[2021_08_31_05]脱原発首長会議が(汚染水)海洋放出で緊急声明 福島第一原発を視察し、松川浦で話を聞く (上) (2回の連載) 処理してもなお放射性物質を完全に除去できない、それを「処理水」というのはおかしい まっさき千尋〔茨城県、元瓜連(うりづら)町長、瓜連町は合併により今は那珂市です〕(たんぽぽ舎2021年8月31日)
 
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脱原発首長会議が(汚染水)海洋放出で緊急声明 福島第一原発を視察し、松川浦で話を聞く (上) (2回の連載) 処理してもなお放射性物質を完全に除去できない、それを「処理水」というのはおかしい まっさき千尋〔茨城県、元瓜連(うりづら)町長、瓜連町は合併により今は那珂市です〕

1.百聞は一見に如かず

 去る7月10日、私は村上達也前東海村長、海野徹前那珂市長ら「脱原発をめざす首長会議」のメンバー13人と東京電力福島第一原発の構内に入り、10年前に事故を起こした原発1号機から4号機を、100mという至近距離からわが目で見てきた。水素爆発やメルトダウンを起こした原発が目の前にある。
 2号機から4号機はカバーがかけられているが、1号機は事故当時のままむき出しになっている。
 建屋の屋根は吹き飛び、上半分の鉄骨はそのまま。天井クレーン、燃料クレーンが落下し、折り重なっている。使用済み燃料はその真下にあり、放射線濃度が高く、手つかずのまま。海は建屋のすぐ向こうにあり、カモメがのんびり飛んでいる。
 土曜日だったので、4000人近く働いているという作業員の姿は少なかった。
 コロナウイルスのまん延による緊急事態宣言が出されるので、翌週からは見学の受け入れをストップするという直前の見学だった。
 視察見学は約3時間。東電社員が最初に事故概要や汚染水処理状況などを説明し、質疑のあと専用のバスで構内を回る。
 二重のチェックがあり、携帯、スマホやカメラは持ち込めない。
 事故を起こした1号機から4号機と、事故を起こさなかった5号機、6号機や汚染水を多核種除去設備(ALPS)で処理した水を貯めておくタンク群、浄化設備、廃棄物焼却施設などを、1時間以上かけて案内してくれる。
 私は、事故を起こした原発やタンクなどを見ながら、「百聞は一見に如かず」という言葉を思い起こした。
 世の中には、自分の目で見なければわからない、納得できないということがあるものだ。そして、原発の事故がなければ、いや、原発そのものがなければ、このような後ろ向きの莫大な費用と無駄な作業をしなくて済んだものを、と思った。

2.「処理水」か「汚染水」か
  処理してもなお放射性物質を完全に除去できない、
  それを「処理水」というのはおかしい

 東電の説明のあとの質疑では、メンバーから核燃料デブリ(燃料と構造物等が溶けて固まったもの)の現状や廃炉作業の今後などの質問が次々に出されたが、最も多かったのはやはり汚染水の処理問題だった。
 現在までに125万立方mたまっている。さらに現在でも1日に100〜150立方m発生しており、来年秋ごろには貯蔵用タンクが満水になるという。
 汚染水は、まず燃料デブリを冷却するための水が燃料デブリに触れて高濃度の放射性物質を含んだ汚染水になり、さらに建屋内に流れ込む地下水、雨水が混じり合うことで新たな汚染水が生じる。
 汚染水にはトリチウム、ストロンチウムなどこれまでにわかっているだけで63種類の放射性物質が含まれている。
 処理をしてもトリチウムなどは除去できない。この汚染水をALPSで処理したものを東電では「処理水」と言っている。
 この「処理水」を薄めて海洋放出するというのが政府と東電の方針だ。
 私は、処理してもなお放射性物質を完全に除去できないのだから、それを「処理水」というのはおかしい、「汚染水」だと考えている。
 水に含まれる放射性物質は、チッソが水俣湾に流したメチル水銀加工物を含んだ廃水と同じように、薄めても総量は変わらない。
 この汚染水問題について、私は6月号の本欄「原発汚染水の海洋放出」で経過と問題点を指摘しておいた。
 この日の東電への質疑でも、「東電は2015年に、関係者の了解なしにはいかなる処分も行わないと福島県漁連に文書で約束している。
 県漁連は放出の決定に反対声明を出している。約束違反ではないか。
 政府と東電は風評被害が出れば補償すると言っているが、風評ではなく実害ではないのか。
 この10年、東電は住民や農民、漁民などに対して賠償、補償を十分には行ってこなかった。
 今回の海洋放出で、期間、地域、業種を限定せずに補償すると言っているが、信用できないではないか。
 『処理水』を計画通りに放出しても雨や地下水の流入で増える汚染水が処理量を上回るので、タンクの水は減らない」などと聞いた。
 それに対する東電社員の答えは、語りなれた口調だがのらりくらり。言質を与えない巧妙なものだった。(下)に続く

【『スペースマガジン』2021年9月号「葦の髄から」第61回より転載】
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