【記事36220】規制委発足2年/理念実現に向け原点に返れ(河北新報2014年9月27日)
 
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規制委発足2年/理念実現に向け原点に返れ


 原発の再稼働に向けた技術的な審査だけを求められているわけではない。それも重要な業務に違いないが、国民が期待したのは、原子力に対する確かな規制を通じ、人と環境を守るという理念の実現だったはずだ。
 原子力規制委員会が19日で発足2年を迎えた。
 前身の原子力安全・保安院が、「電力事業者のとりこになった」国会事故調査委員会反省から、規制機関としての独立性や専門性、中立性や透明性を掲げて設置された組織である。
 昨年6月には、原発の再稼働に必要となる新たな規制基準を策定。大規模災害やテロなどの過酷事故に対し、「世界一厳しい」田中俊一委員長ハードルを設けた。事業者と規制行政の担当者が公開の場で議論する審査会の形式は評価できよう。
 見解が対立する事業者に次々と追加データを求めたり、原発立地自治体の長や政治家との面会を避けたりする規制委の姿勢を、原発推進側は「独立性を重視するあまり、孤立、独善に陥っている」と痛烈に批判する。だがそれも、規制委が組織の成り立ちを意識した運営に注力してきた証しとも取れる。
 一方で、福島第1原発の廃炉作業を監視する立場でありながら、汚染水問題への対応が後手に回るなど、原発再稼働に向けたハード面の検証以外で存在感を十分発揮したとは言い難い。
 福島第1原発の事故で分かったのは、一度コントロールが外れれば手に負えなくなる原発の恐ろしさだ。事故が起こる前提に立った事故収束対応や、警察、自衛隊等との連携、緻密なデータに基づく被ばく住民の避難誘導や支援体制の整備など、幅広い安心・安全の方向付けにおいても、規制委の指導力が求められる。人材育成を柱とした原子力規制庁の体制強化と併せ、今後の課題だろう。
 規制委は10日、九州電力川内原発に対し、初めて新基準への適合を認定した。しかし、米国では稼働の条件になっている周辺住民の避難計画については審査対象になっていない。法にのっとった対応とはいえ、避難基準の指針を示しただけで、具体的な計画づくりは自治体任せというのは無責任ではないか。
 政府が自治体の避難計画作成への関与を強めたとはいえ、実効性が担保されたことにはならない。住民の不安を緩和し新基準への信頼感を増すためにも、政府は避難計画の整備を規制委の審査項目に加えるべきだ。
 規制委の発足2年に合わせ、委員人事が行われた。原発推進の立場を取る元日本原子力学会長の就任と、活断層調査で事業者に厳しい立場を貫いてきた委員の退任だ。政府や電力事業者の意向に沿った人事といえ、規制委の存立基盤を揺るがしかねない。今後、原発再稼働に向けた審査の加速化を求める圧力が強まることも予想される。
 規制委に求められるのは、原子力安全規制のプロとしての自覚と誇りだ。なお続く福島第1原発事故の惨状を踏まえ、いま一度原点に立ち返ってほしい。

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