[2023_01_13_09]原発回帰へのお墨付きか 老朽原発の稼働延長に大阪地裁がGOサイン_粟野仁雄_ジャーナリスト(週刊金曜日2023年1月13日)
 
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原発回帰へのお墨付きか 老朽原発の稼働延長に大阪地裁がGOサイン_粟野仁雄_ジャーナリスト

 福井県美浜町の関西電力(関電)美浜原発3号機から半径80キロメートル圏内(福井県、京都府、滋賀県)の住民らが「老朽化して危険」として関電に同機の運転差し止めを求めた仮処分の申し立てについて、大阪地裁の井上直哉裁判長は昨年12月20日、「安全性に問題はない」と却下した。
 1976年に運転開始した同機は国内で稼働中の原発で唯一、運転期間が40年を超えている。福島第一原発事故(2011年)翌年の法改正で原発の運転期間は開始から40年とされたが、原子力規制委員会が認めれば1回に限りさらに20年運転を延長できると例外規定で定められた。これにより同機は21年6月、運転開始40年以上の原発では初めて再稼働していた。
 政府は昨年12月22日に開催した第5回グリーン・トランスフォーメーション(GX)実行会議で、原発の建て替え(リプレース)や、60年以上の運転を認めるという、原子力政策の大転換も行なった。これにより、審査などで運転停止した期間を除いて60年以上たつ原発すら運転できるようになった。しかし、世界で60年を超えて稼働している原発などは1基もない。今回の決定はウクライナ侵略後のエネルギー高騰や「カーボンゼロ」に乗じた政府と電力会社のもくろみにお墨付きを与えた格好だ。
 住民や弁護団は決定当日にオンライン会見を開催。「脱原発弁護団全国連絡会」の河合弘之共同代表は「40年以上の原発の再稼働は例外中の例外としていたはずが、もはや一般のものになってしまった。誰だって怖くて40年も前の車なんか運転しないでしょう。電力会社は新増設ではコストがかさむため今の原発を使い倒すと決めたのです。危険極まりない。第一ラウンドは敗北したが、諦めずに戦う」と批判。住民側は1月4日、大阪高裁に即時抗告した。

 規制委の判断を追認

 大阪地裁は今回の決定で、地震時に想定される最大の揺れである基準地震動が改正後の新規制基準では引き上げられたが、関電が耐震補強工事を行なっているなど、安全性に問題はないとした。だが裁判官時代に大飯原発再稼働の差し止め判決を下した樋口英明氏は「リアリティーがまったくない裁判官の決定です。地震になれば300〜400ガルでも外部電源は断たれて給水ポンプも壊れる。補助電源に切り替えられなければ過酷事故につながる」と批判。事故が起きた際の避難計画には「不備はない」とした点についても「あそこで事故が起きれば逃げられないのは当たり前」と語った。
 住民弁護団の井戸謙一弁護士も「裁判所は規制委員会の判断を踏襲するだけ。中身のない決定で司法の役割を放棄している。最近は裁判官の原発を止める心理的ハードルも低くなっていたが、今回は揺り戻しになった」と嘆く。ただちに原発を止められる仮処分決定はハードルが高いが「一般の原発の稼働は仕方がないが老朽原発は駄目だと思っている国民は多い。国民の意思で裁判官にハードルを越えさせなくては」としつつ、今回の決定が「(再稼働が)不合理であるとの立証責任を住民に負わせている」とも指摘した。
 運転開始から40年を超える原発は関電の高浜原発1号機(福井県)の48年を筆頭に全国で4基。中でも美浜3号機は04年8月、老朽化した復水配管がひび割れしたことで大量の熱水と蒸気が噴き出し、作業をしていた5人が死亡する痛ましい事故を起こした。
 そんな事故は誰も覚えていないと言わんばかりに政府は再稼働に邁進する。12月20日の決定を受け、西村康稔経済産業大臣は同日夕、「原子力規制委員会が世界で最も厳しいと言われる基準に適合すると認めた発電所について、地元の皆さんの理解を得ながら再稼働していく」と記者団に語った。だが福島原発事故後に原発の再稼働を認めた規制委の初代委員長だった田中俊一氏は、過去に「世界一厳しい基準をクリアしたと言っているのであり、絶対に事故はないとは言ってません」と言ってのけている。何が起きても誰も責任を取らない図式だけが構築されてゆく。
(『週刊金曜日』2023年1月13日号)
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