[2021_09_03_07]千年前 房総にM8級襲来 産総研 大津波の痕跡確認 地震 新たなタイプか 新知見示す一歩 他地域でも調査を(東奥日報2021年9月3日)
 千年ほど昔の平安−鎌倉時代に、房総半島沖でマグニチュード(M)で8・5程度とみられる未知の巨大地震が起き、千葉県・九十九里浜地域が大津波に襲われた可能性を示す痕跡を確認したとの調査報告を、産業技術総合研究所などのチームが2月付の英知学誌ネイチャージオサイエンス(電子版)で発表した。

 地震 新たなタイプか

 震源域は房総半島付近の地下、深さ20〜50キロにあるフィリピン海プレートと太平洋プレートの境界の可能性があり、10メートル程度ずれ動くことで海底が変形して津波が発生。海岸付近が断層の動きで沈降し、津波の浸水範囲が広がったらしい。
 調査を担当した産総研の沢井祐紀・上級主任研究員によると、これまで巨大地震を想定していなかった領域。沢井氏は「(千年前の地震は)検討されてこなかった新たなタイプの可能性があり、防災面で議論の題材にしてほしい」としている。
 鍵となったのは、海岸付近から津波によって運ばれて積もった砂などの痕跡。九十九里浜周辺の約140カ所で専用の器具で地層を.抜き取るなどして調べたところ、2回の大津波襲来を示す明確な痕跡が見つかった。痕跡は現在の海岸線から約3・5キロ離れた陸地まで及んでいた。
 痕跡の中にごくわずかに含まれる放射性炭素を取り出して、津波が起きた年代を推定。その結果、古い方の津波は記録の残っていない。平安時代から鎌倉時代に当たる800〜1300年ごろのものと分かった。
 新しい方は、江戸時代の1677年か1703年の津波とみられる。
 陸上の痕跡から津波の再現シミュレーションを行ったところ、巨大地震が繰り返し起きている日本海溝や相模トラフではなく、フィリピン海プレートの下に太平洋プレートが沈み込む領域で発生した可能性もあることが明らかになった。
 近くの茨城県沿岸には日本原子力発電の東海第2原発などもあるが、九十九里浜地域周辺への津波の広がり方は計算していない。原電は「影響はないと考えるが(研究の)動向を注視していく」としている。

 新知見示す一歩

 地震予知連絡会長を務める山岡耕春名古屋大教授の話 日本海溝から伊豆・小笠原海溝につながっていく房総半島沖は地震の発生がよく分かっていない地域で、巨大地震は1677年の延宝房総沖地震しか知られていなかった。今回の研究は新しい知見を示した。2回の津波痕跡が示す巨大地震の繰り返しと、その間隔が大まかにでも分かったことは非常に大きな一歩だ。被災しそうな自治体は、被害の評価や想定に取り組んでおくベきだ。自治体の危機意識が問われるだろう。

 他地域でも調査を

 津波の痕跡調査に詳しい平川一臣北海道大名誉教授の話 これまで考えてきたのとは異なる領域で巨大地震が発生する可能性を指摘しており、防災上も重大な研究結果だ。砂などがうずたかく積もった連なりが何列も形成されている千葉・九十九里浜地域の地形は。今回示された地震によってできたとも考えられる。地震は繰り返すのかや、千年前の津波はどこまで広がったのかなどを検討するベきだ。正体不明の津波の痕跡は八丈島などでも見つかっており、他の地域でも痕跡調査を進めることが必要だ。

 プレート境界と津波

 日本列島が載る陸のプレート(岩板)の下には「太平洋プレート」「フィリピン海プレー卜」が沈み込んでいる。境界に当たる日本海溝や相模トラフ、南海トラフではせめぎ合いによって巨大地震が繰り返しており、その際に海底が大きく変形すると膨大な量の海水が動いて津波が起きる。日本海溝の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、2011年)、相模トラフの大正関東地震(関東大震災、1923年)が実例。関東付近では「陸」の下に「フィリピン海」、さらにその下に「太平洋」が沈み込む複雑な構造になっている。
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