[2019_03_15_07]8年目の現実 福島原発震災の教訓と危機状況 次の地震と津波に備えるため建屋全体を強固な構造で覆い上部をふさぐ工事が必要_山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)(たんぽぽ舎2019年3月15日)
 
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8年目の現実 福島原発震災の教訓と危機状況 次の地震と津波に備えるため建屋全体を強固な構造で覆い上部をふさぐ工事が必要_山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)

目次の紹介
1.津波の危険性がバージョンアップ
2.福島第一原発のリスク
  建屋全体を強固な構造で覆い上部を塞ぐ工事が必要
3.未解決の汚染水問題
  「長期保管」でトリチウムの減衰を待つ
4.デブリはいじらず石棺で長期密封すべき
5.原発再稼働が福島第一原発事故対応を阻害する

1.津波の危険性がバージョンアップ

 3月3日のNHKスペシャル「黒い津波」では、対津波対策に重大な影響を与える新たな事実が明らかにされた。
 津波被災地では、最初は透明な海水が防潮堤を越えてきたがしばらくすると「黒い水」に変わったことが知られている。映像でも数多く残されている。
 この「黒い津波」は、海底のヘドロなどが津波の潮流に押し流されて形成された。NHKは、今まで保管されていた「黒い水」を入手し分析した。その結果は恐ろしいものだった。
 泥混じりと言うよりも墨汁のような黒い水は、8年の歳月の後にペットボトルの底に真っ黒なヘドロが沈殿し、褐色の水と分離していた。しかし混ぜると元の黒い水に戻った。
 ヘドロなどを巻き上げて形成された黒い水を壁に衝突する時の力を比べる実験をした結果、「通常の水」の256kg重/平方メートルに対し「黒い津波」では556kg重/平方メートルと、2倍以上に達したことが分かった。
 比重の重い津波は、建物を浮かせる力つまり浮力も増していたことがわかった。水の密度が増したことで浮力も大きくなった。
 NHKが気仙沼湾に潜り調査したところ震災前は水深6メートルとされた場所が、水深13メートルになっていたという。気仙沼湾全体で推計100万トン分の海底が削り取られ津波となって地上を襲った。黒い水は人々を溺死ではなく窒息死させた可能性も指摘されている。また、その後、乾燥して粉じんとなり、人々を襲った。そのため肺炎や合併症を発症した人々も多数いた。
 同じ現象が東海第二原発などの前面で起きれば、黒い津波は想定を遙かに超える破壊力をもって防潮堤を叩くであろう。想定潮位以下の高さでも防潮堤をたたき壊し、その残骸と共に原子炉建屋に激突する。各地の原発が、それでも支えられるとは思えない。

2.福島第一原発のリスク
  建屋全体を強固な構造で覆い上部を塞ぐ工事が必要

 福島第一原発の報道は、最近めっきりと減っており、依然として続く「原子力緊急事態」の下で、巨大な汚染地帯に帰れない、帰らない人々が大勢いる。
 現状の認識について被災者と行政の間に巨大な解離が生じている。
 除染と舗装により原発敷地内の空間線量は原子炉建屋内内部以外はマスクや防護服はほとんど必要ないレベルまで低下しており、年間1万人以上の見学者を受け入れているという。
 しかし、リスクがなくなったわけではなく津波や地震への備えが不十分なことは変わりがない。
 現在の想定津波高は26mだ。地震と津波で破損し、多くの開口箇所がある建屋に大量の海水が浸入する。放射能放出事故が再び起きるリスクは高い。
 東京電力が進めている開口箇所を塞ぐ工事のペースは遅々としている。東電は2018年10月10日の段階で122箇所のうち61箇所まで塞いだと説明している。8年で半分しか塞げないし、建屋の強度は劣化が進み悪化するだけ。
 地震と津波に備えるためにも、建屋全体を強固な構造で覆い、上部を塞ぐ工事が必要だ。国有企業東電に対して、福島第一原発の安全性強化こそ第一に取り組ませる責任が政府にはある。
 東海第二原発や柏崎刈羽原発に回す資金はないはずだ。

3.未解決の汚染水問題 「長期保管」でトリチウムの減衰を待つ

 汚染水問題は2つのカテゴリーがある。1つは敷地に流れ込む地下水と降り注ぐ雨水が放射能に汚染されて環境中に流出していること。
 もう1つのカテゴリーが、原子炉を冷却するために水を循環させているシステムから出る汚染水で、トリチウムを大量に含んでいる「トリチウム汚染水」だ。
 この2つのうち、主に議論になっているのは「トリチウム汚染水」。
 東電は敷地内のタンクを増設し続けており約112万トンを保管している。
 建屋には地下水と雨水と冷却用に投入している水が流入し、その一部は環境中に流出、そして大部分は吸い上げられてアルプス(トリチウムを除く放射性物質を低濃度まで除去する設備)を通して再度「冷却に使用」されるラインと、タンクへ貯蔵されるラインに振り分けられる。このうちの後者が「トリチウム汚染水」だ。
 原子力規制委員会は早期の海洋放出を求めているが福島県や地元の人々から、海に流すなとの強い要求を受けている東電は結論を出さず、国の汚染水処理対策委員会に下駄を預けている。
 その委員会が、地元と東京の3箇所で公聴会を開いた。意見表明をおこなった44人のうち海洋放出に賛成したのは2人。これを受けて汚染処理対策委員会は早期放出案を一旦中止し、対策の選択肢の中に長期保管を加えて検討することとしている。
 半減期の10倍の時間が経過すれば放射線量はほぼ1000分の1になるので、800兆Bqくらいと想定されている汚染水中のトリチウムは123年後には8000億Bqほどになる。
 それを100万トンで割れば1リットル当たり800Bqで、今の東電の基準1500Bq以下になる。こうした減衰を待つ方法が問題解決には有効だ。

4.デブリはいじらず石棺で長期密封すべき

 溶けた燃料がどうなったのか。2017から2018年にかけて少し見えてきた。
 ロボットカメラで調査し、1、2、3号機で燃料の溶け落ちた様子など格納容器内の状況が一定程度わかってきた。
 しかし、それらを三次元的に把握するには至っていない。
 デブリの場所は確認できても、それが張り付いているのか浮いているのか、重さや固さは、持ち上げられるかもわからない。今は2019年度のどこかの時点でデブリのサンプリング調査をする段階だ。
 デブリの取り出し方法も不明確だ。
 むしろデブリを取り出すことを考える前に、100年程度は密封して管理することだ。まず最初に10年くらいかけて水が出入りしないように地下に「石棺」を造るべきだ。
 中途半端な状態でデブリをいじり出すのが一番危険だ。万が一にも臨界になったり水蒸気爆発を起こしたりすれば手に負えない。建屋の破損箇所から流出することも怖い。東電もそれはわかっているはずだ。
 密封して管理するしかないことを地元に納得してもらうほかない。
 今は「あらゆる手段を尽くして頑張っているのだ」という姿勢を見せ続けることが目的化している。
 しかしそれは、巨額の資金を投入し続けることになる。それが税金であることは忘れてはならない。

5.原発再稼働が福島第一原発事故対応を阻害する

 資金投入といえば、原発再稼働に日本中で巨額の資金が投じられている。東電も柏崎刈羽原発に6800億円を投じた。
 東海第二原発にも1900億円をつぎ込む予定だ。福島第一原発に集中すれば、もう少しまともな対策が進められる。
 再稼働ありきの国や電力会社の姿勢は、資金や人材を、再稼働出来ない原発に投じながら「フクシマ」を無かったことにしようとしている。
 九州電力は川内原発と玄海原発を再稼働させた結果、管内の電力需要に比して過大な発電設備になり、太陽光など再生可能エネルギーからの供給を強制遮断した。本末転倒である。
 他にも弊害が出ている。北海道電力の全道停電も泊原発の再稼働を当てにしているため本州との連系線を含む送電網や新規発電所の整備が遅れた結果である。
 東海第二原発は、運転制限期間40年を超えており、本来は廃炉だが3000億円もの費用を掛けて再稼働しようとしている。100万人いや、それ以上の人々の生命と生活を危機にさらしながら。
 再稼働への「意気込み」を醸成したのは国の「原子力をベースロードに」とのエネルギー基本計画だ。実態は現時点で再稼働している原発は9基だけ。「2030年に20%」など達成できるはずもない。
 再稼働の旗振りが続く限り「国策」に寄生して原子力産業は巨額資金を調達し続け、そのツケは国民に回る。もし事故が起きれば数十、数百倍へと膨れ上がるだけだ。
 この「悪夢のサイクル」を止めなければ、どんな政権が出現しても変わらない。
 再稼働阻止とは日本の仕組みそのものを問い直すことでもある。(了)
 (初出:月刊たんぽぽニュース2019年3月No279より転載)

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