[2021_08_06_03]有珠山噴火時、最大1万4000人避難計画(島村英紀2021年8月6日)
 
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有珠山噴火時、最大1万4000人避難計画

 2000年の北海道・有珠(うす)山の噴火は日本の火山では珍しく予知に成功した。住民を避難させて、一人の犠牲者も出さなかったのだ。
 有珠山はかつて大噴火したことがある。なかでも1663年の噴火は大きく、東京ドーム800杯分もの大量の噴出物が出た。7000年以上の眠りから覚めた噴火だった。有珠山はそれ以来の噴火の記録があり、8回噴火したことが知られている。そのすべてで、山体の中で有感地震(身体に感じる地震)が起きてから1〜3日で噴火した。
 これは日本の火山では例外的に幸運な例だった。それは有感地震による「経験的な」噴火予知が可能だったからだ。
 他の火山では、地震が増えたのに噴火しなかった例は多い。岩手山では1997年から2004年にかけて地震が急増したし、福島・磐梯山では2000年に火山性地震が急増して一日400回を超えた。40年前に地震計が置かれて以来、最も多い地震だった。しかし、ともに噴火は起きなかった。予知は出来なかったのだ。
 このほど有珠山周辺にある伊達(だて)、壮瞥(そうべつ)、洞爺湖(とうやこ)、豊浦(とようら)が中心に作る「有珠山火山防災協議会」が、次の噴火に備えて噴火の避難計画をまとめた。
 これは最悪の事態を想定したもので、山頂で噴火が起こり、火砕流や火砕サージ(火山ガスなどの熱風)が発生するのを想定している。最大半径約10キロ以内の危険区域に住む温泉街などの全住民を避難させる計画だ。約1万4000人になる。
 日本の火山の多くは、火口近くに温泉街があることが多い。有珠山も例外ではない。空から見ると、火山に張り付くように街が広がっている。
 避難計画は、2014年の御嶽山噴火を教訓に活動火山対策特別措置法(活火山法)が改正されたのを受けて、火山近くの自治体に作成が義務づけられたものだ。1万4000人という数は伊豆大島の1986年の全島避難よりもずっと多い。
 他方、有珠山の学問も進歩している。
 一番の成果は、有珠山の地下に二つのマグマ溜まりがあることが分かったことだ。深い方は8〜10キロ、浅い方は4〜6キロにある。この深い方からマグマが上昇して浅い方に注入されると岩盤に亀裂が入り火山性地震を引き起こす。
 浅いマグマ溜まりへのマグマの注入は時々起きていて、その規模が小さければ、火山性地震が起きるだけで噴火には至らないことも分かった。
 これは2000年噴火のときと比べて感度が高い地震計が多数設置され、小さい地震が検出できるようになり、震源の場所を正確につかめるようになったことも大きい。
 有珠山では山体内の地震が噴火の予知の決め手だったが、2021年3月にも、じつは山体内での小さな地震があった。このときには研究者がマグマの動きを監視していて、噴火には至らない、という結論を出した。いわば「噴火未遂」ですんだ事件だったのだ。
 さて、噴火予知の先陣を切っているように見える予知はうまくいくだろうか。「栄光の先輩」を持つだけに、この次の有珠山の噴火は、まさか失敗できまい。
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