[2021_09_02_04](汚染水)海洋放出は「人の復興」に逆行する「大型タンクによる長期保管」「モルタル固形化」など海洋放出を回避すべき 脱原発首長会議が海洋放出で緊急声明 福島第一原発を視察し、松川浦で話を聞く (下) (了) (まっさき)千尋〔茨城県、元瓜連(うりづら)町長、瓜連町は合併により今は那珂市です〕(たんぽぽ舎2021年9月2日)
 
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(汚染水)海洋放出は「人の復興」に逆行する「大型タンクによる長期保管」「モルタル固形化」など海洋放出を回避すべき 脱原発首長会議が海洋放出で緊急声明 福島第一原発を視察し、松川浦で話を聞く (下) (了) (まっさき)千尋〔茨城県、元瓜連(うりづら)町長、瓜連町は合併により今は那珂市です〕

3.ノリ養殖漁民の苦悩
  良質のノリを作っても福島産というレッテルで苦労

 私たちは翌日、福島第一原発の北にある相馬市松川浦を訪れた。
 松川浦は太平洋に面した潟湖。風光明媚で観光の名所。ノリの養殖が盛んだった。
 ここでアオサノリの養殖漁師、遠藤友幸さん(60歳)から、原発事故後の漁業の実態と汚染水の海洋放出について話を聞いた。

 遠藤さんは「原発事故後、汚染水が出るのはわかっていたことだ。それなのに東電はこれまでしっかりした対応をしてこなかった。突然の海洋放出発表は納得できず、反対するしかない。バリケードを作ってでも阻止したい。私たちはこれまで放射能の汚染を減らしながら収量を回復する努力を重ねてきたが、良質のノリを作っても福島産というレッテルで市場価格はなかなか回復せず、苦労してきた。最近は、福島産ではなく常磐モノと言うようになった。そして今回の汚染水放出の決定。残念だ」と怒りをぶちまけ、不安の表情を見せた。

 遠藤さんはさらに、担い手が高齢化しており、後継者がいない漁家の中にはカネ(補償金・賠償金)をもらえば漁業を止めてもいいという人が出てくるかもしれない、と苦しい胸の内を語ってくれた。
 前日の東電との質疑でも感じたが、反対の声があっても、最後はカネでなんとかなるという心づもりが東電や政府にあるのではないか。私にはそう思えてならないのだ。

4.(汚染水)海洋放出は「人の復興」に逆行する
  「大型タンクによる長期保管」「モルタル固形化」など
  海洋放出を回避すべき

 脱原発をめざす首長会議は、遠藤さんから話を聞いたあと南相馬市で記者会見を開き、「政府は汚染水の海洋放出を断念せよ」という緊急声明を発表した。
 会見では、同会議の佐藤和雄事務局長(元東京都小金井市長)が声明文とその背景を説明したあと、参加者がそれぞれ視察の感想や汚染水への考えを説明した。
 同会議では、2019年、2020年に「汚染水は長期保管を」、「地元関係者が納得し、『人の復興』を最優先した案を透明性の高いプロセスにより決定するよう求める」という声明を出している。

 それを受けて、今回は「大型タンクによる長期保管、アメリカで実例があるモルタル固形化といった海洋放出を回避するための代替案について検討が尽くされているとは思えない。政府は『人の復興』に逆行する海洋放出を断念し、陸上での保管・処理へ舵を切るよう求める」という声明を出した。

 記者会見で、同会議の世話人である桜井勝延元南相馬市長は「汚染水問題は自分に関係ないと思っている人には、安全だと言う国と東電の説明をうのみにしてしまいがちだが、漁業者にとっては自分の人生をダメにしてしまうような大きな問題だ」と語っていた。

 また佐藤事務局長は「大量に放出されたカナダなどでは住民に被害が出たとの報告もあり、漁業者の利害だけで反対しているわけではなく、安全性についても疑念があるから陸上保管やモルタル固化などの代案を出している。放射性物質を環境中に拡散することで影響やリスクは必ず存在する。原発事故により現在の状況を生み出した責任は政府と東電にある。『風評被害』というのは、責任を他者に転嫁し、影響を懸念する人の口をふさぎ、健全な議論を封じる言い方だ」と話した。
 私はこの席で、「賠償問題への東電の対応を見ていると、被害者の声に耳を貸さず、実情をよく見ないで一方的に交渉を打ち切るケースが多く見られ、訴訟に持ち込む人も多い。今回の海洋放出でも実際にそうなれば同じことが起きるのではないか。カネでは被害者は救済されない」と訴えた。

【『スペースマガジン』2021年9月号「葦の髄から」第61回より転載】
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