[2021_06_12_02]拠点外の方針明示を 与党幹部に自宅を公開【復興を問う 帰還困難の地】(83)(福島民報2021年6月12日)
 
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拠点外の方針明示を 与党幹部に自宅を公開【復興を問う 帰還困難の地】(83)

 福島県大熊町大川原地区の町役場町長室で、吉田淳町長(65)は写真を手にした。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の発生から三年が過ぎた二〇一四(平成二十六)年に、記録用として自宅を撮影したものだ。
 自宅がある大熊町熊字新町は、帰還困難区域の特定復興再生拠点区域(復興拠点)から外れた「白地(しろじ)地区」にある。写真には、家具がきちんと並んだ室内が写っている。しかし、現在はイノシシが入り込み、足の踏み場がないほど荒れてしまった。
 事故から十年が過ぎた今もなお、国から白地地区の除染、避難指示解除の方針が示されておらず、家屋の解体もできない。「一日も早く見通しを示さなければ、白地地区の人々はこのまま家が朽ちていくのを待つしかない。国に強く働き掛けなければ」。多くの町民の思いをくみ、気持ちを奮い立たせる。

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 帰還困難区域を抱える大熊、富岡、双葉、浪江、葛尾の五町村でつくる協議会は二月、復興拠点外の避難指示解除の方針を六月までに示すよう国に要望した。期限を示したのには理由があった。
 政府はこれまで「将来的には全ての避難指示を解除する」と繰り返すばかりで、解除までの方向性や方針を示してこなかった。
 吉田町長は二〇二二(令和四)年春を目指す復興拠点の解除に向け、住民説明会を開きたい。だが、政府が拠点外の方針を示さなければ、住民に説明ができず、会は円滑に進まない。
 復興拠点内に土地を持つ町民だけではない。拠点外の町民、拠点の内外の両方に土地を持つ町民もいる。「復興拠点内だけの話になれば、拠点から外れた町民が、蚊帳の外になってしまう。答えようがないつらさがある」と複雑な心境を明かす。
 タイムリミットが刻々と迫る中、吉田町長は積極的に動いた。

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 国からの回答をただ待っているだけでは何も変わらない−。四月中旬、自民党東日本大震災復興加速化本部の額賀福志郎本部長が大熊町を現地視察に訪れた。吉田町長は額賀本部長を自宅に案内した。
 「実際に白地地区の現状を見てほしい」との思いからだった。荒れた家を見せるべきかどうか迷った。しかし、拠点外の町民のため、政府与党の幹部に少しでも現状を認識してほしかった。公明党の井上義久副代表らが視察に来た時にも、自宅を見せた。
 四十年ほど前に建てた吉田町長の自宅の床の間、台所は物が倒れ、散乱している。人がガラスを割って侵入したとみられる形跡もある。現実を目の当たりにした自民、公明両党の幹部からは「こんなにひどいのか」との声が相次いだ。
 協議会の副会長を務める吉田町長は今月一日、要望の「念押し」のため、福島市の復興庁福島復興局を訪れた。だが、国側は「六月末までの明示は困難」との認識を示し、政府方針を示す時期を明らかにしなかった。
 「住民に(町の将来を)説明する責任がある。国としてもしっかり取り組んでほしい」。要望の終了後、報道陣の取材に答えた吉田町長は、今後も要望を続けるかと問われると厳しい表情を浮かべた。「当然、続けなくちゃいけない」
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