状態にあり、10年あまり経た今、大変な危険物として人々の前に立ちはだかっている。
 国(責任省庁は内閣府、廃炉支援機構や経産省や環境省等)や東電は、既に敷地の大部分は防護服も全面マスクも要らない「清浄化されたエリア」などと宣伝し、年間1万人以上の見学者を受け入れ、安全性をアピールしているが、見学者を決して案内しないエリアがある。それは廃棄物を保管しているエリアである。
 東電によると、保管エリアにあるコンテナはおよそ8万5千基、そのうちシステムで管理されるようになった2017年11月(事故から6年半後と恐ろしく最近だ)以前に瓦礫など不燃物を収容していた4011基について、内容物の把握すらしていなかったことが明らかになった。
 その理由は「2012年4月から2017年11月の間においては、保管記録(紙ベース)が、コンテナの番号と、内容物をひもづける運用としていなかったこと、事故以降、2012年3月の間においては、帳票類での管理を行っていなかったこと」(東電が市民に対して文書で回答した内容)だとされる。しかしこれでは理由すらならない。

◎漏えい物はストロンチウムなどに汚染

 今年3月26日、このコンテナのうち1基が腐食し、内容物が漏れ出しているのが発見された。
 おそらく、2月13日の地震でコンテナが崩落したため、点検をしていて気づいたのであろう。地震が起きていなければ未だに気づいていない恐れがあった。
 このコンテナからは、ゲル状物質が漏れ出し、コンテナの下に溜まっていたという。地面に落ちてから雨に打たれ、排水路から海に流出した。
 その量について東電は「漏えいした分の最大値を16億ベクレルと見積もった場合、排水濃度限度の1リットル当たり30ベクレルを下回る」「腐食したコンテナ内には、原発事故後に使ったビニール袋入りの吸水シートや湿った布などが積まれていた。
 重みで袋の縛り口から汚染された水が漏れたとみられ、腐食は外側と内側の両方から進んでいた。」(河北新報5月21日)
 事故時の汚染水を吸い取っていた。そこにはセシウム、ストロンチウムなどの放射性物質が大量に含まれており、表面線量は現在でも160ミリシーベルト/時に達するという。
 東電が「環境に影響なし」とする根拠も、結論ありきのものだ。
 総量が16億ベクレルの根拠も薄弱だし、そもそも何時から漏れ出していたのかすら把握が出来ていない。
 すなわち漏えい総量も混ざって流れた(溶けたと断定も出来ない)水の量もわからないのに、法令規準である「1リットル当たり30ベクレル」を満たすかどうかも判断できない。
 福島第一原発の敷地は、管理下にあるどころか、どのような汚染がどこに潜んでいるかすら、未だに把握できない危険地帯だ。

◎もう一つの汚染水問題

 タンクに溜まり続ける汚染水の海洋放出に大きな関心が集まっている。
 しかしタンクには行かない汚染水も、こうして敷地内には随所に存在し、敷地境界を越えて汚染は広がっている。
 雨が降るたびに、膨大な量の雨水が地表や瓦礫からの汚染物を巻き込んで海に流れている。その量は誰も知らないし、東電は明確にしようとさえしていない。
 今回発見されたコンテナの腐食は、氷山の一角に過ぎない。
 福島第一原発の敷地は広大な面積を有する。そのうちテレビなどでよく見る映像は、全体の半分以下である。
 「タンクエリア」とは敷地の一角、ごく一部だ。最も広いのは、7・8号機を増設するために双葉町側に拡張したエリア。
 現在はコンテナや瓦礫、撤去した土壌や汚染された機械類が所狭しと置かれている。これらは事実上何の対策も取られていない。
 コンテナは野積みで、地震で崩落する体たらく、瓦礫を覆うテントは台風が襲えば破損するだろう。このエリアは空間線量も高いため、長時間作業することは困難だ。
 この区域を放置したままタンクエリアが危険だの、廃炉の邪魔になるだの、度しがたいほど無茶苦茶な主張を国も東電もしている。
 人を騙すのもいい加減にして欲しい。
 この区域の汚染物、特に減容化が比較的容易な防護服類などを処理し、瓦礫類は汚染が拡大しないようにモルタル固化し、敷地の地下に仮埋設するべきだ。
 土捨て場の土砂は、汚染がないのならば敷地外に出すべきであり、汚染があるのならば廃棄物として処分すべきだ。
 そうして空いた広大な土地に、汚染水を長期保管できる恒設タンクを地下式で建設し、現在のタンクエリアから水を移せば良い。
 これだけのことを全力を挙げて、ゼネコンなどの原子力産業界を動員してでも直ぐにすべきである。
 そうしないと、誰も管理していない汚染水は、雨が降る都度に海に流れていく。それが食物連鎖を通じて私たちにもいずれは到達する。

◎国際問題化する汚染水

 中国や韓国などが日本の魚介類を輸入禁止にしている理由は、日本政府や東電の言っていることが片っ端からウソであることがばれているからだ。
 こんな嘘つき達の言い分を真に受けて、自国民に放射性物質の入った食品を食べさせるわけにはいかないとする国に、抗議だとか反論などはするべきでもないし、しても意味がない。却って主権を侵すと非難されるだけである。
 日本の問題点は、自国の政権に都合の悪いことは、官僚も政治家も平気でウソをつくことだ。(森友、加計、河合、次々に出現し枚挙にいとま無し)
 失敗や誤解、政策の誤りは何処の国でも誰でも起こす。それを率直に認め、謝罪し、人の意見を謙虚に聞き、十分な対策を講じる。
 これを繰り返すことでしか信頼を得られる道はない。
 福島第一原発については、日本政府も東電も、事故を起こしてしまった時点で重大なウソをついてきたことがばれてしまった。
 それは「安全神話」とひとくくりにされているが、それもおかしなことだ。
 問題点を細かく分析し、それぞれについて責任があるものを特定し、そうなってしまった原因を追及して対策(再発防止)を図る。
 これが原則だが、やったことと言ったら原子力安全委員会を原子力規制委員会に変えた程度。法令も変わったが、再稼働に向けて新規制基準を作って地震や津波などへの対策を明確化した程度。
 安全神話を構築し、人をだまし、ウソにウソを重ねて原発震災を引き起こした責任者は特定されていないし、その責任も問われていない。(福島事故の責任を追及されて辞任したり免職になったり刑事訴追を受けた官僚は誰一人いない。)そして対策も不十分だ。
 そのため事故後の対応も福島第一原発の後始末にも誰も責任を負っていない。これが海外から見て良く分かるから厳しく批判されるのである。
 韓国や中国は日本を叩く材料にしているのだとか、彼らは実態、実情を知らないからだという反論にすらならない批判をしている人たちは、今回の汚染コンテナ問題1つが、どれだけ国際批判を浴びるかをよく考えるべきだろう。
             (初出:5/28たんぽぽ舎「金曜ビラ」)

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