[2017_12_24_02]<沈滞 核のごみ最終処分>(下)重荷 費用確保 険しい道のり 3兆7000億円は概算段階(河北新報2017年12月24日)
 
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<沈滞 核のごみ最終処分>(下)重荷 費用確保 険しい道のり 3兆7000億円は概算段階

 原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分が行き詰まっている。国は処分場の候補地となり得る地域を示した「科学的特性マップ」を公表し、意見交換会を全国で開いているが、運営を巡る不正が発覚。根本課題の説明も不十分なままだ。五里霧中で沈滞する最終処分政策を検証する。(東京支社・小沢邦嘉)

<原発停止 影響>
 「処分費用の積み立てが不十分なはずだ。言いたくないことに、触れない印象がある」
 東京で10月中旬にあった原発の高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分に関する国主催の意見交換会で、参加した男性が不満の声を上げた。
 経済産業省の担当者は処分政策の概要を説明したが、核のごみ最終処分費用は「約3兆7000億円を電力会社が払う」と言及しただけだった。
 処分事業の主体となる原子力発電環境整備機構(NUMO)は「現状で確保した資金は約1兆円。目標額に達するよう努める」と理解を求める。
 費用確保の道のりは険しい。電力会社が原発の稼働実績に応じ、電気料金収入から支払う制度のためだ。東京電力福島第1原発事故後は全国で原発停止が相次ぎ、十分に集まらない。
 東北電力はこれまで計336億円を拠出したが、自社の原発全4基が停止中の現在は支払い義務がない。
 核のごみは最終処分場の立地調査から建設、閉鎖まで100年かかる。その後、数万年の隔離を要する。原発のコスト問題に詳しい大島堅一龍谷大教授(環境経済学)は「事業試算は絵に描いた餅。誰も信じない」と突き放す。

<「透明性ない」>
 国は2000年、核のごみ4万本の処分を前提に総事業費を「約2兆9000億円」と初めて試算。電力会社から費用徴収を始めた。物価変動などを踏まえ毎年、総事業費や1本当たりの処分単価を見直す。
 ただ、処分場の候補地は決まらず、具体的な設計も進まない。事業主体のNUMOも「現状では概算のレベル」と認める。
 前段階には別の巨額プロジェクトが控える。国は原発の使用済み核燃料を青森県六ケ所村の工場で再処理し、核のごみを分離し処分する計画。再処理の総事業費は13兆9000億円で、東京−大阪間を結ぶリニア中央新幹線の総工費(9兆円)の1.5倍を超える。
 再処理費は工場の完成遅れや安全対策を理由に膨らみ続ける。大島教授は「なぜこんなにお金がかかるのか。政策に透明性がない」と批判し、コスト面を含め原子力政策を評価する第三者機関の設置を求める。

<調査に交付金>
 最終処分の事業試算に現状では反映されていないコストもある。NUMOが処分場の立地地域で展開する予定の「地域共生」費だ。
 NUMOは市民との意見交換会で「地域が将来にわたって発展するよう全力で取り組む」と強調。交通や医療のインフラ整備などを「共生イメージ」として掲げる。立地に向けた調査に応じるだけで、自治体に最大20億〜70億円が交付される制度もある。
 市民団体「原子力資料情報室」(東京)の伴英幸共同代表は警鐘を鳴らす。
 「福島の事故後、国は科学的議論によって処分事業への信頼を得ようとしてきたはずだ。利益誘導の姿勢で物事は決まらない」
[核のごみ最終処分費用]国は2000年、核のごみ4万本の最終処分費用を、当時の土木工事積算基準などを用いて約2兆9000億円と試算。物価変動を基に毎年、処分単価を見直し、電力会社に拠出を求める。同年に1本当たり約3500万円だった拠出単価は、16年の改定で約7200万円となった。

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