[2022_01_28_06]謎が多いトンガの大規模海底噴火による津波(島村英紀2022年1月28日)
 
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謎が多いトンガの大規模海底噴火による津波

 南太平洋のトンガ近くの火山島で今月15日に大規模な噴火があった。
 トンガや周辺国で津波が観測されただけではなく、8000キロメートルも離れた日本でも津波の被害が出た。港に繋いでいた30隻もの船が転覆したり、沿岸の養殖漁業のいかだが流された。
 南米チリでも1.7メートルの津波を観測。ペルーでも製油所で荷降ろし中だったタンカーから原油が流出。21か所もの浜辺が汚染されたために環境非常事態宣言が出されるほどになった。米国カリフォルニアやアラスカでも、1〜1.3メートルの津波で被害が出た。
 噴火が起きたのは日本時間で15日13時すぎ。気象庁は19時3分に「若干の海面変動はあるが日本に影響はない」と発表していた。
 しかしその後、23時すぎに鹿児島・奄美大島や岩手・久慈などで1メートルを超える大きな潮位上昇があって、0時15分、気象庁は一転して津波注意報や津波警報を発表した。気象庁の言い分は、途中のサイパンなどで津波が小さかったし、予測よりも2時間以上も早く来たので、海底噴火から津波は予測できなかったというものだった。津波は地震から来るだけと考えていたのだ。
 今回の津波はナゾが多い。一般の津波は太平洋1万キロメートルを23時間かかって横断する。典型的なのは1960年のチリ地震(マグニチュード=M、9.5)で日本だけで140人以上が亡くなるなど、大きな被害を生んだ。
 津波が伝わる早さは分かっており、海の深さの平方根に比例する。つまり海が深ければ新幹線なみ、浅ければ人が走る速度になる。
 しかし、今回は不思議だ。予想よりも2時間半も早く到着したことから、別のメカニズムで波が伝わったという説が出ている。空気中を秒速330メートルで伝わる気圧波が、トンガからの津波に追いついて、そのときに海面を持ち上げて大きな津波を生んだのではないかという説だ。つまり、波が隆起した際に共鳴現象を起こして重ね合わされると、津波になる可能性があるというのだ。今回の津波の周期は、海底地殻変動を伴う場合に比べて短いというのも、いままでにないメカニズムが働いたことを示している。
 しかし、強力な反論もある。日本をはじめ、環太平洋諸国では2ヘクトパスカルしか変動していない。こんな変動では大きな津波を生むはずがないというものだ。
 このほか、カルデラの陥没や海底地滑りなど、海底の地形が変わったために発生した波が、さらに津波を高くした可能性がある。
 いずれにせよ、新顔の津波が日本を襲ったことになる。避難指示の対象になったのは全国で22万9000人にも上った。
 だが、実際に避難した人の割合はわずか4%にとどまった。地震を伴わない津波では現実味がなく、外も寒くて暗いので避難をためらった人が多かったに違いない。気象庁が当初安全だと言ったことも影響しているかもしれない。
 トンガで起きたことはもしかしたら日本列島で起きるかもしれない。西太平洋で太平洋プレートが潜り込んでいるのは同じ構図なのである。
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