[2021_07_05_04]中国電力のボーリング調査は、全く進まず 補償が必要な権利者を利害関係人に含めないゴマカシ 祝島漁民の権利は何故強いのか 民の日々の営みが権利を創る 民に徹すれば公よりも強くなる 連載「権利に基づく闘い」その18 熊本一規(明治学院大学名誉教授)(たんぽぽ舎2021年7月5日)
 
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中国電力のボーリング調査は、全く進まず 補償が必要な権利者を利害関係人に含めないゴマカシ 祝島漁民の権利は何故強いのか 民の日々の営みが権利を創る 民に徹すれば公よりも強くなる 連載「権利に基づく闘い」その18 熊本一規(明治学院大学名誉教授)

◎ 中国電力は、6月29日から田ノ浦海域に来てボーリング調査のための準備測量を始めようとしましたが、一昨年、昨年と同様、祝島漁民に協力依頼を断られて、スゴスゴと帰るだけを繰り返しています(7月2日以降は田ノ浦海域に来ることも休んでいます)。
 これでは、7月7日から始めるとしているボーリング調査もできるはずがありません。

◎ 一般海域占用許可が出ているのに、なぜ測量もボーリング調査もできないのか。
 理由は簡単です、「事業者と公の関係(公民の関係)」で占用許可を得ていても、「事業者と民の関係(民民の関係)」で民の同意を得ない限り、事業は実施できないからです。
 「公民の関係」では、山口県はゴマカシをして占用許可を出しています。自由漁業の権利者には補償が必要とされている(「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」*1に規定されています)のですが、占用許可に必要な「利害関係人の同意」の「利害関係人」に「自由漁業の権利者」を含めずに占用許可を出しているのです。補償が必要な者を「利害関係人」に含めないとは、常識で考えてもおかしなことです。

◎ 山口県は、「利害関係人」は「排他独占的権利の権利者に限る」として、共同漁業権の権利者(免許を受けている山口県漁協)の同意だけでよいとのゴマカシをしているのです(山口県だけでなく、おそらく全国で同じゴマカシをしていると思われます)。
 私がそのゴマカシを指摘し、水産庁も私見に同意しているのですが、山口県は「条例をそのように運用してきた」と言い張って、ゴマカシを続けています。
 しかし、「公民の関係」ではゴマカシを押し通しても、「民民の関係」で、祝島漁民に補償し、その同意を得なければ事業はできません。

◎ 「民の権利」はなぜそれほど強いのか。それは、民が生活の糧として営みを続けてきたからです。権利とは、公から与えられるものだけでなく、民によって創り出される権利もあるのです。民の営みが続くことは、それほど重たいことなのです。
 公共事業が計画されると、住民は「公民の関係」を重視し、免許や許可や認可を出させまいとしたり、出されれば訴訟等で取り消そうとしたり、といった努力を重ねます。
 しかし、日本での「公民の関係」は、仲間内のズブズブの関係なので、ほとんど成果をあげられず、住民が疲れ切って敗北する事例が跡を絶ちません。
 住民が公共事業に抗するには、「公民の関係」でなく「民民の関係」を重視することが大事です。何も特別なことをする必要はなく、ただ日々の営みを続けていればよいのです。
 そうしていれば、事業者は、今の田ノ浦海域のように、頭を下げて協力依頼をせざるを得なくなります。
 そのときに「ノー」と言いさえすればよいのです。

◎ 7月3日、山口県宇部市のNGO「いのち・未来・宇部」主催のオンライン学習会*2が開かれ、「上関原発と漁業権」と題して上記の主旨の報告をしました。
 学習会に参加された家中茂氏(鳥取大学, 1990年代に石垣島の石垣新空港問題に共に取り組みました)が、その後送って下さったメールに、報告を聞きながら鶴見俊輔氏が「民」に徹底することが重要で、その徹底ができれば戦前のような国の横暴が通らない、といったことを書いていたことを思い浮かべた、と書かれていましたが、おそらく通底するものがあると思います。
 権利者が自らの権利を自覚するとともに「民」に徹し日々の営みを続けること、支援者は権利者の営みを支えること。これが権力に抗するうえでの秘訣だと思います。


1.「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」は、憲法29条の「正当な補償」の基準になるものとして昭和37年に閣議決定された要綱で、公共事業の事業者(電力会社も含む)は、それぞれ同要綱に基づき「損失補償基準」を作っています。
2.報告の際に使用したパワーポイントは私のホームページ
( http://kumamoto84.net )に掲載しています。
KEY_WORD:上関原発計画_: