[2016_09_25_02]「四方八方から石が飛んでくる」 田中俊一委員長任期間近の原子力規制委が抱える火ダネとは(産経2016年9月25日)
 
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「四方八方から石が飛んでくる」 田中俊一委員長任期間近の原子力規制委が抱える火ダネとは

 原発の再稼働の鍵を握る原子力規制委員会が9月19日、5年目を迎えた。田中俊一委員長(71)の任期は残り1年になり、“田中体制”は最終年に入る見込み。原発の推進派からも反対派からも批判の嵐が吹き荒れているが、「独立」を旨とする規制委は意に介せず、このまま突き進んでいくのだろうか。(原子力取材班)

「解散せよ」と息巻く反原発派

 「四方八方からいろんな石が飛んでくる。その中で、独りよがりになるのは戒めなければいけない。十分に規制行政を担っていくための質、量ともまだ少し足りない。少し時間はかかる」
 規制委の田中俊一委員長は記者会見で、5年目を迎えることについてこう語った。
 確かにこの4年、いろんな“石”が飛んだ。
 特に反原発派の執拗なまでの攻撃には辟易していたようだ。9月17日には「再稼働阻止全国ネットワーク」からさっそく、抗議声明が届いた。 声明には「川内原発の稼働を直ちに止めなさい」「高浜原発の合格を撤回しなさい」「全ての原発の審査を中止しなさい」などと並ぶ中、「さもなくば、原子力規制委員会は解散しなさい」と訴えた。
 この4年間このような文書がそれこそ山のように規制委に届いている。 規制委はよっぽどストレスを抱えていることだろう。5年の任期が切れても再任は可能だが、70歳を超えた田中委員長は再任を「考えたことがない」としており、最終年になるのが確実の見込みだ。
 ただ、いまだ9万人近くの避難民がいる福島については、「もう少し先に進めたい。そう簡単にはいかないことも事実だから、焦らないで着実にやっていく」との思いがある。

著しい審査の停滞

 この4年間、規制委が忙殺されているのは、再稼働に向けた原発の審査だろう。
 毎週3回ほど朝から晩まで開かれており、会合はすでに計400回を超えた。にもかかわらず、裁判で止められた関西電力高浜原発(福井県)を除き、稼働しているのは九州電力川内1、2号機(鹿児島県)と四国電力伊方3号機(愛媛県)の3基だけ。審査の停滞は著しい。
 田中委員長は「私が描いたよりはいろいろ足踏みしているところもあるが、これもやむを得ない」と述べ、審査の遅れを事業者側の責に帰している。
 中でも、元身内から投げられた“石”は予想外だったようだ。
 地震や津波の審査を担当していた元委員長代理の島崎邦彦東京大名誉教授が今年6月、退任後の研究の成果として、自ら審査した関電大飯原発(福井県)の「地震想定が過小評価されている」と言い出したことだ。
 規制委は再検証して「問題なし」と結論付けたものの、島崎氏は納得せず、様々な場で疑問を呈しており、規制委の審査の信頼が疑われる事態になっている。
 原発推進派からは、原発敷地内の活断層調査について噛み付いてきた。 規制委は専門家調査団を組織して6原発で活断層がないかどうか調べてきた。ようやく全ての原発で報告書が出されようとしているが、当初は調査がずさんだとの反発が強かった。
 特に日本原子力発電の敦賀原発(福井県)に対しては早々と「活断層」と断定し、原電側が激しく抗議した。評価に携わった有識者からも「データにかなり不足がある」「メンバーに偏りがある」「学術論文には到底書けないもの」となどと苦言を呈したこともあった。


 最後にメディアとの関係について触れる。
 他の省庁とは異なり、規制委には記者クラブという存在はない。記者会見へは外国メディアやフリーの記者も参加可能だ。
 しかし、記者会見を規制委や原子力規制庁が主催することになっているため、特定の報道機関を排除できる仕組みになっているところに問題がある。
 平成25年11月には、毎日新聞が出入り禁止にされる“事件”があった。
 毎日は「被ばく防護策 規制委員長、住民聴取拒む」という記事を掲載したものの、後に誤報だったと分かる。
 しかしそれまでの間、毎日新聞記者の記者会見への出席や、電話などあらゆる取材を一切拒否した。会見で見知らぬ記者が出席していると、広報担当者が「毎日の記者か」と尋ねるほどの徹底ぶりだった。
 誤報は当該社が反省すべきことであろう。しかし一切の取材を拒否し、どういう場合に出入り禁止という処断が下されるのか、明確な基準がなく、その恣意性を各記者が問題視し、抗議した。
 今年3月には朝日新聞と規制委が対立した。九州電力川内原発(鹿児島県)周辺の放射性物質観測装置の整備は「不十分」と報じた朝日に対し、規制委は「犯罪的だ」とまで批判して、今後の電話取材は一切受け付けないという処置に出た。
 前回の毎日との対立で教訓を学んだのか、「出入り禁止」まではいかなかったが、ここでもその基準の不明確さに対し、各記者が問題視した。
 メディアと国の機関は往々にして対立する。メディアは権力を持つ者を常に監視する役割があることから当然のことではあるが、ただ誤報などによって権力側が強権を発動することは、行き過ぎであろう。
 5年目の規制委はメディアに対してどのような対応を見せるのか。これからも目が離せない。


原子力規制委員会  東京電力福島第1原発事故を教訓に、原発推進の経済産業省などから規制部門を切り離し、環境省の外局として昨年9月に発足。公正取引委員会などと同様に、政府からの高い独立性を持った国家行政組織法の「3条委員会」として位置づけられている。5人の委員の下には、事務局として原子力規制庁が組織され、職員約450人が所属している。

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