[2016_06_10_01]中部電力が浜岡5号機の再稼働申請を準備 海水注入原子炉を動かすことは愚か 応力腐食割れを甘く見てはならない 巨大で複雑な構造物が多数ある原子炉圧力容器の中の塩分を完全に取り除くなど不可能 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎メルマガ2016年6月10日)
 
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中部電力が浜岡5号機の再稼働申請を準備 海水注入原子炉を動かすことは愚か 応力腐食割れを甘く見てはならない 巨大で複雑な構造物が多数ある原子炉圧力容器の中の塩分を完全に取り除くなど不可能 山崎久隆(たんぽぽ舎)

◎ 6月7日付朝日新聞の報道によれば、中部電力が浜岡原発5号機の再稼働申請を準備していることが分かったという。
 出力138万kwのABWRで、柏崎刈羽原発6、7号機、志賀原発2号機などと同型だ。(出力が若干違うが)
 2011年3月11日の東日本大震災後に当時の菅直人首相の要請に基づき停止操作を行った際、海水を取り込んで冷却材を冷却する「復水器」が破損、大量の海水が冷却システムに流れ込む事故を起こした。
 当時は東電福島第一原発に大量の海水を投入したことで議論が起きていた。
 海水を入れると、事実上廃炉を決定することになるので、本社の原子力関係部門からは「ちょっと待て」といった主旨の発言があった。原子炉に海水を入れたら廃炉が決定してしまう。もったいないから淡水でつなげないかという主旨である。これに対して吉田所長は「もう入れているのだけれど」と答えた記録がテレビ会議録に残っている。
 400トンもの海水が炉内に入った浜岡原発5号機は、この段階でいわば「廃炉決定」である。しかし中電はそうは思わなかった。
 影響調査して、機器類の一部を入れ替え、さびたところを補修したら運転が出来ると判断したという。
 制御棒や弁など、特に影響を受けたと見られる場所は交換するとしている。
 しかし問題はそんなに単純では無い。

◎ 応力腐食割れ−原発の寿命を意味する・甘くみてはならない
  私にとって浜岡原発とは、チェルノブイリ原発事故後に最初に大きな問題を引き起こした炉として記憶に残る。
 1988年9月、今は廃炉になっている浜岡原発1号機の圧力容器に損傷が見つかった。「インコアモニタハウジング」と呼ばれる、圧力容器から突きだした配管構造物だ。この中には炉内の中性子束密度を測る装置「インコアモニタ」が入っている。このモニタは原子炉の中性子量を測定し、例えば急激な増大つまり原子炉暴走などが起こりかけた時に制御棒を挿入して炉を止めるといった、極めて重要な役割を持っている。
 また、起動・停止時に原子炉の出力を直接読み取る作業も行う。
 この装置のケーブルを通す配管がインコアモニタハウジングで、定期検査時に健全性を調べることになっている。
 1988年9月の検査で、溶接部から炉心の冷却材が漏れ出ているのが見つかった。
 これがその後にBWR型原発の多くに波及した損傷発見の瞬間だ。
 原因は応力腐食割れだった。

◎ 避けられない損傷−どこかに残留している塩分は炉内の環境を悪化させている
  強い熱応力と加工時の残留応力が残る配管溶接部の近傍で、炉内に微量に存在する塩素や炉水が分解されて出来る酸素などが腐食の原因となりひび割れが進行する。材料に含まれる炭素の量にも左右される。一旦始まると、これを止める手段はない。交換するのが一番の対策だが、しないならば影響部を削り取り、補修しながら破損を覚悟で使い続けることになる。極めて危険な損傷だ。
 もちろん、配管ならば交換をすれば良い。しかし原子炉圧力容器は交換がきかないので、母材にひび割れが入ったりすれば進展を止める術はないので、応力腐食割れ発生は原発の寿命を意味する。
 炉心部に海水が入るということは、この危険な応力腐食割れを引き起こす原因を持ち込んだに等しい行為である。
 おそらく中部電力は塩分を完全に除去できたと言い張るだろう。鍋釜の類ならば塩分を完全に落とせるかもしれない。しかし巨大で複雑な構造物が多数ある原子炉圧力容器の中の塩分を完全に取り除くなど不可能である。
 どこかに残留している塩分つまり塩素は、炉内の環境を悪化させている。そのような危険な原子炉を使い続けることは到底認めることは出来ない。

◎ 浜岡5号の現状−楽観的にすぎる中部電力の報告 影響は今後いろいろ…
  海外の原発は海の側に立っているものが少ないので、海水持ち込みによる応力腐食割れは少ない。そのため日本で数多く発見され、日本で対策が進んだ損傷である。
 その原因を自ら引き起こした浜岡原発5号機は、これまで調査を続けてきたが、原子炉圧力容器には影響が見つからなかったとしている。
 しかしこれは楽観的に過ぎる報告である。影響は分子レベルで極めてゆっくりと進展するので、今、見つからないから今後も生じないということにはならない。
 また、海水の侵入時には原子炉は運転していたため高温高圧の環境にあり、そのため各種機器類や溶接部は現在とは異なる隙間や間隙が生じており、冷温停止後にその場所を見ることも洗浄することも出来ていないところが随所にある。
 「原子炉水の塩化物イオン濃度は腐食が進展しない程度まで十分に低下しているものの、すきま内部に残留する塩化物イオンによる原子炉運転時のすきま腐食の発生・進展を抑制するため、原子炉水の浄化を引き続き実施します。」としているのは、そのような点も無視し得ないからである。

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