[2022_12_09_01]廃炉原発跡地に「次世代炉」は安易過ぎる(NEWS_SOCRA2022年12月9日)
 
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廃炉原発跡地に「次世代炉」は安易過ぎる

 【緑の最前線】廃炉には長い年月、コストも再生エネ下回れない

 岸田文雄首相の原発推進宣言を受けて、主務官庁の経済産業省は11月28日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の原子力小委員会に今後の原子力政策に関する行動計画案を示した。年末までに最終決定する。
 2011年の東日本大震災が引き起こした東京電力福島第一原発事故を以降、原発の新増設や建て替えは想定していないとしてきた歴代政権の原発政策を転換させるための第一歩になる。
 計画案の柱は(1)廃止原発の跡地に建て替え炉として、次世代革新炉を建設する、(2)老朽原発については停止期間を運転期間から除外し、実質的に60年超の運転を可能にする、(3)再稼働可能な原発については地域の理解を得る活動や避難計画の策定を国が支援するーーなどである。
 柱のうち、今回目玉として強調されているのが、次世代革新炉を廃止原発跡地に建て替え炉として建設する提案である。これまで経産省が示してきた行動計画案には原発の新増設と建て替えが並列していたが、今回は新増設が姿を消している。
 福島原発事故以降、広く国民に定着した原発アレルギーのなかで、既存の原発より小型で安全性の高いとされる次世代革新炉とはいえ、新増設となると地元の反対は大きく簡単にはいかない。
 その点、廃止原発の建て替えとして建設すればそれほど抵抗は強くないはずだ。新増設ではなく建て替えに的を絞った苦肉の策といえるだろう。新増設は建て替え炉の反応を見て検討すると後退した。
 だが一歩踏み込んで点検すると、廃炉原発の建て替え炉を建設する案も果たして実現性があるのか数々の疑問が指摘されている。
 現在までに廃炉が決まった原発は24基ある。このうち10基は事故を起こした東京電力の福島第1、第2原発である。原発の廃炉作業は放射性物質を含まない石炭火力などと比べると極めて複雑で難しい。
 資源・エネルギー庁資料によると、通常の廃炉作業の手順は、まず、(1)原子力規制委員会に「廃止措置計画」を提出して認可を受ける、次に(2)発電に使用された「使用済燃料」の搬出や(3)汚染状況の調査と除染、それが済むと(4)周辺設備がまず解体される。その後いよいよ(5)原子炉などの解体が行われ、最後に(6)建屋が解体される。一連の作業によって、放射性物質は段階的に低減され、作業終了時には人の健康に対する影響を無視できるレベルまで放射性物質を低減させることになっている。
 作業終了までは廃止原発敷地内に高濃度の放射性物質が大量に残っており、作業終了前の建て替え作業には大きなリスクが伴う。廃炉作業終了後となれば、かなりの歳月、建設を待たなければならない。
 廃炉作業にはかなりの時間と費用がかかる。廃炉原発の立地条件、損傷・劣化の具合、原子炉の大小にもよるが、通常作業終了までに30年から40年かかる。例えば比較的早い段階で廃炉を決めた中部電力の浜岡原発1号機(出力84万kw)の場合、2009年から廃炉作業を始めたが、終了は28年後の2036年だ。
 数年前に廃炉を決めた四国電力の伊方原発1号機(同54万KW)は2017年から廃炉作業に入ったが、終了は40年後の2056年だ。この間大地震などが発生し損傷を受けるようなことがあれば作業日程はさらに延長されるだろう。
 廃炉費用も巨額に達する。規模によって異なるが、小型炉(約50万kw)の場合、360〜490億円、中型炉(同80万kw)、440〜620億円、大型炉(同110万kw)、570〜770億円などと推計されている。だが多くの専門家は長い廃炉作業中には予期せぬ事態や事故が起こるため「実際にはさらに費用は大きくなるだろう」と指摘している。
 東電福島原発事故で10基の廃炉が決まったが、NHK取材によると、原発や周辺施設の廃炉費用は6兆7000億円に達すると指摘している。
 建て替えとして想定されるのは従来と同様に原子炉を水で冷やす軽水炉を小型化し安全性を強化した革新軽水炉だ。現在、欧米では太陽光や洋上風力の売電コストは10円を切りまでに引き下げられている。日本の再エネ発電の売電コストも急速に低下している。
 仮に政府が掲げる建て替え炉が30年代後半に完成し運転開始にこぎ着けたとしても、売電コストがその頃の太陽光や洋上風力を下回ることは不可能だろう。商業ベースとして成立しない可能性が高い。
 さらに原子炉運転で排出される高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の適性処分の場所もなく、将来世代に負担を強いることになる。
 電力会社などの関係者によると、建て替えの有力な候補地の一つとされるのが関西電力美浜原発(福井県)だ。すでに1、2号機は廃炉作業中で3号機は40年を超えている。地元の美浜町議会は10月、新増設や建て替えなどを求める意見書を賛成多数で可決しており、受け入れの条件は整っている。だが、美浜原発のケースはむしろ例外で原発廃炉を決めた地域の多くは乗り気ではなさそうだ。
 岸田首相が勢いよく打ち出した原発回帰の柱である建て替え、原発の新増設の前途は厳しく、先細りの道をたどりそうだ。

 ■三橋規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
 1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B−LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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