[2023_01_25_02]東海第二原発の控訴審直前に東京高裁が裁判長ごと担当替え 国の代理人だった過去を問題視(東京新聞2023年1月25日)
 
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東海第二原発の控訴審直前に東京高裁が裁判長ごと担当替え 国の代理人だった過去を問題視

 日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)の運転差し止め訴訟の控訴審で、訴訟を担当する東京高裁の担当部が別の部に移る見通しであることが分かった。過去の原発関連行政訴訟の国側代理人などを務めていたことを問題視した原告側の弁護団が、裁判長に自発的な辞退を求めていた。弁護団が25日、明らかにした。31日に予定していた控訴審の第1回期日は取り消しとなった。(小嶋麻友美)

 ◆弁護団「決断を評価」

 弁護団によると、担当だった永谷典雄裁判長は、行政訴訟で国側の立証を担う法務省の訟務部門に長年在籍。複数の原発関連訴訟で国側代理人を務めたほか、国に東海第二の運転差し止めを求めた行政訴訟(後に取り下げ)では、訟務担当の審議官などで指揮する立場にあった。
 永谷氏は昨年9月、広島地裁所長から東京高裁に異動し、差し止め訴訟の控訴審の裁判長に就任。弁護団は「公正な裁判が行われない」として12月、永谷氏に自主的に辞退するよう申し入れていた。
 弁護団の海渡雄一弁護士によると、今月25日に永谷氏から「諸般の事情にかんがみて事件の担当替えをする」と説明を受けたという。新たな部が審理を引き継ぐ見通し。
 弁護団は25日、東京都内で記者会見し、河合弘之弁護士は「本人は経歴に関係なく公正中立にやると言っていたが、客観的に見て行政に味方するという推測が働く。(担当替えを)決断したことは評価したい」と述べた。海渡氏は「国の代理人と行政訴訟の裁判長を兼ねるべきではない。(裁判官と検察官の)判検交流は民主党政権で禁止されたが、行政訴訟の国側代理人と裁判官の交流も禁じるべきだった」と指摘した。

 ◆申し立てても…「実際に交代するのは極めて異例」

 担当する裁判部の変更という異例の見通しとなった日本原子力発電東海第二原発差し止め訴訟の控訴審。同じ事情による裁判官の交代は珍しく、有識者は「そもそも裁判長をやろうとしたこと自体が、良識を欠いている」と指摘する。
 東海第二訴訟の原告弁護団によると、自衛隊の合憲性を争い、1989年に最高裁が上告を棄却した百里基地(茨城県)訴訟で、最高裁判事が過去に国側の立証活動に携わったとして審理への参加を回避。ほかに、91年に横浜地裁小田原支部の裁判官が、被告に有利になるような訴訟指揮をしたとして原告側の申し立てを受けて交代した。
 原発関連訴訟で裁判官の交代を求めるケースは多い。2018年に関西電力大飯原発3、4号機(福井県)の差し止めを命じた一審判決を取り消した名古屋高裁金沢支部は、原告側の交代申し立てを却下。訴訟中の北陸電力志賀原発(石川県)の差し止め訴訟も、金沢地裁が原告側の申し立てを却下した。
 元裁判官の多田元弁護士は、交代の申し立てについては「裁判所へのけん制球のようなものでよくある。実際に交代することは極めて異例」と説明。東海第二のケースは「中立な判断ができるとは言えず、(裁判部の変更は)至極当然」と指摘。「裁判所が行政寄りになっていることを示し、司法の独立性を軽視している」と批判した。(小野沢健太)

 ◆原告の住民「良かった」と歓迎

 東海第二原発周辺で暮らす原告の住民たちからは、驚きや歓迎の声が上がった。自宅が原発から1.7キロという川野弘子さん(80)は「あまりにもひどい手だったので良かった。原告団の申し入れが通ったのだと思う」と喜んだ。
 永谷典雄裁判長の経歴は、22日に東京都内で開かれた原告団の決起集会で知ったという。「国はすごいことをやってくるなと思った。三権分立のはずなのに、政府が裁判所の人事に介入したようにしか見えない」といぶかしんだ。
 東海村の相沢清子さん(81)は「このまま強引に進めると思っていた。報道でも取り上げられ、無視するわけにはいかなかったのかもしれない」と推測。「東海第二は老朽化しているし、周りに住む人も多い。次(の裁判長)がどんな人になるのか分からないが、絶対に勝ちたい」と気持ちを新たにしていた。
 東海村の北隣の日立市に住む男性(74)は「こちらの言い分を事実上認めた形で、痛いところを突かれたというのが本音だろう」と指摘。「一審を何としても覆したいという国の大方針は変わっていないと思う。また何か手を打ってくるかもしれない」と身構えた。
 一方、日本原子力発電は本紙の取材に「詳細を把握していないため、コメントを控える」と回答した。(長崎高大)
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