[2025_08_20_03]南海トラフ地震、事前避難の対象は52万人超 内閣府が初調査(日経新聞2025年8月20日)
 
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南海トラフ地震、事前避難の対象は52万人超 内閣府が初調査

 10:17
 南海トラフ巨大地震の臨時情報で、最も切迫性が高い「巨大地震警戒」が発表された際、自治体が津波に備えて事前避難を求める住民が全国で52万人超に上ることが20日、内閣府の初めての調査で分かった。人数は今後さらに増える可能性があり、内閣府は円滑な避難につなげる支援策の検討を急ぐ。
 臨時情報は南海トラフ地震の発生リスクが高まったときに発表される。求められる防災対応に応じて@巨大地震警戒A巨大地震注意B調査終了――の3パターンがある。「巨大地震警戒」はマグニチュード(M)8以上で出されるが、これまで発表されたことはない。
 南海トラフ地震では早い地域で数分内に津波が到来する恐れがある。そのため内閣府は自治体に対し、避難が間に合わない可能性のある地域を「事前避難対象地域」に指定するよう要請。「巨大地震警戒」が出た場合、対象となる住民に対して浸水想定区域外への1週間の事前避難を呼びかける。
 2024年8月に宮崎県沖の日向灘を震源とする地震に伴い「巨大地震注意」が初めて発表されたことなどを受け、内閣府が25年6〜8月、対策の強化が必要な地域としている29都府県707市町村(当時)に調査を実施。事前避難の対象地域の指定状況を取りまとめた。
 その結果、16都県130市町村が既に事前避難対象地域の指定を終え、対象となる住民が少なくとも52万人を超えることが判明した。同地域には全ての住民が対象となるものと、高齢者などの要配慮者のみが対象となるものの2種類があり、内訳では全住民対象が約24万5600人、要配慮者対象が約27万4800人だった。
 地域別にみると、最も多かったのは高知県で計約9万2100人に上った。宮崎県が約7万9900人、静岡県が約7万200人で続いた。
 事前避難地域の指定の要否は自治体が判断するため、検討の結果「指定しない」と決めた自治体も多い。一方で、検討中や検討に着手できていないケースも目立つ。
 また政府は7月、対策の強化が必要な地域に長崎市など6県16市町村を追加指定したが、今回の調査対象には含まれていない。8月に改訂された臨時情報のガイドラインでは、満潮時の海水面より低い海抜ゼロメートル地帯も新たに事前避難の検討対象に加えるよう言及された。
 今後こうした自治体で新たに指定が進めば、対象人数はさらに膨れ上がる可能性がある。
 政府の中央防災会議の防災対策推進基本計画は、各自治体に対して事前避難の対象となるエリアを示したうえで、避難所や避難経路といった具体的な避難計画も併せて明示するよう求めている。内閣府は今回の調査結果を踏まえ、事前避難をスムーズに進めるための支援・助言体制を強化する方針だ。

 避難所確保や高齢者対応、自治体の課題山積

 国は事前避難が必要な地域の指定や避難計画づくりなどを自治体に求めている。避難場所の確保や自力で逃げることが難しい高齢者への対応に苦慮する自治体が目立っており、課題は山積している。
 最大34メートルの津波の襲来が想定される高知県の土佐清水市。市は計5437人を収容できる避難所を確保したが、事前避難が必要な対象者の数には届いていない。担当者は「安全な地域に住んでいる親類や知人宅への避難も検討してほしい」と漏らす。
 高齢者ら9800人を避難対象とした三重県伊勢市は介護施設などの25施設と協定を結び「福祉避難所」として開設する計画だ。担当者は「家族や介助者も来ると、避難所が足りなくなる恐れもある」と懸念する。さらに、介助を担うスタッフの人員確保も課題だという。
 自治体に共通するのは人手やノウハウの不足が足かせになっている実態だ。高齢者らの事前避難対象地域の指定を「検討中もしくは未検討」とした205自治体に内閣府が理由を聞いたところ、このうち100自治体は「人手不足」が理由とし、48自治体は「やり方がわからない」と答えた。
 九州大の杉山高志准教授(防災心理学)は「臨時情報のような防災への意識を喚起する仕組みがあっても、事前避難対象地域の指定が進んでいなければ住民の災害対応力を十分に高めることはできない」と指摘する。
 人手不足に悩む自治体が多いことについて「広域で対応できるよう、国や都道府県が自治体間の連携を推進するべきだ」と訴える。民間事業者の協力も欠かせないとして「避難先となるホテルや福祉事業所などに対する公的な補助を充実させる必要がある」と話している。
KEY_WORD:日向灘-震度6弱-南海トラフ地震臨時情報_: