【記事28781】東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 最終報告(概要)(政府事故調査委員会2012年7月23日)
 
参照元
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 最終報告(概要)

はじめに【T、Y・はじめに】

 平成23年3月11日、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。) 及び福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という。)は、東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波によって損傷し、特 に福島第一原発では国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)レベル7の極めて深刻なシビアアクシデントが発生した。
 同年5月24日、この事故の原因及びこの事故による被害の原因を調査・検証し、事故による被害の拡大防止及び同種事 故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的に、閣議決定に基づき当委員会が設置された。当委員会は、その後、 福島第一原発及び福島第二原発を始めとする現地の視察、関係地方自治体の首長や住民からの意見聴取、関係者のヒアリ ング(対象者数772名)等の調査・検証活動を行い、同年12月26日に中間報告を取りまとめ、さらに、平成24年7月23 日に最終報告を取りまとめた。
 最終報告は、中間報告と一体となるものであり、主として中間報告後の調査・検証の結果を記述したものである。
 この概要は、最終報告のうち、問題点の考察と提言に当たるY章の記述を中心に簡略化したものである。見出しの後の 【 】内は、「最終報告(本文編)」の主な該当箇所を示す。提言は太字で表記している。

(中略)
(5)「想定外」問題と行政・東京電力の危機感の希薄さ【Y 2(5)】
 「想定外」という言葉には、大別すると二つの意味がある。一つは、最先端の学術的な知見をもってしても予測できなかった事象が起きた場合であり、もう一つは、予想されるあらゆる事態に対応できるようにするには財源等の制約から無理があるため、現実的な判断により発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたところ、線引きした範囲を大きく超える事象が起きたという場合である。今回の大津波の発生は、この10年余りの地震学の進展と防災行政の経緯を調べてみると、後者であったことが分かる。福島県沖の津波地震への防災対策に関するこれまでの行政の意思決定過程を、行政の論理の枠内で見ると、それなりの合理性があったことは否定できない。しかし、今回の事故による甚大な被害を前にして、行政には何の誤りもなかった、「想定外」の大地震・大津波だったから仕方がないと言って済ますことはできるだろうか。それでは、安全な社会づくりの教訓は何も得られないだろう。
 行政の論理や責任の有無とは関係なく、被害を少しでも小さくする方法あるいは選択肢はなかったのか、行政の意思決定の枠組みを変革する道はなかったのかという視点から、要因分析を行うと、次のような問題点が浮かび上がってくる。
 1 地震についての科学的知見はいまだ不十分なものであり、研究成果を逐次取り入れて防災対策に生かしていかなければならない。換言すれば、ある時点までの知見で決められた方針を長期間にわたって引きずり続けることなく、地震・津波の学問研究の進展に敏感に対応し、新しい重要な知見が登場した場合には、適時必要な見直しや修正を行うことが必要である。
 2 発生確率が低いかあるいは不明という理由により、財源等の制約からある地域が防災対策の強化対象から外されていた場合、万一、大地震・大津波が発生すると被害は非常に大きくなると考えられる。行政は、少数であっても地震研究者が危険性を指摘する特定の領域や、例えば津波堆積物のような古い時代に大地震・大津波が発生した形跡がある領域については、地震の実態解明を急ぐための研究プロジェクトを立ち上げるとか、関係地域に情報を開示して、行政、住民、専門家が一体となって万一に備える新しい発想の防災計画を策定する等の取組をすべきであろう。
 3 中央防災会議が決める防災計画は、原発立地を特別視することなく進められてきたが、今後は原発立地の領域における災害リスクを注視すべきである。原子力発電所の防災対策は保安院の担当とされてきたが、中央防災会議の方針は原子力発電所の防災対策にも密接に関連することから、中央防災会議においても原子力発電所を念頭に置いた検討を行うべきである。一方、東京電力の津波対策の経緯等を追ってみると、同社には原発プラントに致命的な打撃を与えるおそれのある大津波に対する緊迫感と想像力が欠けていたと言わざるを得ない。そして、そのことが深刻な原発事故を生じさせ、また、被害の拡大を防ぐ対策が不十分であったことの重要な背景要因の一つであったと言えるであろう。

(後略)

KEY_WORD:SOEDA_:FUKU1_:JOUGAN_:HIGASHINIHON_:MEIGISANRIKU_:S_JIKOCHO_: