【記事93690】「活断層調査は不十分」「阿蘇山噴火も考慮を」伊方原発差し止め、逆転決定 広島高裁(毎日新聞2020年1月17日)
 
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「活断層調査は不十分」「阿蘇山噴火も考慮を」伊方原発差し止め、逆転決定 広島高裁

 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを山口県東部の住民が求めた仮処分申請の即時抗告審で、広島高裁は17日、申し立てを却下した2019年3月の山口地裁岩国支部の決定を取り消し、運転差し止めを命じる決定を出した。森一岳裁判長は「四電の活断層の調査は不十分」と判断。約130キロ離れた阿蘇カルデラ(阿蘇山、熊本県)について「破局的噴火に至らない程度の噴火も考慮すべきだが、想定が過小」とし、安全性に問題がないとした原子力規制委員会の判断は不合理だと指摘した。
 伊方3号機を巡る運転差し止めの司法判断は、17年12月の広島高裁決定(異議審で18年9月に取り消し)に続き2例目。差し止め期間は岩国支部で係争中の差し止め訴訟の判決が言い渡されるまでとした。
 伊方3号機は11年3月の東京電力福島第1原発事故を受けて停止したが、原子力規制委による新規制基準の安全審査に合格。16年8月に再稼働し、19年12月から定期検査に入っている。仮処分はすぐに効力が発生するため、四電は決定の取り消しを求める保全異議と仮処分の執行停止の申し立てを同高裁にする方針だが、結論が出るまでに時間がかかり、4月に予定している営業運転の再開はできない見通しだ。
 仮処分を申し立てたのは、原子力災害対策指針などで避難計画の策定が義務付けられていない原発から30〜40キロ圏にある島しょ部の住民3人。岩国支部が19年3月、「原発の運用期間中に阿蘇カルデラの巨大噴火が起きる可能性は小さい。耐震設計の目安になる地震の揺れに関する評価も不合理な点はない」と却下したため、即時抗告した。
 抗告審でも地震や噴火に対する安全性が争点となった。決定で森裁判長は、四電が十分な調査をせずに、活断層が敷地沿岸部に存在しないと判断し、必要な地震の揺れの評価もしていなかったと指摘。四電が申請した安全審査を原子力規制委が合格と判断した点について「過程に過誤ないし欠落があったといわざるを得ない」と断じた。また、破局的噴火でなくても、四電が想定する噴出量の3〜5倍が見込まれ、この過小な想定を前提にした原子炉設置変更許可申請を問題ないと判断した規制委の判断は不合理だと結論付けた。
 伊方3号機を巡る仮処分は福岡高裁でも争われている。原発の運転差し止めの司法判断は福島第1原発事故以降5例目だが、関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた14年5月の福井地裁判決など、運転差し止めを認めた他の4例は上級審などで判断が覆っている。【手呂内朱梨、賀有勇】

 ◇住民側弁護団事務局長の中村覚(さとる)弁護士の話
 地震と火山、両方の観点から原発の危険性を認めたまっとうな判断で、行政から独立した司法の役割を果たしてくれた。山口県民の生命と暮らしを守れるよう、運転禁止の判断が確定するまで闘い続ける。

 ◇四国電力の話
 これまで最新の科学的知見も踏まえながら、地震や火山に対する安全性を丁寧に立証してきた。今回の決定は極めて遺憾であり、到底承服できない。早期に仮処分命令を取り消してもらえるよう、決定文の詳細を確認の上、速やかに不服申し立ての手続きを行う。
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