[2020_11_25_01]「死に体」RETFに巨費を投じて維持するのは何故か 超高純度プルトニウムを「常陽」が生産しRETFが取り出す「常陽」とRETFの復活策動は核武装に直結する  (上)(3回の連載) 渡辺寿子(たんぽぽ舎ボランティア、核開発に反対する会)(たんぽぽ舎2020年11月25日)
 
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「死に体」RETFに巨費を投じて維持するのは何故か 超高純度プルトニウムを「常陽」が生産しRETFが取り出す「常陽」とRETFの復活策動は核武装に直結する 渡辺寿子(たんぽぽ舎ボランティア、核開発に反対する会)


1.マスコミが報道しなかった施設がやっと脚光を浴びた!?

 11月11日の東京新聞1面トップ記事を読んで、やっとリサイクル機器試験(RETF)が脚光を浴びるようになったかと感慨を覚えました。
 リサイクル機器試験施設(以下RETF)は、高速(増殖)炉の使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理の技術開発を目的に計画され、建設された施設で英語表記の Recycle Equipment Testing Facility の頭文字をとってRETFといいます。
 日本原子力研究開発機構(以下原子力機構)が所管し、茨城県東海村の核燃料サイクル工学研究所にあります。
 「もんじゅ」や「常陽」などの高速炉は炉心燃料の周りに燃えないウラン、ウラン238(劣化ウランとも呼ばれる)を毛布でくるむように置いて運転し、中性子が当たると限りなく100%に近い、戦術核兵器に最適な超高純度(スーパー核兵器級)のプルトニウムを生産することができます。
 その高速炉の使用済み燃料からプルトニウムを取り出すための専用施設がRETFなのです。 
 「リサイクル機器試験施設」という資源リサイクルのための施設のような奇妙な名前は、核兵器製造に直結する超高純度プルトニウムを取り出す施設であることをカモフラージュするためにつけられたのでしょう。
 動力炉・核燃料研究開発事業団(以下動燃)は1975年からRETFについての開発を開始していますが、原子力安全委員会や地元自治体の議会などの承認を経て、実際に建設に着手したのは1993年でした。
 1993年から2000年の工事停止まで7年間に約800億円かけて地上6階、地下2階の巨大なRETFの建物を建設しました。
 この間マスコミはRETFについて殆ど報道しませんでした。知る限りでは、日本経済新聞が取り上げたくらいです。RETFについて触れるのはタブーだったのです。
 RETFは、1995年ナトリウム火災事故により何年間も「もんじゅ」が停止し、再処理する高速炉の使用済み燃料が来なくなって無用の長物となり、2000年からは工事中断となっても年間2700万円の維持費を税金から出し続けました。
 2016年末「もんじゅ」廃止が正式に決まった後も維持管理費や税金などで年間約9千万円を出し続けていることが、11月11日の東京新聞一面で大きく報道されました。
 これは11月14日に、原子力機構の税金の使い方について議論する行政改革レビューが行われることになり、RETF問題や機構OBが役員を務めている「ファミリー企業」との契約の改善がなされていない問題などが俎上に上がることになったからでしょう。
 RETFは2000年に工事を中断しました。建屋のみ完成していて中は何もないがらんどうだといいます。原子力機構を統括している文科省はRETFは廃止したと明言していました。

2.近年RETF復活策動が始まった
  核武装論者安倍晋三氏が首相だった時期

 ところが近年、原子力機構はこのRETFを眠りから目覚めさせ、復活させようと躍起になりだしました。
 まず2014年度に東海村再処理工場から出た高レベル放射性廃棄物を最終処分場へ運ぶための容器詰めする施設へと、100億円規模の国費をかけて改造する計画が浮上しました。
 文科省は2016年度予算編成で前年度に続き、調査費2億1千万円を要求しました。高レベル放射性廃棄物は候補地すら未定です。さすがにこんな荒唐無稽な話は通らず、予算は撤回に追い込まれました。
 原子力機構は、なぜ近年「死に体」となっていたRETFを復活させようと躍起になりだしたのでしょうか。
 東京新聞の記事ではRETFについて一応の基本的説明はありますが、なぜそんなに税金を注ぎ込んで維持しようとするのかなどの解明がなく、通り一遍のことしか書いてありません。
 RETFは、高速炉の使用済み燃料を再処理して戦術核兵器に最適な超高純度プルトニウムを取り出すために作られた施設です。
 このような施設は当然のことながら核兵器保有国にしかありません。核兵器製造のための軍事施設です。
 核武装国でないのにこのような施設を作ることができたのは、日本だけです。
 まさに核武装に直結する施設であり、核武装国でないのに唯一日本だけが世界で例外的にこのような施設の建設が認められているのです。
 この特別扱いには、世界の核政策を先導、支配しているアメリカの意向が働いているのは確実です。(中)に続く
 アメリカは、カーター政権の頃までは日本の核武装に強く反対していましたが、その後レーガン政権の頃になるとアメリカの日本に対する核政策に変化が現れました。
 日本に対する厳しい核の規制を緩め、むしろアメリカの一定の管理下で日本の核武装につながる施設なども認めるようになりました。これは日本の核を中国に対峙させるためです。
 このRETFには米国内法(核不拡散法)や日米原子力協定で移転が禁じられている、核兵器につながる「機微な技術」が含まれている疑いが持たれました。(1994年8月5日グリーンピースがこのことを告発し、米エネルギー省は調査と結果の公表を約束しましたが、調査の結果がどうだったのか、残念ながら分かりません。
 2000年に建設中止したRETFを大金をかけて維持し、2014年頃からいろいろ策を弄して復活させようとする動きの裏には、2012年から2020年まで安倍晋三氏が首相であったことと関係があるのではと推察します。
 安倍氏は表向き「非核三原則」を堅持するといいながら、祖父岸信介の悲願を受け継いでいる、隠れも無き核武装論者です。RETF復活策動には当時首相だった安倍氏の存在が大きかったと思えます。

3.「もんじゅ」破綻後、老朽「常陽」に注目

 「もんじゅ」破綻後、高純度プルトニウムを生産する日本で唯一の高速炉として注目されたのが、大洗にある高速実験炉「常陽」でした。
 「常陽」は稼働から40年以上経つ老朽高速炉であり、後で詳しく述べますが、2007年には原子炉の上部にある構造物の部品を原子炉内に落とす事故を起こして長期停止中で、もはや廃炉にするしかないのではといわれていました。
 しかし国はこの惨憺たる状態の高速炉常陽を無理矢理起こして再稼働させようとしています。

4.プルトニウムを生産する高速炉に固執する日本

 遅きに失したとはいえ、高速(増殖)炉もんじゅが廃止と決定し、現在廃炉作業中です。
 しかし国は「もんじゅ」の失敗を教訓とせず、この期に及んでもプルトニウム生産する高速炉と核燃サイクルに固執しています。
 国は高速炉路線にしがみつき、生き残りをかけてフランスのASTRID計画に参画しようとしましたが、しかしフランスは2018年11月この計画を「凍結する」と発表しました。
 「凍結」とは事実上中止ということです。あきらめ切れない日本は、フランスに泣きついて、資金提供と引き換えにASTRID計画の研究だけは継続するという名目だけは残してもらうことことにしてもらいました。なんとも情けない有様です。そして2020年度の予算にASTRID関連として40億円を計上しました。

5.「常陽」は核武装のために開発設計された

 「もんじゅ」の廃止で超高純度プルトニウムを生産できる高速炉は大洗の原子力機構が所有する高速実験炉「常陽」だけとなりました。 
 「常陽」はもともと日本原子力研究所(以下原研)に集まっていた日本共産党系の研究者たちが、「日本に人民政府ができたら核武装するために」濃縮度98%の軍用プルトニウムを生産できる高速炉常陽の設計を企画し、完成させたのものでした。
 1957年に設立された動力炉・核燃料研究開発事業団(以下動燃)は、原研の計画の完成を待って、これを原研から取り上げてその開発を動燃に移してしまいました。そして概念設計、計器設計、安全審査などをわずか3年で終えて、1970年には建設にとりかかりました。

6.超高純度プルトニウムの生産に成功するも
  カーター米大統領によりその生産は中止に

 「常陽」は、1977〜1983年の性能試験運転期間に濃縮度99.2%という最高級のプルトニウムを19.2kg生産したのです。
 このような超高純度プルトニウムは危険なので発電には使用できません。すべて軍事用です。日本の核武装に強く反対していた当時のアメリカの大統領カーターによって、超高純度プルトニウムを生むブランケットは常陽から取り外させられてしまいました。以後常陽は、高速中性子による照射実験用として使われてきました。

7.上部構造物の部品原子炉内に落下
  回収不能で廃炉の瀬戸際に

 しかし2007年5月定期検査の際、炉心の上にある構造物の下面を破損してしまい、その部品であるピン6本が炉心に落ちてしまいました。そのことは半年後の11月定期検査が終わった時点ではじめてわかりましたが、「常陽」の炉心は「もんじゅ」と同じく、不透明な液体ナトリウムで満たされているので、回収は不可能でした。このため「常陽」は廃炉にするしかないのではと見られていました。

8.落下部品を回収できなくても
  危険を冒してまで常陽再開するのか

 2016年10月の核燃サイクルについての「議員と市民の院内集会」でのヒアリングで、文科省研究開発局課長補佐高橋功氏にこの事故の後始末がどうなっているのか質したところ、「原子炉内に落下したピン6本のすべては回収できていない。すべてを回収できなくても稼働に影響はない」との驚くべき答えが返ってきました。
 「常陽」について研究している槌田敦さんは、「6本のピンは炉心燃料のどこかにはさまっていると考えられ、これを放置したまま運転するとその部分のナトリウムの流れがおかしくなり、燃料の溶融という事態になってしまう」と述べています。
 原子力機構は2017年規制委へ停止している「常陽」の再稼働を申請しています。この落下ピンを放置したまま再稼働する気でしょうか。背筋が寒くなります。
 2019年6月付けの国のエネルギー白書には高速炉「常陽」の再開をめざすことが明記されています。
 「死に体」だった「常陽」とRETFの再開を目指す国は明らかに核武装のための施設の維持を強く望んでいると思われます。

9.「もんじゅ」や「常陽」が作った超高純度プルトニウムは現在どんな状態であるのか

 ところで「もんじゅ」が事故で止まるまでのほんの短期間に生産した約17kgと「常陽」が1977〜1983年に生産した超高純度プルトニウム19.2kgはどうなっているのでしょうか。
 私もよくはわからないのですが、「もんじゅ」は廃炉作業中で、ナトリウムはまだ抜いていないようなので、炉心の使用済み核燃料の中にそのままあるのではと思います。
 「常陽」の生産した超高純度プルトニウムは、RETFが中断し、アメリカの意向で再処理して取り出すことは、許されませんでした。
 「常陽」が定検で燃料交換し、超高純度プルトニウムが入った使用済み燃料を取り出した可能性があります。その使用済み燃料は大洗の施設のどこかに保管されているのではという説があります。

10.核廃絶と世界平和への貢献が日本の道義的、歴史的使命

 安倍政権を引き継いだ菅首相は、すべてを引き継ぐと明言しています。核政策についてもアメリカに追従して核兵器禁止条約を拒否し続け、原発再稼働を推進し、核廃絶に後ろ向きです。勿論今は公言はしていませんが、おそらく核武装の意欲も安倍氏から引き継いでいるのではと思われます。
 数年前ナガサキの被爆者から安倍前首相が浴びせられた「あなたはどこの国の首相ですか」の言葉を菅首相にも投げつけたいものです。
 核兵器禁止条約成立に尽力した被爆者のサーロー節子さんは、「戦争被爆国日本には核廃絶に努力する道徳的責任がある」といいました。
 唯一の戦争被爆国であり、またヒロシマ、ナガサキ、ビキニ、フクシマと4度も核の被害に見舞われた日本は、すべての核をなくすための運動の先頭に立つ道義的責任とともに歴史的使命を背負っているのです。
 今、中国も巻き込んで米ソ冷戦時代をもしのぐ大核軍拡競争に突入していると憂慮されています。
 この時に当たり日本は速やかに核兵器禁止条約に署名、そして批准し、原発も含めたすべての核廃絶と、世界から戦争、紛争をなくしていく運動をけん引していくべきです。それが日本の使命です。

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