【記事47030】あまりに酷い伊方3号機 再稼働直前に故障する原発−川内(九州電力)も高浜(関西電力)も 伊方(四国電力)も 規制庁の甘い審査−規制庁交渉で痛感したひどい回答、特に原子炉の安全性 山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎メルマガ2016年9月9日)
 
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あまりに酷い伊方3号機 再稼働直前に故障する原発−川内(九州電力)も高浜(関西電力)も 伊方(四国電力)も 規制庁の甘い審査−規制庁交渉で痛感したひどい回答、特に原子炉の安全性 山崎久隆(たんぽぽ舎)

 四国電力伊方原発3号機が12日に原子炉を起動した。プルトニウム燃料
(MOX燃料)を積んだプルサーマル炉でもある。
 8月9日長崎原爆の日に再稼働阻止全国ネットワークが規制委と交渉を持ったが、その結果、一般とも科学ともかけ離れた認識に唖然とさせられた。これまでも何度も議論をしたが、今回は最も強くそれを感じることになった。担当した箇所での質問と回答に対し、特に原子炉の安全性に関する点についての批判を以下に述べる。

見出し
1.一次冷却材ポンプの軸受漏えい
2.1000ガルに耐えられる?
3.マジックナンバー1.54倍
4.自然循環不成立時の過酷事故対策
5.注入圧力はわずか7気圧

1.一次冷却材ポンプの軸受漏えい

 原子炉一次系に破損が発生すると流出する冷却材の流れに阻害されて自然循環は成立せず燃料を冷却できないことは明確である。炉内の冷却材は開口部に向かって流れてしまうからだ。
 自然循環は炉心燃料の熱により発生し、高温になった冷却材は出口配管を通過して蒸気発生器に向かい、そこで二次系または空気(二次系が蒸発していれば)により冷却されて比重の大きな冷却材になるので、蒸気発生器細管を下り一次冷却材ポンプを経て入口ノズルから原子炉内に戻る。これが自然循環の流れだが、何らかの原因により蒸気発生器細管、加圧器、一次冷却材ポンプなどの何処か(計装系などの微少配管なども含めて)で漏えいが発生したら漏えい口から冷却材は噴出し、冷却材の流れは損傷部に向かう一方的なものになる。そのため自然循環は成立しない。
 その中でも漏えい箇所になる可能性の高い一次冷却材ポンプは、実は破損が全くなくても電源が喪失しただけで漏えいが発生するやっかいな装置である。
 ポンプには「シール部」という場所がある。ポンプ回転軸を伝って内容物が漏れるのを防ぎ、軸受を安定させる装置だ。加圧水型軽水炉の一次系にはループごとにポンプがあるので、伊方3号機の場合は3台ある。
 そのシール部は外から強い圧力をかけて「軸封水」または「シール水」を押し込んでおり、そのおかげで隙間から冷却材が漏れるのを防いでいる。この水圧は炉圧より高く157気圧以上で「充てんポンプ」というポンプにより圧力がかけられている。しかし電動ポンプだから電源喪失と共に機能喪失する。
 機能を喪失するとシール水を押し込めなくなり、内部の157気圧の冷却材が漏れてくる。最大漏洩量は最も圧力が高い漏えい初期段階でポンプ1台あたり毎時最大109トンと想定されている。(時間と共に圧力が下がるので漏洩量は徐々に減少する。)
 シールの破損は、この漏洩量を増やす方向に影響すると思われるので、真剣に検証をすべきなのだが、今回の漏えいが「シール水のみの漏えい」だとして、何の検証も検討もしていない。安全側に立った態度とは到底いえないのである。規制庁は自らは事故原因調査もしていない。
 四国電力によると、格納容器耐圧検査において使用圧力の1.1倍をかけたところ、ポンプ軸封部のOリングに外部から圧力が掛かり変形、そのまま動かしたため軸受が傾き漏えいに至ったというのだが、これだとポンプ3台とも起きない理由の説明にならない。個体差だと四国電力は言ったそうだが、それで済むのならば規制庁などいらない。原因と調査がいいかげんだと、全く予期しない原因があっても排除されていないので、運転中に大規模な破たんを来しても未然に防げない。そのような事例は過去にいくらでもあったではないか。
 典型的例を一つあげれば、軸振動の増大を甘く見て再循環ポンプを破壊するまで運転し続けた福島第二原発3号機の事故がある。その前年に同型機の1号機で起きていた損傷を見逃したことが、最終的に事故を未然に防げなかった。
 こんな経験を山のようにしているのに、今回の規制委の稼働許可は、何が起きても教訓にさえならない現実を見せつけている。
 電源喪失時には一次冷却材ポンプが冷却材喪失の大きな流出点になると分かったのは福島第一原発事故の教訓である。それまでは抽象的には認識されていたが、そもそも全電源喪失が長時間続くという想定そのものが「想定外」なので、実態として対策されていない。
 では、福島第一原発事故後の今はどうなったのかというと、本質的には何ら変わりはしない。
 ポンプはもちろん以前のままだし、冷却材喪失対策が、結局は消防車のポンプという。せめて炉圧と同じ圧力でも注水できる電源不要のシステムを付けるべきであるが、対策は取られないままに加圧水型軽水炉が動き出している。
 一つの方法は、沸騰水型軽水炉の原子炉隔離時冷却系統と同様の装置を付けることだ。

2.1000ガルに耐えられる?

 愛媛県は、伊方3号機が中央構造線及び中央構造線断層帯のほぼ真上にあることから、650ガルの基準地震動に大きな不安を感じたのであろう、1000ガルの地震にも耐えられるのかと四国電力に問うた。そこで四国電力は実力はもっとあるとして1000ガルを想定した「伊方発電所3号機耐震裕度確保に係る取組みについて」と題する報告書を2015年7月付で県に提出した。
 愛媛県は、伊方3号機が中央構造線及び中央構造線断層帯のほぼ真上にあることから、650ガルの基準地震動に大きな不安を感じたのであろう、1000ガルの地震にも耐えられるのかと四国電力に問うた。そこで四国電力は実力はもっとあるとして1000ガルを想定した「伊方発電所3号機耐震裕度確保に係る取組みについて」と題する報告書を2015年7月付で県に提出した。
 愛媛県は、伊方3号機が中央構造線及び中央構造線断層帯のほぼ真上にあることから、650ガルの基準地震動に大きな不安を感じたのであろう、1000ガルの地震にも耐えられるのかと四国電力に問うた。そこで四国電力は実力はもっとあるとして1000ガルを想定した「伊方発電所3号機耐震裕度確保に係る取組みについて」と題する報告書を2015年7月付で県に提出した。
 ところが四国電力は、工事計画認可申請書にはない「実力評価」を持ち込み、大きな揺れの力にも耐えきれるとする。実力評価とは「適用実績のある詳細評価」と記載しているが、実態は安全余裕をはぎ取り、実際に取り付けている材料や、材料の強度評価や設置状況を組み込んで加算し、耐震裕度を上方修正したものである。
 一見合理的に見えるが、材料欠陥や老朽化、あるいは設計、施工ミスなどは一切考慮できないので、実力といいながら実態は計算上のカタログスペックでしかない。
 工事計画認可申請において厳しい計算条件を付けるのは、設置後に何十年、場合によっては60年間も使う装置や配管類が、稼働中に老朽化しひび割れや減肉が起きたり、工事や施工に問題があって傷が付いていたり、ありとあらゆる「不測の事態」を想定するからである。
 航空機の場合、空力強度計算だけで製造しても耐空証明と型式証明(これがなければ乗客を乗せられない)を取れないのは、試験飛行などで分かる欠陥が潜んでいる危険性を経験的に知っているからだ。

3.マジックナンバー1.54倍

 「1000÷650」これが1.54である。
 設置許可変更申請書において伊方3号機は650ガルを想定した。新基準適合審査にあたり、基準地震動を570ガルから650ガルに引き上げたのだ。
 それでも不安だとした愛媛県が更なる対策を求めた。つまり1000ガル程度にも耐えられるのかと問うた。これに四国電力は「耐えられる実力がある」と主張した。
 それでも不安だとした愛媛県が更なる対策を求めた。つまり1000ガル程度にも耐えられるのかと問うた。これに四国電力は「耐えられる実力がある」と主張した。
 もちろん、そこまで減肉やひび割れが起きていることは、特に放射性物質を内蔵する一次系では希かもしれない。しかし希でもあり得ることだから、安全側に値を取り、それでも放射性物質を封じ込めることが出来ることを条件としている。これが「工認の手法」である。
 しかしこれでは厳しい結果になるので、「実力評価」では、肉厚は公称値つまり材料として納品されるカタログスペックの値を使う。もちろん使用中の減肉やひび割れなど想定しない。
 当然ながら裕度は高い値になる。例えば蒸気発生器伝熱管の場合、650ガルにおける「工認の手法」では基準地震動による発生応力値÷評価基準値(塑性変形[そせいへんけい]は起こすが破壊には至らない一定の値)=1.09倍(1.54倍以下)が、「実力の手法」では同じ計算で1.61倍(1.54倍以上)になるのである。
 当然、1000ガルを想定しても「実力の手法」ならば余裕があることになる。例えば蒸気発生器伝熱管の例では1.61÷1.09=1.48倍ほど耐震裕度が増えるというわけだ。
 当然、1000ガルを想定しても「実力の手法」ならば余裕があることになる。例えば蒸気発生器伝熱管の例では1.61÷1.09=1.48倍ほど耐震裕度が増えるというわけだ。
 すなわち蒸気発生器伝熱管は1000ガルの揺れには持たないのである。
 同様に持たなくなる装置類を四国電力の「伊方発電所3号機耐震裕度確保に係る取組みについて」から読み取ると次の通り。
 抽出条件は、主要機器の中で「工認の方法」で計算し耐震裕度が1.54倍を下回るものである。

 1.原子炉容器の管台(どこだか不明)、2.炉内構造物(ラジアルサポート)、3.燃料集合体(制御棒案内シンブル)、4.原子炉容器支持構造物埋込金物(スタッド)、5.蒸気発生器(管台)、6.蒸気発生器内部構造物(伝熱管)、7.蒸気発生器支持構造物(支持脚)、8.蒸気発生器支持構造物埋込金物(支持脚埋込金物コンクリート)、9.一次冷却材ポンプ(軸受)、一次冷却材ポンプ支持構造物埋込金物(上部支持構造物埋込金物基礎ボルト)、10.制御棒クラスタ(被覆管)、11.制御棒クラスタ駆動装置(タイロッド)、12.燃料取替用水タンクポンプ・原動機(軸位置)、13.使用済燃料ラック(溶接部)、14.原子炉格納容器本体(胴部)、15.アニュラスシール(根太)、16.格納容器排気筒(本体)、17.タービン動補助給水ポンプ・駆動用タービン(弁箱)、18.その他配管・サポート(具体的部位不明)、19.一般弁(具体的部位不明)、20.主蒸気隔離弁操作用電磁弁(据付位置)、21.主蒸気安全弁(据付位置)、22.制御棒(挿入性)、23.静的触媒式水素再結合装置(本体)
 これらが全て1.54を下回っているので1000ガルの揺れには耐えられないことになる。そのため実力評価などと下駄を履かせる手法を導入したが、それで強度が上がるはずもない。
 規制庁の加圧水型軽水炉担当官は、この実力評価については法律で定められたものではないし、国に対して審査を求めたものでもないので、関知していないとした。事業者がことあるごとに主張する「国のお墨付き」は、「実力評価」については一切無いのである。

4.自然循環不成立時の過酷事故対策

 過酷事故対策(アクシデントマネジメント略してAM)の一つが「フィードアンドブリード」つまり「減圧して注水」である。一次系の熱を逃がす方法は二次系への熱の伝達だが、電源喪失状態ではポンプは動かないから、炉心燃料で暖められた高温の冷却材が蒸気発生器の伝熱管に流れ込み、そこで二次系の水または空気に熱を逃がし、炉心に戻ることで炉心を冷やす。しかし伝熱管に気体が溜まれば自然循環は止まる。燃料が損傷したりメルトダウンしたら大量の希ガスと水素が発生するから、気体により自然循環は止まるのは誰にも分かる。
 その際に「フィードアンドブリード」を行うのだが、加圧器逃がし弁を開けば自動的に冷却材喪失になってしまう。
 また、蒸気発生器の伝熱管に気体が溜まるほど炉心損傷が進んでいれば、高温のガスがポンプシールや弁を破損させている可能性が高い。冷却材の喪失はそういうところでも進行している可能性がある。
 問題は「水を入れる方法」である。
 ECCSは蓄圧注入系以外は電動ポンプを使うため、電源喪失状態では入らない。蓄圧注入系も40気圧程度に下がらなければ入らない。高圧で漏えいが続くような状態では、冷却材を喪失し続けていても補充は出来ない。
 原子炉が高い圧力のままで推移し、冷却材は抜けるのに注入できない状態が長時間続けば炉心は露出しメルトダウンを引き起こすだろう。40気圧まで下げるのに加圧器逃がし弁を使っても、蓄圧注入系統にも限りがあり、タンクが空になれば効果を失う。もともとECCSへの電源が30分程度で回復することになっているため、長時間の停電を想定していない。もちろんバックアップ電源があると主張するだろうが、福島第一原発事故では電源設備系統は地震により破壊されているから、長期間にわたり電源が使えない状態を想定しなければ、またしても想定外になるだけである。

5.注入圧力はわずか7気圧

 さらにバックアップとして想定されているのは消防車だが、ポンプの注入圧力は7気圧程度しかない。その圧力で消防用水配管に水を送ったところで、炉心に入る保障もない。
 規制庁に対して「消防用水ポンプを使って冷却材を遅れることを実証したのか」と問うと、「稼働中の原子炉にそんなことは不可能である」と、実証しないことをあたかも当然と、開き直った。これはおかしい。
 実証されていない装置を「安全設備」などと銘打って設置するようなプラントはあり得ないことだ。最後に水が入らないとメルトダウンを避けられないといった段階で、実証性のない装置を使って水が入るなど、想定すること自体間違いだ。
 規制庁は「消防用水配管の部分、部分で注入できるところをテストしている」というが、そんな常圧で動かす場所をいくらチェックしても意味はない。本当に厳しい場所、つまり一次冷却材の内蔵する150気圧になる場所に注水できることを実証しなければ、AM設備などといえるわけがない。
 例えば同じAM設備である「ホウ素注入系」については定期検査ごとに実際に注入できることを試験しているし、ECCSの設備についても注入できることを実証試験で確認している。では、消防用水配管の実証性を試験しないのはなぜか。実証できないからに他ならない。
 福島第一原発事故でも明らかに使い物にならない設備であることが「実証」されてしまった設備を、AM設備であるとする規制委員会の規制基準適合性審査は、茶番劇である。

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