【記事46940】伊方原発避難訓練 複合災害の懸念は募るばかりだ(愛媛新聞2016年9月6日)
 
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伊方原発避難訓練 複合災害の懸念は募るばかりだ

 県と伊方町が、四国電力伊方原発の重大事故を想定した避難訓練を、3号機の再稼働後初めて実施した。伊方原発は佐田岬半島の付け根にある。重大事故時、原発よりも半島の先端側に住む約4700人は孤立の恐れがあり、県内外への海路避難が想定されている。訓練はこうした住民が対象だったが、台風12号の接近で乗船は中止。港までの避難経路の確認で終えた。
 最も心配されるのが、地震や津波、大雨などと原発事故が重なる複合災害だ。基幹道路の国道197号の寸断も想定されるが、たとえ使えても、原発の前を通って避難することは現実的ではない。さらに今回、実際に海路も閉ざされ、逃げ場を失う不安が現実になりうることを突きつけられた。だが、命を守る道は見いだせていない。その厳しい現実を重く受け止めなければならない。
 訓練では「船が出せないからこれで終了」と言えても、実際はそこから先の判断が命を左右する。その重責を担い、間違いのない判断をすることが行政の役割である。台風が近づく中での訓練を、その場で海路を断たれればどうするかシミュレーションする好機とし、行動に移して生かすことはできたはずだ。
 情報が錯綜(さくそう)するであろう状況下、集まってくる住民をどこにどう避難させるかは、一刻を争う。4700人全員が屋内退避できる場所があるのか、施設は崩壊しないか、情報伝達手段に不備はないか。山積する課題を解消しなくてはならない。
 訓練では、住民が港や避難所までたどり着けるのかとの不安も消せていない。訓練に参加したのは約400人で、住民の1割にも満たない。支援が必要な高齢者や障害者らは既に避難した想定で行われ、住民は自家用車や町が事前に準備したバスを利用した。現実となれば、高齢化率が高い町で急な災害時に助け合い、渋滞の中で迅速に移動するのは容易ではなかろう。
 町は55の地区が国道まで急勾配の曲がりくねった細い道でつながっており、地盤が緩い。6月下旬には大雨によって瀬戸、三崎両地域で土砂崩れが発生、集落と国道をつなぐ道をふさいだ。今なお土砂が道路を覆い、通行止めの箇所がある。土砂崩れの危険と常に隣り合わせだということも忘れてはならない。
 さらに、県の南海トラフ巨大地震の被害想定では、町の宇和海側の一部で県内最大の21メートルの津波高が示され、浸水域が広がる。こうした複合災害の想定が不十分な広域避難計画の実効性には、疑念が拭えない。
 県は10〜11月に原子力防災訓練を実施する予定で、今回の訓練を港までの避難路の確認と位置づける。しかし、原発は既に再稼働され、あす事故が起きない保証はない。命を守る安心さえ得られないなら、原発を動かすべきではない。避難計画は原子力規制委員会の審査対象になっていないが、国にも厳格に検証する仕組みを求めたい。

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