[2023_05_14_01]再稼働容認、高まり「感じる」半数超 浜岡原発停止12年、電気代高騰で 周辺11首長アンケート(静岡新聞2023年5月14日)
 
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再稼働容認、高まり「感じる」半数超 浜岡原発停止12年、電気代高騰で 周辺11首長アンケート

 静岡新聞社が中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)の全炉停止12年に合わせて周辺11市町を対象に行った首長アンケートでは、「自市町内で再稼働容認が伸長していると感じるか」と尋ねた設問に6市町が「感じる」と回答し、主な理由に電気料金の高騰を挙げた。2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻以降、電気料金は事業用と一般家庭向けのいずれも値上がりした。原発の地元の生産者からも「売り上げを伸ばしても利益は薄くなる」と悲鳴が漏れる。

 再稼働「○」 首長はゼロ 明確に「×」 1市に減少

 中部電力浜岡原発周辺の11市町首長アンケートで、新規制基準適合性確認審査に合格した場合、浜岡原発の再稼働を容認すると回答した市町は今年もなかった。ただ、昨年まで「いいえ」と明確な回答を示したのは3市だったが、1市に減少。電力価格の高騰や脱炭素社会実現の必要性、再稼働を容認する住民の増加などにより、態度がやや軟化したとも取れる。
 「いいえ」を選択したのは藤枝市のみ。「東京電力福島第1原発事故の収束に加え、地域住民の合意、周辺市町の同意、理解を得る必要がある」とした。
 「いいえ」から「その他」に変更したのは島田、磐田の2市。「自市町内で再稼働容認が伸長していると感じるか」の質問に対し、両市とも「感じる」を選び、電力価格の高騰が主要因とみている。
 島田市戦略推進課は「再稼働自体には反対していないが、市民の安心、安全な避難誘導手段の確実な担保が大前提」とし、「方針を大きく変えたわけではない」との立場を示す。磐田市危機管理課は「市民の安心、安全の確実な担保と理解が必要なのは、これまでと変わりない」と説明した。
 このほか「その他」と回答した中には、「審査結果が出てから検討する」(御前崎)、「避難計画の実効性や使用済み核燃料の処理問題などがあり、再稼働を判断する状況にない」(牧之原、菊川、森)、「南海トラフ地震の想定震源域の真上に位置しており、安全性に疑問を感じる」(吉田)などの意見があった。依然として、浜岡原発の再稼働への見方は厳しい。
 (社会部・中川琳)

 識者 動いてもコストは割高

 「品質管理を高めれば使用する電気量は増えてしまう」。5月上旬、同市の製茶問屋のやまま満寿多園。最大収容量330トンの茶葉保管用冷凍庫内で増田剛巳社長が嘆息した。冷凍庫内は年中、零度くらいに保つ必要がある上、収穫期は製茶機械もフル稼働し「絶対に電気を止められない」。昨年2月以降の電気代は冷凍庫1基で月約200万円。小まめな節電対策を徹底しても約1・8倍に増えた。
 同市で温室ハウス栽培を営む男性も同じ悩みを抱える。これまで室内の温度管理は重油より安価な電気を使ってきたが、最近は費用対効果が小さくなっているという。電気代は約2倍に増え、「早く原発を稼働してほしい」と打ち明ける。
 一般家庭向けの電気料金も最大約2割上昇し、家計を圧迫する。中電ミライズによると、22年1月に7300円だった1カ月当たりの平均電気料金は23年1月には9100円になった。電力の安定供給に向け国は既存原発の最大限の活用を掲げ、60年超の運転可能を検討するなど東日本大震災以降の原子力政策を方針転換した。中電にとっても、全炉停止後の12年間、毎年800億〜1千億円規模の巨費を投じてきた浜岡原発の再稼働は最重要課題だ。
 しかし、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムやウランを再利用する核燃料サイクルは機能していない。要となる日本原燃の再処理工場(青森県)の完成が遅れているためだ。再処理で残った廃液をガラスで固めた高レベル放射性廃棄物の最終処分地もいまだ決まっていない。
 企業や家計を苦しめる電気代。原発が再稼働すれば負担は減るのか。原発コストに詳しい龍谷大政策学部の大島堅一教授(経済学)は「再稼働すれば電気代は一時的に下がるが、安全対策費や立地地域への交付金などの国費投入分を含めると原発のコストは安いとは言えない」と指摘した。
 (御前崎支局・市川幹人)
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