[2022_06_18_07]社説:原発賠償判決 納得できない国の免責(京都新聞2022年6月18日)
 
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社説:原発賠償判決 納得できない国の免責

 2022/6/18 16:05 2022年6月18日 16:05
 東京電力福島第1原発事故で避難した住民らが、国に損害賠償を求めた集団訴訟で、最高裁第2小法廷はきのう、国の責任を認めない判決を言い渡した。同種訴訟は全国で約30件起こされており、最高裁が初めて判断を示した。
 未曽有の原子力災害から11年余り。暮らしの基盤を根こそぎ奪われた住民にとって、国に落ち度はないとの判決は納得できまい。
 福島、群馬、千葉、愛媛の各県で提訴された四つの訴訟への統一判断だ。福島県から県内外へ避難した計約3700人が国と東電に損害賠償を請求。東電に対しては3月、総額約14億5千万円の賠償責任が確定している。
 一連の訴訟でこれまで12の地裁・高裁が国と東電双方の責任を認める一方、11の地裁・高裁は東電の責任のみ認定し、判断が分かれていた。東電を規制する立場だった国の責任を巡る結論は、後続訴訟への影響が大きい。
 争点は国が巨大津波を予見し、東電に対策を取るよう命じていれば、全電源喪失による過酷事故を回避できたか、否かだった。
 国の地震調査研究推進本部は2002年、地震予測「長期評価」で、福島沖を含む太平洋側で津波地震が発生し得ると公表。これを根拠に東電の子会社が08年、同原発に最大約15・7メートルの津波が到達する、と試算していた。
 最高裁判決は、津波の予見可能性には言及せず、「仮に国が規制権限を行使して東電に津波対策を義務付けていても同様の事故に至った可能性が高い」として、国に対する賠償請求を退けた。
 原発事故はいったん起きれば、長期間にわたり甚大な被害をもたらす。国には、万が一にも事故が起きないように規制する責務があり、権限もある。国自らが策定した長期予測を軽視した責任は免れず、規制権限の不行使は厳しく問われるべきではないか。
 責任を東電に限定し、原発推進に固執した国の責務を軽んじる判決は、住民らの苦難に真摯(しんし)に向き合った司法判断とは言い難い。
 4訴訟の原告のうち、既に110人以上が亡くなっている。高齢化が進む住民らの救済に猶予はない。賠償は東電のみが担うが、それぞれの事情をくみ、きめ細かな賠償や支援が求められよう。
 原油高や電力不足を理由に、岸田文雄政権は「原子力の最大限の活用」を強調し、原発の再稼働に前のめりだ。だが大事故のリスクにどう向き合うか、十分な説明と国民的議論が欠かせない。
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