[2014_03_27_01]原発地下水放出 対策本番はこれからだ(毎日新聞2014年3月27日)
 

原発地下水放出 対策本番はこれからだ

 東京電力福島第1原発事故の汚染水対策で、原子炉建屋に流れ込む前の地下水をくみ上げて海に流す「地下水バイパス」計画を福島県漁連が容認した。対策を一歩前進させるためには、汚染前の地下水放出はやむを得ない措置だ。しかし、計画を容認した漁業者の間には東電への不信が根強く残っている。政府と東電は漁業者の苦渋の決断を受け止め、国内外への情報公開の徹底や風評被害対策に努めてもらいたい。
 福島第1原発の敷地では、山側から海側に1日1000トンの地下水が流れている。このうち400トンが建屋内に流入し、溶融した核燃料に触れて汚染水となっている。
 計画では建屋流入前の地下水を12本の井戸でくみ上げる。タンクに一時保管し、放射性物質濃度が目標値を下回ることを確認後に海に流す。汚染水の発生量を1日最大100トン削減できるという。目標値は法令基準値の約5分の1で、周辺河川と同程度だと東電は説明している。
 地下水バイパスの設備は昨春完成した。漁連が地下水バイパスの容認に踏み切れなかったのは、福島第1原発で汚染水漏れなどが相次ぎ、東電の運用能力を信頼できなかったからだ。福島県沖では、本格的な漁業再開に向けた試験操業が続く。漁連側が目標値の順守と第三者による監視、風評被害による損害の賠償などを政府や東電に求めたのは当然だ。
 地下水バイパスが始まっても、汚染水がたまり続ける状況に変わりはない。対策本番はこれからだ。
 東電は回収した汚染水を敷地内のタンクで保管中で、2015年度末までに80万トンの容量確保を目指して増設を急ぐが、貯蔵量は既に40万トンを超えた。先月もタンクから約100トンの汚染水漏れを起こすなど、東電の安全管理体制には疑問符が付いたままで、体質改善は急務だ。
 今後の主要な汚染水対策は、トリチウム以外の放射性物質を取り除く多核種除去装置「ALPSアルプス」と原子炉建屋周囲の地盤を凍らせて地下水の流入を止める「凍土遮水壁」だ。しかし、アルプスはトラブル続きで本格稼働が見通せない。アルプスが稼働してもトリチウムを含む水は残る。海洋放出も検討されているが、漁業者などの同意に加え、国際社会の理解が欠かせない。凍土遮水壁完成は15年度だ。
 東電は福島第1原発の廃炉・汚染水対策を担当する部門を4月に社内分社化する。原発メーカーなどからも人材を招き、「オールジャパン体制」で臨むという。東電の最優先課題は廃炉・汚染水対策であり、政府も前面に出て取り組む必要がある。
 地下水バイパスの確実な実施をその第一歩とすべきだ。

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