[2022_09_07_03]≪声明≫岸田政権の原発回帰政策に反対 老朽原発を更に酷使して大事故を招く 「新増設」は審査方法さえ決めていない たんぽぽ舎(たんぽぽ2022年9月7日)
 
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≪声明≫岸田政権の原発回帰政策に反対 老朽原発を更に酷使して大事故を招く 「新増設」は審査方法さえ決めていない たんぽぽ舎

 政府は8月24日に開かれた脱炭素政策を議論する「グリーン・トランスフォーメーション(GX)実行会議」で、東電福島第一原発事故以来、新増設を否定(又は凍結)してきた原子力政策について、これを転換することを表明した。
 さらに、既存原発についても、現在の運転延長期間を更に引き延ばし、合計80年運転の実施を検討すると共に、新規制基準適合性審査を通っている原発の再稼働を推進することも明らかにした。
 これはウクライナ危機による電力需給の逼迫を理由に、原発の活用を前のめりで決定しようとする政策転換であるが、あまりに現実から乖離した危険な方針であり、撤回を強く求める。

1.「新増設」の方法すら決まっていない

 新たな原発を作る?
 突如表明した方針だが、SMR(小型モジュール原子炉)は、実用炉は世界に一基も無い。
 フランス製のEPR欧州加圧水型炉は160万kWと大出力ながら二重の格納容器やコアキャッチャーの設置など安全性を強化した結果、一兆円以上にもなる(日本で作ってきた軽水炉は一基6000億円ほど)。
 こうした「海のものとも山のものともつかぬ」原発を、新たに作るというのだが、どこに、いつ、どうやって作るつもりか、その審査はどうするのかという基本が全く示されていないし、決まってもいない。
 法令上は新規原発の設置については原子力委員会が決定し、安全性については原子力規制庁が審査すると考えられている。しかし12年も新規立地の審査がないので、これらの仕組みが新しい原子力規制体制のもとでどうするのか、全く示せていない。

 事業者についても同様だ。
 既に新規立地計画が12年も進んでいない今、原発を一から設計して建設できるメーカーはおそらく存在しない。では、外国から買うのだろうか。福島第一原発事故は米国から買ってきた原発が引き起こした。日本の実情を認識していなかったことも原因の一つだった。
 原発の新増設は手続きが定まっていても20年近くかかる。
 さらに手続き論や炉型に至るまでこれから検討するのだから、さらに長時間かかる。
 同じ時間と費用を掛けて、エネルギーシステムの改良と自然エネルギーの活用を進めていけば、原発のような危険で高い電源の入り込む余地はない。
 なお、設置許可申請の途中で止まった上関原発や敦賀原発3、4号機などは、そのまま審査を再開して建設することなどは論外である。
 おそらく、この流れでの「新増設」とは、現在建設中の大間原発(電源開発)と島根原発3号機(中国電)と、せいぜい東電の東通原発が挙げられる程度であろう。これらの建設も、大きな問題があることは言うまでもない。

2.老朽炉の延長運転は原発を更に危険にする

 現在は、40年を超えても20年までは延長を認めているので、美浜原発3号機や東海第二、高浜原発1、2号機など40年を超えた原発が再稼働を準備している。
 さらに、川内原発など近々30年を超える原発では、20年の延長を目指す動きが始まっている。米国では二度目の20年の延長認可を取得した原発が現れた。
 いずれ日本では、再稼働した原発は半ば自動的に20年の延長運転が許可されるようにするつもりだ。

 もともと田中俊一前規制委委員長は「例外的」としていた20年の延長運転が、なし崩しに全部で実施されるとしたら、そもそもそういう法規制に何の意味があるのだろう。原則40年の運転期間を定めた法令改正の意義さえ無視するものだ。
 なし崩しがお得意の日本の行政は、これに乗っかり「80年まで運転延長」及び「運転期間を稼働していた時間で計算する」の二つの重大な改悪を目論んでいる。
 これならば東海第二や美浜3号も現在の制限を超えて更に運転が出来るというわけ。
 これは重大事故を準備するに等しい暴挙であり、阻止しなければならない。

3.再稼働推進7基は危険なものばかり

 東海第二、女川2、柏崎刈羽6、7、高浜1、2、島根2、これが「再稼働を進める7基」だ。
 うち、40年越えの老朽炉が東海第二と高浜。
 東日本大震災により被災した原発が東海第二と女川2。中越沖地震に被災した原発が柏崎刈羽。
 福島第一原発事故と同様の沸騰水型軽水炉が東海第二、女川2、柏崎刈羽、島根2。
 今後想定される巨大地震と津波に遭遇する確率が高いのが、女川2、東海第二。
 日本海側で未知の断層や地震地体構造からみて危険性が高いと想定されるのが柏崎刈羽、高浜、島根2。

 多くに名が上がる東海第二も、福島第一原発事故を引き起こした東電の柏崎刈羽原発も、新規制基準適合性審査を通したことでも大きな問題だ。
 また、東海第二は水戸地裁判決(2021年3月18日)で運転が差し止められてもいる。

 地元同意がない柏崎刈羽原発と同様に、この一・二年で再稼働できると考えるほうがおかしい。
 防災体制についても、震災を経ている女川、冬の日本海の豪雪に見舞われる柏崎刈羽、30キロ圏内人口が90万人を超える東海第二と、いずれをとっても大変な難題が解決不能だ。

 国民の命を守る責任がある政府が、それを放棄して原発再稼働推進に突き進むことは許されない。
 原発再稼働を推進する原子力ロビーの圧力により行政をゆがめることはあってはならない。
 地元の合意がこれからという原発では、こうした国の発表は地元への大変な圧力になる。民主主義を破壊する行為だ。

4.原発再稼働は「電力逼迫」の解決にならない

 「電力逼迫」対策として、原発再稼働を推し進めようとする政府だが、原発で大電力を供給するほうが遥かにリスク(この場合は特に停電リスク)が高いことは、東日本大震災と2007年の中越沖地震で経験ずみだ。
 原発も火力も海沿いに多数立地しているから、津波に襲われれば被災する。仮に発電所に大規模な破壊が生じなくても、高圧送電線や変電所が被災すれば電気は来ない。

 地震や津波においては、原発こそ停電のリスクが高い。
 自然災害に強いシステムとは、むしろ一つ一つが脆弱でも広く分散して設置され、地産地消の仕組みが出来ているものだ。
 もう多くの人は忘れてしまったのかも知れないが、東日本大震災後の電力設備の復旧も、火力が圧倒的に早かった。
 震災で被災した原発15基は、未だに一基も再稼働していないが、火力は震災の年の7月までに全て復旧している。また、震災直後に大量のディーゼルやガスタービン発電機を調達し、電力供給を行うことも出来た。これは原発では不可能なことだ。

 今年夏の節電要請は、震災直後の2012年以来7年ぶりと各社報じたが、ではその前は何時だったかご存じだろうか。2007年である。この年の7月16日に中越沖地震が発生し柏崎刈羽原発が全部止まったため節電要請が出されている。(経済産業省関東圏電力需給対策本部決定 平成19年7月20日付け)
 つまり過去の節電要請は全て原発の停止が原因だったといっても過言ではない。
 地震は年中起きている。原発のすぐ近くでも頻発している。これが原子炉スクラム(緊急停止)設定値以上の揺れになれば、原発は止まる。そして被害が全くなくても数日は再稼働できない。
 このような設備が「逼迫対策」になるはずがない。

5.原発よりも東西連系等の送電設備改革にこそ取り組め

 2011年の東日本大震災以降、原発につぎ込まれた資金は5兆7千億円に達する。東電だけでも柏崎刈羽原発に1兆2千億円つぎこんだ。
 そのあげくに電力生産はほとんどできていない。
 これまでの「電力逼迫」の経緯を見ると、日本列島全域で逼迫したことはない。多くは東京を中心にした「首都圏逼迫」だった。

 この責任は東京電力にあると言っても過言ではない。
 東電が火力をJERA(中部電力との合弁子会社で火力発電会社)移管したが、そこで石油火力などで老朽化した設備の更新が行われず、使用可能な設備容量が大きく減ったことが原因だ。

 一方、ウクライナ戦争によりエネルギーコストが増大し、電気を売っても赤字になる事態に直面したことで、休止火力を廃止する動きも重なった。
 しかし原発に何兆円もつぎ込める「体力」がある電力会社なのだから、それを火力設備や送電設備の更新、新設に振り替えれば済むことだ。
 それを促す国の動きも見られない。

 あえて「電力逼迫」を起こさせて、「原発回帰」に持って行こうとする政治的意図が見え見えなのである。
 まともな行政ならば、取り組んでいた「電力システム改革」「送電設備の東西連系強化」に直ちに取り組むことを強く求める。
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