[2020_12_30_03]一方的なタイムリミット 国民理解深まらず トリチウム水保管タンク(福島民報2020年12月30日)
 
参照元
一方的なタイムリミット 国民理解深まらず トリチウム水保管タンク

 二〇一九(令和元)年八月、東京電力は突然、福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水保管の限界について言及した。タンクは二〇二二年夏ごろに満杯になると見込まれている。政府、東電は切羽詰まるまで情報を公開してこなかった。敷地に限りがある中、タンク保管に限度があるのは当初から分かっていたとの指摘もある。
 東電はこれまでも重要な情報を隠したり、伏せたりしてきた経緯がある。二〇〇二(平成十四)年に発覚するまで、福島第一原発、第二原発などの自主点検でひび割れなどのトラブルを見つけながら放置したり、修理記録を改ざんしたりしていた。今回も時間切れを狙った「結論ありき」の対応ではないかと批判する声が出ている。

■2年半費やす

 福島第一原発では、炉心溶融(メルトダウン)を起こした1〜3号機の原子炉建屋に残る溶融核燃料(デブリ)を冷やすために注水を続けている。この水に地下水や雨水などが混ざり合って汚染水が増え続けている。
 汚染水は放射性物質吸着装置や多核種除去設備(ALPS)を使って大部分の放射性物質を除去し、処理水となる。保管には一時的に地下貯水槽も活用されたが、漏えい問題が発生し、地上タンクに集約された。東電が本格的に汚染水対策を開始した二〇一四年度平均の汚染水発生量は一日当たり約四百七十トン。一基当たりの容量は千トン程度で、タンクはすぐにいっぱいになる。タンク増設を急ピッチで進める必要があり、森林を伐採して敷地を拡張しながら対応してきた。林立するタンクは千四十七基に上り、合計約百三十七万トンを保管できるまで拡大した。
 処理水を保管する一方、二〇一三年十二月、処理水の処分に向けた政府の作業部会が設置され、専門家が処分方法の検討を始めた。作業部会は二〇一六年六月、地層注入、海洋放出、水蒸気放出、水素放出、地下埋設の五つの処分方法を示した。五カ月後の同年十一月、小委員会が設置され、この五つの方法で処分した際の風評などの社会的影響についての議論を始めた。
 その後、議論は深まらず、処理水処分によって今後起こり得る風評への具体的な対策は、二年半を費やしても一向に結論が見いだせないでいた。

■一気に収束

 東電がタンク保管の期限を示し、停滞していた小委員会の議論の潮目が変わった。東電は廃炉作業の最難関となるデブリ取り出しを進めるに当たり、今後必要となるデブリ一時保管施設や分析施設、訓練施設などの整備に敷地を活用するとし、これ以上のタンク増設は難しいとして「タイムリミット」を宣告した。
 雪崩を打ったかのように議論は一気に収束に向かい、今年二月、わずか半年で大気への水蒸気放出と海洋放出が現実的とする報告書がまとめられた。
 東電は二〇一三年にALPSを導入した当初、トリチウム以外の六十二種類の放射性物質を除去していると強調してきた。実際にはヨウ素129やルテニウム106など複数の放射性物質も排水の法令基準値を超えて残存していた。この事実が明らかになったのは二〇一八年八月、政府小委員会主催の公聴会が開かれる直前で、国民の処理水や東電に対する不信は一気に高まった。
 この間、国民に対する処理水に関する理解を深める活動はゼロに等しかった。政府小委員会の委員を務めた小山良太福島大食農学類教授は「小委員会は設置当初から議論が制約されていた。このまま決まってしまえば、結論ありきともとられかねない」と疑問を投げかけている。
KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_: