[2021_10_04_01]柏崎刈羽原発のID不正使用と核物質防護設備の損傷放置について 9月22日の東電報告書に見る重大な劣化と安全神話の発現 東京電力に核物質を扱う資格はない (その1)(4回の連載) 東京電力の調査手法に重大な問題…など 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年10月4日) |
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項目紹介 1.「報告をしない」背景を調べない 2.核物質防護の欠落は運転停止命令が当然 3.東京電力の調査手法に重大な問題 4.被処分者が行う調査とはいったい… 以上(その1) 5.本店に核物質防護に係るマニュアルがない… 6.お題目だけの核物質防護活動 7.本店での核物質防護活動主体の欠落 8.経営トップには報告が行かない規定?何のための組織か 9.これは知らないことにすれば責任を逃れるための方便 以上(その2) 10.職員向け核物質防護活動の貧困と劣悪さ 11.内部監査に欠陥 12.IDカード管理とシステムの欠陥 13.下請けの改善提案を握りつぶす「福島の二の舞」 以上(その3) 14.IDカードの定期更新をしていない 15.IDカード不正使用の聞き取り調査がひどい 16.東電の入域管理や核物質防護担当者もずさん 17.防災安全部長も存在意義が問われる対応 18.下請けへの圧力もまた… 19.柏崎刈羽原発の再稼働は不可能に 以上(その4) 9月22日、小早川社長以下3名の経営層に対する懲戒処分が発表された。 しかし、誰に、どういう責任があったから懲戒処分をしたのかは明らかされていない。 特に小早川社長は、こうしたことが起きていたことを「知らなかった」とされている。信じがたいことだが東電の体質から、そのようになるのだろう。 福島原発震災を巡る刑事裁判や民事裁判でも、全く同種の発言を勝俣恒久元会長らから何度も聞いた。 そういう会社に、地上最大級の危険物「核物質」を持たせていて良いのか。 根源的な疑問が湧く。 東電の9月22日付け文書「IDカード不正使用および核物質防護設備の機能の一部喪失に関わる改善措置報告書」に沿って、問題点を抽出する。 1.「報告をしない」背景を調べない これら一連の事件、特にID不正使用が規制庁に報告された時期、柏崎刈羽原発は規制委員会の適合性審査に続く保安規定審査を行っていた。 長期間事実が隠蔽されていたことの背景には、そうした審査状況に対する現場サイドの「忖度」や「配慮」があったのではないかと疑われる。 報告書の「背景の説明」には、そうしたことについて一切説明がない。 そのような分析、調査はしていない。 しかし今の忖度政治と同じで、無責任体質とはこうした事態を常に生み出す。「核物質を使っている」との緊張感も恐れも感じられない。地上最大の危険物を扱う施設のセキュリティ感度は、原潜や核爆弾貯蔵施設のそれと同等程度でなければならないはずだが、微塵も感じられない。 2.核物質防護の欠落は運転停止命令が当然 ID不正使用と核物質防護設備の損傷放置は、いずれも核物質防護システムの劣化と捉えることが出来る。 現場の認識として「核物質防護システムとは何のためにあるのか」という共通認識は欠落していた。 法令等の解釈や法の目的等ではなく、現実に侵入防止に失敗したら、何が起こりえると現場サイドは認識していたのかが問われる。 「核物質の盗取と妨害破壊行為」に分けて、できる限り具体的に捉えなければならない。 例えば、深層防護の劣化で第四層の劣化が起きた場合、炉心損傷から大規模放射性物質の拡散に至るような事故になるとの理解と同等程度の理解が可能な水準で、実地の訓練や試験、これは命がけの作業だという意識付けをしていなければならない。 核施設は、欧米や韓国では専門の武装護衛がついており、武装勢力による攻撃を受けた場合の訓練を行っている。 それでも本格的な武力行使には対処できないと考えられている。 一方、日本には警察による「原子力特別警備隊」が存在するが、こちらはさらに脆弱だ。 東電は、こうした事態は「国や警察により対処すべき」と、そもそも「責任はない」との立場だ。 しかし本来、セキュリティシステムに欠陥が見つかれば、規制当局によりその場で直ちに運転停止が命じられるべきだ。 柏崎刈羽原発は稼働していなかったが、規制委が事実上の運転停止命令を出したのは、遅きに失したものの当たり前の処置だった。 3.東京電力の調査手法に重大な問題 この事態を受けて東電は、社内に検討委員会を作った。 今回の報告対象となる核物質防護の劣化、欠落に対する調査と原因分析及び再発防止対策の検討を行う組織を3月22日に立ち上げている。 ところが「社内の検討体制」は、統括責任者を牧野茂徳原子力・立地本部長とし、「原子力・立地本部長(常務執行役)と新潟本社代表(常務執行役)並びに本社・スタッフを柏崎刈羽に駐在させ、経営層の主体的関与のもと、本社・発電所が一体となった調査体制を整備した。」という。 調査される側とする側が一体になっている。 なぜ、こんな体制でしか調査が実施されないのか、これもまた「東電体質」。 身内による調査で済まそうというわけだ。 調査は、最初から最後まで「独立検証委員会」のような外部第三者が調査をすべきである。 「核物質防護に関する独?検証委員会」という第三者評価委員会を別途設け、報告書をチェックしているとの立場だろうが、調査段階で第三者調査でなければ、後から検証をしても意味がない。 調査報告書には調査の方針や文書収集、ヒアリングの方法決定などの証拠収集方法の選択と決定、さらに「誰の責任で」「何をするか」などの調査の本質が、関係する。これは調査段階と進行状況で大きく変わってくる。 これらを統制しているのが東電なのか第三者委員会なのかで結論は全く違ってくる。 その程度のことも理解していない。 4.被処分者が行う調査とはいったい… さらに驚くことには、調査の「統括責任者 牧野茂徳原子力・立地本部長」「責任者 石井武生柏崎刈羽原子力発電所長」とされているが、9月22日に両人とも責任を問われ解任されている。 そうした人々が責任者で調査を行っている。あり得ないことだ。 なぜ、処分対象者を調査責任者にしたのか。 これだけでも、調査報告書に重大な疑問が生じる。 経営層には、これらの問題が発生しても報告は上がっていなかったことにされている。 あるいは、月ごとにまとめて報告する部分に簡単に書かれていただけで、事態の深刻さや問題の大きさを認識できなかったとする。 しかし調査の責任者が最も事態を把握すべき責任を有する「原子力・立地本部長」であり「発電所長」なのだから、知らなかったことにするのは当然だろう。 危険な証拠は隠蔽するかも知れない。 こうした調査では、常に再発防止に力点が置かれ、あまり責任を問わないことが多いが、事態は原発の安全そのものに関わる組織の劣化、機能の喪失なのだから、発生時点からの現場管理者から経営層に至る責任追及はしなければならない。 これもまた、余りにもずさんである。 例えるならば、みずほ銀行の度重なるシステム障害事件よりも重い。 (その2)に続く |
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