[2022_06_20_08]国の責任を「否定」した6/17最高裁判決−極めて雑な判決 安全規制を否定するのなら原発を「許可」してはならない 最高裁は「国家無答責」(明治憲法下の法理)の時代に戻すのですか 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年6月20日)
 
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国の責任を「否定」した6/17最高裁判決−極めて雑な判決 安全規制を否定するのなら原発を「許可」してはならない 最高裁は「国家無答責」(明治憲法下の法理)の時代に戻すのですか 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

2022/6/20 21:00
 「国家無答責」とは、国家又は公務員の違法な行為によって損害が生じた場合でも国家が賠償責任を負わないことを指す。明治憲法下の法理であり、当然、現憲法下では無効のはずだ。
 日本国憲法17条では「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と定めている。
 しかし今回の判決は、憲法17条に定める「不法行為」のうち「津波の予見可能性」の存在を判断せず、「結局防潮堤を作っていたとしても無理でしょう」といった、およそ法律が求めてもいないような「理由にならない理由」を付けて国の責任を否定してしまった。
 理屈をこねているようで、結果として「国家無答責」としか捉えようのない、極めて雑な判決である。

◎ 判決の問題点 予見可能性を判断せず

 東電福島第一原発事故の被災者が国と東電に損害賠償を求めた福島、群馬、千葉、愛媛の4訴訟の上告審判決が6月17日に最高裁第2小法廷(菅野博之裁判長)で言い渡された。
 結論は、「国の賠償責任を認めない」というものだった。
 判決では、「地震は2002年に地震本部が公表した地震予測としての『長期評価』に基づく揺れより、現実に2011年に発生した東日本太平洋沖地震のほうがはるかに大きく、国がたとえ規制権限を行使して東電に安全対策を講じさせていたとしても事故を防ぐことができなかった可能性が高い」と指摘した。
 裁判官4人のうち三浦守裁判官は「長期評価を検討していれば、事故を回避できた可能性が高い」との反対意見を述べた。
 原告側は、「長期評価に基づけば津波は予見できた」と主張、その予見可能性と信頼性が争点だった。
 しかしそれは判決では無視されている。
 主要な争点を判断しない判決に、何の意味があるのだろうか。

◎ 判決の問題点−「結果回避可能性」も認めず

 争点のもう一つは、「結果回避可能性」について。
 津波が襲来した際、防潮堤や建屋の水密化など、一定の対策が取られていれば、3基がメルトダウンをするなどといった原発震災に発展せず、被害を少なくすることができたのではないか。
 判決では、この「津波対策」についても、当時の知見に鑑みて敷地への海水浸入防止のためには「防潮堤などの設置が基本だった」として、東電に対策を命じたら原告が主張する「水密化対策」は「本件事故以前に施設の水密化措置が確実な津波対策になり得るとの専門的知見が存在していたことはうかがわれない」として実施されず、防潮堤設置のみが行われた可能性が高いと結論づけている。
 その上で、東電が2008年に試算した津波と実際の津波は規模も方角も異なり結局「原発敷地への浸水を防ぐことができず、原発事故と同様の事故が発生していた可能性が相当にあると言わざるを得ない」などと結論付けた。
 「水密化対策」などは福島第一原発事故を受けて教訓化された対策で、結果論であるとの国の主張を全面的に取り入れた判決だが、欧米においては既にフランスや米国で重要対策と位置付けられていた。
 日本でも津波災害が予見される浜岡や柏崎刈羽原発では取られていたし、そもそも福島第一原発では事故前に想定津波高が40センチかさ上げされた際にも海水ポンプの高さを上げるなど対策している。
 規模は小さくても津波対策をしているのであるから、津波を前提とした水密化は防潮堤が必要となった場合においても、その完成までに取り得る常識的に採用できる対策だった。

◎ 最高裁が行政の「不作為」を認めた

 この判決は、全ての「論点」を、国の主張で構築している。「予見可能性」については判断すら避けた。これでは行政の監視をする司法の責任は果たせない。
 東電に対策を取らせていたとしても、実際に発生した津波は想定より大きく、事故に至ることを回避できなかったとの論理構成では、東電が「想定外だから仕方がなかった」と言っているのと何ら変わらない。
 国が対策を命じず事故が起きても責任を問われないのであれば、規制そのものの意味がなくなる。
 行政の不作為は誰が責任を負うのか、この判決では全ては事業者と被災者であると結論付けている。
 これでは原発を認可する国の行為は、「無謬」もしくは「無答責」と言っているに等しいのではないか。
 この判決が導く結論は、一つしかない。
 国が原発事故を防ぐ責任を果たさなくても責任が問われないとするならば、否応なく責任を負わされる被災者となり得る人、つまり市民側が拒否するしかないのである。
 原発を「動かしてはならない」との判決とは違うが、この最高裁判決は別の意味で【原発を動かしてはならない】との「結論」を導いているのではないだろうか。
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