[2019_01_22_01]<女川2号機再稼動 施策を問う>(3)避難計画/想定不足実効性なし(河北新報2019年1月22日)
 
参照元
<女川2号機再稼動 施策を問う>(3)避難計画/想定不足実効性なし

 東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)が再稼働に向けた重要局面を迎えている。再稼働を審査する原子力規制委員会が年内に「合格」を出す可能性が大きい。東京電力福島第1原発事故で甚大な被害を受け、今なお影響が続く東北で初めて現実味を帯びる再稼働。住民の疑問や不安を解消し、安全性を保障する施策は十分か。宮城の現状を報告する。(報道部・高橋鉄男)

【地図】女川原発5km圏と30km圏

 宮城県女川町とともに東北電力女川原発が立地する石巻市。立地自治体が策定する原発事故時の広域避難計画を検証しようと昨年9月、市民団体「女川原発の避難計画を考える会」の住民が仙台市など避難先へのルートに車を走らせた。
 まず向かった先は東松島市の鷹来(たかぎ)の森運動公園。県が原発30キロ圏との境13カ所に想定する「スクリーニング検査所」の一つだ。ここでは事故時、石巻市民約14万人のうち約7万人が車や人の放射能汚染の調査と除染を受けることになる。

<大渋滞不可避>

 県は計画で、原発事故時の「段階的避難」を掲げている。
 計画では、5キロ圏の約1100人は事故時にすぐ避難。5〜30キロ圏の約20万人はいったん屋内退避し、放射線が一定の値に達したのを確かめてから自治体が避難を指示する。
 避難車両による渋滞を緩和するための方策だが、検証に参加した石巻市の門間弘さん(66)は「放射能は目に見えない。事故が起きたら、指示を前にみんな避難してしまう」と戸惑う。
 5〜30キロ圏内で自主避難が相次ぐことになれば、大渋滞は避けられない。仮にスクリーニングを車1台当たり5分とした場合、鷹来の森運動公園に1万台が殺到すると1カ月以上かかる計算になる。「検査で避難が遅れると、それだけ被ばくする」(門間さん)との推測も成り立つ。
 内閣府の調べでは東京電力福島第1原発事故時、警戒区域からの避難者の約2割がスクリーニングを受けなかった。渋滞で検査を諦めて被ばく状況が分からなければ、健康への影響に不安を抱えかねない。昨年12月、市民団体は「実効性に疑問がある」と県や市に合同説明会を要請した。

<バス業者頼み>

 移動手段の確保も見通せているとは言い難い。
 県は事故時、自力避難が困難な高齢者らにバスを仕立てる。バス避難者の人数算定はこれからだが、協定を結んだ県バス協会は84事業者が計約2600台を所有し、「必要台数を確保できる」(県)と見込む。
 被ばくの危険性は、避難者の輸送に当たる運転手にも伴う。協定では、バスの派遣は一般人の被ばく上限と同じ年1ミリシーベルトを下回る場合に限ると定めている。
 協会の熊沢治夫専務理事は「現場でそれ以上被ばくする恐れもある。派遣は経営者の判断と運転手の善意に頼るほかなく、実効性は担保できない」と苦悩を明かす。協定には、再稼働時の再協議も盛り込んだ。
 県は近く、内閣府が設ける原子力防災協議会作業部会の議論を踏まえ7市町の避難計画をまとめる。県原子力安全対策課の担当者は「計画がまとまれば、原発再稼働に県が同意する要件の一つを満たすことになる」と言う。
 しかし、県は福島の事故のように地震や津波に伴って起きる「複合災害」までは想定してない。実効性なき避難計画は、再稼働の見切り発車を促しかねない。

KEY_WORD:FUKU1_:ONAGAWA_: