[2019_07_19_01]2020年4月から原発稼働は電力会社の思いのまま? 「新」新検査制度は、とんでもない制度施行を許してはなりません (連載1、5回の連載) 原発運転に関わる検査が大幅に緩和される原発を最大24ヶ月まで連続運転できるようになる 木原壯林(若狭の原発を考える会)(たんぽぽ舎2019年7月19日)
 
参照元
2020年4月から原発稼働は電力会社の思いのまま? 「新」新検査制度は、とんでもない制度施行を許してはなりません (連載1、5回の連載) 原発運転に関わる検査が大幅に緩和される原発を最大24ヶ月まで連続運転できるようになる 木原壯林(若狭の原発を考える会)

目次紹介
「新」新検査制度(健全性評価制度に基づく新検査制度)とはどんなものか(概要)
新検査制度の施行に至る経緯 東電等の事故隠しが新検査制度導入の発端
新検査制度の見本は米国にあります
福島第一原発事故で中断された新検査制度が息を吹き返す
「新」新検査制度…電力会社が定期検査をおこない、
   運転期間も決める
「新」新検査制度は老朽原発の審査・認可に先取りされています
原発は劣化していても、運転60年までの保安計画を提出すれば運転認可

「新」新検査制度(健全性評価制度に基づく新検査制度)とはどんなものか(概要)
イ.原発の機器・配管等が劣化(ひび割れの発生など)していても交換・補修せずに、そのまま運転することを認めています。
ロ.従来13カ月ごとに行われていた「施設定期検査」に代わる「定期事業者検査」では、例えば、電力会社が「劣化は24ヶ月以上経っても深刻にはならない」と評価すれば、原発を最大24ヶ月まで連続運転できます。
ハ.定期検査は「定期事業者検査」として電力会社が行い、原子力規制委員会の合否判定(了解)を要しません。
ニ.原発を止めておこなっていた点検を減らし、運転しながらのオンライン検査を増やそうとしています。
 2020年4月から始まろうとしている健全性評価制度(注1)に基づく新検査制度では、原発運転に関わる検査が大幅に緩和されようとしています。
※注1 「健全性評価制度」による検査では、定期検査等で原子炉の本体や冷却材等の高圧のかかる設備や機器に、亀裂などの欠陥が見つかった場合は、発生原因を推定し、設備を使い続けると一定期間後に欠陥がどの程度進むかを予測し、安全性への影響を評価します。
その結果、安全上の基準すなわち「維持基準」を満たしていること が確認できれば、欠陥部分の交換や補修をしなくても、監視の強化や 経過観察をおこないさえすれば、その設備を継続して使用することが できます。
 従来は、欠陥部分を補修あるいは交換していました。

※チラシ作成者の意見;この制度では、「健全性評価」を科学的・合理的な根拠に基づいて実施するとしていますが、健全性は当該装置の特性や置かれた環境に大きく依存するため、現在科学技術では確実な評価など不可能です。

 以下は、若狭連帯行動ネットワーク2019年5月16日発行の「若狭ネット」第175号、その修正版(6月7日)および若狭ネット資料室長・長沢啓行氏の講演を基に、来年4月施行予定の新検査制度についてまとめたものです。

新検査制度の施行に至る経緯 東電等の事故隠しが新検査制度導入の発端

 新検査制度導入の発端は、福島第二原発3号機で2001年の定期検査時に発覚した検査データ改ざんによる長年の原子炉内シュラウド(注2)のひび割れ隠しでした。
 3号機では、1997年定期検査でシュラウド4か所にひび割れが見つかり、最大の1カ所はほぼ全周(16.5m)に断続的に広がっていたのですが、東電は「異常なし」と隠したまま定期検査を終了したのです。その後の4年間に行われた定期検査でもひび割れを隠し通し、放置したまま運転を続けました。定期検査の期間も極端に短縮され、1998年には国内最短の36日を記録しました。
 しかし、2001年の定期検査で「原子炉内の清掃状況を確認していたら偶然シュラウドのひび割れを発見した」と、ひび割れ発見日を改ざんして国へ報告し、修理したのです。データ改ざんは1986年以降長期にわたって、東電取締役も関与して組織的に行われました。
 このようなトラブル隠しがあれば、本来なら検査を一層厳しくすべきところですが、逆に、大幅に緩和された検査制度が導入されました。
 「データ改ざんが行われたのは、ひび割れを評価する基準がなかったためだ」という理屈で、2003年10月に新しい安全性評価基準(維持基準)が導入されました。
 以後、この基準に適合していれば、ひび割れなどの欠陥を補修したり、取替えたりしなくても、そのままにして原発の運転を継続できるようになったのです。
 しかも、この検査制度の導入時には、「運転状態が良好でも連続運転期間の延長を認めることはない」としていたにもかかわらず、この検査制度を基調として2009年1月に施行された新検査制度では、連続運転期間を最大24ヶ月まで延長することを認めています。
 この新検査制度による連続運転期間延長を申請したのは、運転開始後6年目の東北電力東通1号機でした。2010年11月に「連続運転の13ヶ月から16ヶ月への延長申請」が提出され、2011年7月から国内初の16ヶ月運転に入る予定となっていました。
 その矢先に福島第一原発事故が起きたため、東北電力は6月に「13ヶ月運転へ戻す」と発表し、11月には延長申請を取り下げました。

※注2 シュラウド(shroud;「覆うもの」の意)。原子力分野では、沸騰水型原子炉(BWR)圧力容器内に設置され、燃料集合体と制御棒が配置された原子炉内中心部の周囲を覆っている、円筒状のステンレス製構造物の名称。「炉心の燃料集合体を支える傘立」として機能する。
 原子炉運転中は摂氏300度C弱、70気圧前後の環境下で、燃料集合体より多量の放射線を受ける。 
新検査制度の見本は米国にあります

 米国原子力規制委員会(NRC)は「計画的に行う機器の分解修理作業を縮小し、代わりに、確率論的リスク評価(PRA;注3)で原発システムの故障時期を予測し、実際に故障する数週間前に対応して、故障を避けるという方針を推し進めました。
 また、この方針の下で、「運転中に保守・検査を行うか、12ヶ月毎に保守・点検をしなくても故障に至らないことを高い信頼性で示すことができれば、12ヶ月を超える連続運転を承認する」ことにしました。
 その結果、原発の連続運転期間が18〜24ヶ月へ延長され、核燃料の高燃焼度化が可能になり、設備利用率が1990年代に70〜80%へ急上昇し、2002年には91.5%に達しました。
 例えば、ブランズウィック1号機は、2003年3月の停止までの23.2ヶ月の連続運転で、軽水炉運転の世界最長記録を達成しました。
 保守・点検も蒸気発生器細管検査を10%のサンプリング(抜き出し)検査で済ませるなどで時間とコストを節約し、検査のための原発停止期間は平均60日から40日以下へと短縮されました。
 また、2002年9月までに、約半数の原発で安全対策を犠牲にした電気出力の上昇(1〜10%)が認可され、2001年以降は、蒸気発生装置やタービン等の効率改善による大幅な出力上昇(15〜18%)も相次いで承認されました。運転ライセンスの40年から60年への延長も認められました。
 米国では、建設費高騰で原発新設は経営的に成り立たず、既設原発でも設備利用率が90%台を割り込めば、LNGやシェールガスによる火力や再生可能エネルギーに太刀打ちできない状態に立ち至っています。そのため、老朽原発の一層の経済性追求と運転延長が推し進められています。
 日本は10年以上遅れて米国の安全規制緩和に追従しようとしたのです。

福島第一原発事故で中断された新検査制度が息を吹き返す

 福島第一原発事故で棚上げになった新検査制度は、原子力安全・保安院と原子力安全委員会の解体に伴って発足した原子力規制委員会に引き継がれましたが、2017年4月に抜本改訂され(以後、これを「新」新検査制度と呼びます)、規則や運用ガイドの整備が行われ、昨年10月から始まった試運用も、本年10月から全原発で最終フェーズに入り、来春4月から施行されようとしているのです。

※注3 事故は、事故のきっかけとなる出来事(起因現象)と、その出来事が事故に発展することを防ぐための様々な安全対策との関りで発生する。PRAでは、起因現象の発生頻度に各種安全装置が故障などで機能しない確率を掛け合わせて、事故に至る頻度を評価する。

「新」新検査制度とは? 電力会社が定期検査をおこない、運転期間も決める

 来年4月施行予定の「新」新検査制度は、下記イ.からハ.のように、電力会社の一義的責任(電力会社任せ)を一層助長するものです。
 「新」新検査制度導入の根底には、「国が規制を強めると、電力会社は規制をクリアするために、データ改ざんや事故の隠蔽に走るから、むしろ規制を緩和すべきだ」というとんでもない考え方があります。
イ.「定期検査」は「定期事業者検査」として電力会社が実施し、原子力規制委員会は立会う必要もなく「合否判定」も「了解」もせず、報告を受領し、公表するだけになります。
ロ.次の検査までの期間も最大24ヶ月で、原子炉の状態の維持基準に基づいた評価によって電力会社が決め、「原子力規制検査」で確認されるだけになります。(これで運転期間を最大24ヶ月へ引上げ、定検期間を大幅に短縮して、設備利用率を90%以上へ引上げようとしています。)
ハ.定期検査時に原発を止めておこなっていた保守点検の多くを、運転中に行い(オンライン検査)、記録をとって報告すれば良いになります。報告が遅れたり、内容に疑義が生じたり、見直しが必要と判断されたときに初めて、原子力規制委員会から措置命令や罰則適用が行われる手順になります。
 イ.からハ.のような電力会社の都合任せの検査では、組織的かつ系統的に報告が改ざんされ、危険な状態が隠蔽されても未然に防ぐ手立てはありません。
 保全システムや保全計画は事前審査され、保全結果の報告はチェックされますが、建屋・施設や機器・配管類の劣化や異常を早期に発見して対処できているかどうかは、「一義的責任」の名目の下に電力会社任せになります。
 連続運転期間の13ヶ月(現行)から最大24ヶ月への延長は、維持基準による健全性評価に基づいて行われます。たとえば、ひび割れなどの欠陥が見つかったとき、欠陥の進展によって安全機能が維持できなくなるまでの期間(「判定期間」:法令では「技術上の基準に適合している状態を維持することが確認された期間」という)を電力会社が勝手に評価し、連続運転期間を決めます。連続運転期間は、「判定期間」が13ヶ月以上であれば最大13ヶ月、18ヶ月以上であれば最大18ヶ月、24ヶ月以上であれば最大24ヶ月の3種類の枠内で決めることができます。
 実際には、核燃料の設計燃焼度を超えては運転できないため、燃料交換の都合も加味して運転期間を決めます。
 ここで、24ヶ月運転を行うには燃焼度を今の4.8万MWd/tから5.5万MWd/t以上へ引上げる必要があります。高燃焼度燃料では、燃料棒内に放射性物質量が増え、崩壊熱が高まるため、炉心溶融事故の危険性が高まり、長期連続運転による燃料棒破損も深刻になります。
 以上から明らかなように、「新」新検査制度は、原発の稼働率向上を目的とし、電力会社の経済性(利潤)追求に迎合するためのものです。
 また、欠陥を放置したままの運転や長期連続高燃焼度運転を容認するもので、原発重大事故の危険を増大させるものです。

「新」新検査制度は、老朽原発の審査・認可に先取りされています

 新検査制度の施行は来年4月からですが、その内容は、すでに老朽原発の40年超運転認可に取り込まれています。
 40年超運転が認可されるには、イ.特別点検を実施し、ロ.劣化状況評価を行い、ハ.保守管理に関する方針を策定しなければなりません。
 ただし、特別点検で原発に重大な劣化が見つかっても、それで運転が不許可になるのではなく、その劣化を維持基準で評価し、補修・取替の保守管理方針を策定すれば、補修・取替をしなくても、40年超運転が認可されるのです。
 すなわち、新規制基準に適合するための過酷事故対策工事は避けられま せんが、老朽化で劣化した建屋・施設や機器・配管類を直ちに補修・取替する必要はなく、維持基準に基づいて劣化を評価し、40年超運転に入った後で、保守管理計画に沿って対処すれば良いのです。
 なお、高浜1、2号機と美浜3号機の40年超運転は2016年4月と10月に認可され、3基合計で約4千億円をかけて対策工事が進められていますが、上記のように、この工事でこれらの原発が新品同様に生まれ変わるのではありません。
 例えば、高浜1、2号機の工事では、過酷事故対策として格納容器上部遮蔽を設置し、基準地震動引上げに伴って耐震性がないと分かった燃料取替用水タンクの取替や海水取水設備の移設を行い、総延長約1,300kmのケーブルの防火シート施工や難燃ケーブルへの取替などをおこなっています。
 美浜3号機の工事でも、基準地震動引上げに伴って耐震性がないと分かった使用済燃料リラッキング用ラックの取替、使用済燃料ピット補助建屋基礎の補強、炉内構造物(炉心槽、上部炉心支持板、上部炉心板)の取替、地震時に崩壊する恐れのある高台の掘削・構台設置、総延長約1,000kmのケーブルの防火シート施工や難燃ケーブルへの取替などを行っています。
 これらは、新規制基準に対応する対策で、老朽劣化した建屋・施設や機器・配管類を補修するあるいは取替るものではありません。

原発は劣化していても運転60年までの保安計画を提出すれば運転認可される

 以下のイ.ロ.は、特別点検で重大な劣化が見つかっているにも拘わらず、40年超えの運転審査で、劣化状況調査と保守管理に関する方針を策定すれば良いとされた例です。
イ.原子炉容器の中性子照射脆化に関して、高浜1号機では運転開始後60年時点の脆性遷移温度(注4)の予測値は97度Cと高く、上部棚吸収エネルギー(注5)の予測値も65J(ジュール)と基準の68Jを下回り、事故時に原子炉容器が冷却水によって急冷されたとき、破損する危険性が高いにもかかわらず、そのまま60年運転してもかまわないとされています。
 脆性遷移温度や上部棚吸収エネルギーの予測の誤差は大きく、基準地震動が過小評価されているにもかかわらず、予測値の計算で加圧熱衝撃(注6)にも耐えられる、亀裂が一気・瞬間的に進行する破壊(不安定破壊)は発生しないと評価しているのです。
ロ.電気・計装設備の絶縁低下に関して、高浜1、2号機のケーブルは60年時点までに絶縁低下が起こると評価されたのですが、すぐには取替えず、寿命年54年と評価されたケーブル(高浜1号機)は50年運転時点までに取替え、寿命年47年と評価されたケーブル(高浜2号機)は45年運転時点までに取替えればよいとしています。(ケーブルの寿命年は、ケーブルの設置環境などに依存するため、正確な予測が困難なことは自明です。)
 このように、老朽劣化していても、維持基準で60年時点まで技術上の基準が維持されるかどうかを評価して、維持できない場合には保守管理方針を策定しさえすればよいことになったのです。

※注4 原子炉本体である圧力容器は鋼鉄で出来ています。鋼鉄は、高温ではある程度の軟らかさ[粘り強さ;靱性(じんせい)]を持っていますが、脆化(ぜいか)温度以下に冷やされると、ガラスのように硬く、脆(もろ)くなります。
 圧力容器の鋼鉄は、原子炉運転中は、約320度C、約150気圧の環境(加圧水型PWRの場合)で中性子などの放射線に曝(さら)されているため、原子炉運転期間が長くなると、鋼鉄の硬化温度(脆性遷移温度)が上昇します。
 例えば、初期にはマイナス16度Cで硬くなった鋼鉄も、1、18、34年間炉内で放射線に曝されるとそれぞれ35、56、98度Cで、40年を超えると100度C以上で硬化するようになり、脆くなります。
 圧力容器の脆性遷移温度が高くなっている原子炉が緊急事態に陥ったとき、冷却水で急冷すると、ガラスを急冷したときのように、圧力容器が破損する(割れる)危険性があります。使用前の鋼鉄は、脆性遷移温度が零度以下ですから、水冷では破壊されません。

※注5 上部棚吸収エネルギーは、高温時(脆化していない温度)における材料の粘り強さ(靱性:外力によって破壊され難い性質)の指標。このエネルギーが大きいほど、破壊され難い。
※注6「加圧熱衝撃」
 事故などにより加圧された原子炉容器が急激に冷却され,原子炉容器内外間の温度差により高い引張応力(引っ張る力が働いたとき材料内部に生じる力)が容器内面に発生する事象;PTS(Pressurized Thermal Shock)
       (7月19日「京都の金曜行動で配布のチラシ」より)


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