[2016_03_12_01]原発停止命令 揺れる再稼働(中) 避難計画 在り方問う 自治体任せの現状批判(東奥日報2016年3月12日)
 関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた大津地裁の仮処分決定は、過酷事故が起きた際、住民の安全を守る最後のとりでとなる避難計画の在り方に疑問を投げ掛けた。計画は実際に機能するのか、司法が国民の不安を“代弁≠オた。
 「痛いところを突かれた」。決定を読んだ政府関係者は苦り切った顔で漏らした。「避難計画は永遠に改善を続けるものて100点がない。ここが焦点化すれば、原発は動かせなくなる」
 原発の安全神話に支配されていた東京電力福島第1原発事故前、原発事故に特化した避難計画はなかった。福島事故では住民避難が大混乱を来し、事故後、原発から半径30キロ圏の自治体に策定が義務付けられた。
 計画には避難施設や経路、輸送手段などが貝体的に盛り込まれる。対象自治体は21道府県135市町村で、2月現在策定済みは96市町村。残り約3割は未整備だ。策定に期限はなく、再稼働の法的要件にもなっていないが、新規制基準とともに「車の両輪」(田中俊一原子力規制委員長)とされ、事実上の前提条件と考えられている。
 それにもかかわらず、計画を国が審査する制度はない。地裁決定は「国には避難計画を視野に入れた幅広い規制基準を策定する信義則上の義務がある」と自治体任せになっている現状を批判し、国主導での早急な計画第定の必要性を提起した。
 高浜原発が立地する福井県には、廃炉手続きが取られたものを含め15基の原発が並び立つ。大飯原発のあるおおい町で、作業員向けの旅館を営む森下弘司さん(59)は「避難計画なんて地元では誰も信用してない」と冷ややかだ。
 おおい町の計画では、大飯原発や高浜原発で事故があった場合、約8500人の町民は若狭湾沿いに美浜原発のある美浜町を越え、敦賀原発やもんじゅのある敦賀市に避難する。主な経路の国道27号は片側1車線しかなく大渋滞が確実な上、巨大地震や津波が起きていたら、他の原発でも過酷事故が起きている可能性がある。森下さんは「あり得ない想定。国がきちんと審査していればこんな計画にはならないはずだ」とあきれる。
 高浜の停止で全国唯一の稼働原発となった九州電力川内原発のある鹿児島県では昨年6月、県とバス協会が輸送協定を結んだ。県の試算では、半径5キロ圏の住民約5千人のうち、高齢者や子どもら約3千人の避難に80台のバスが必要になる。
 大手バス会社の労組幹部は「川内地区にあるバスは全部で約150台。営業中の車両も多いことを考えると必要台数の確保は容易でない」と言い、こう続けた。「現実的な計画とは思えないが、国も県もわれわれも、事故が起きないと信じることで目をそらしている」
KEY_WORD:TAKAHAMA_:FUKU1_:OOI_:MIHAMA_:TSURUGA_:MONJU_:SENDAI_:TSUNAMI_: