【記事76050】損害をカバーしてくれない地震保険(島村英紀2018年10月5日)
 
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損害をカバーしてくれない地震保険

 地震保険の支払額が6月18日に起きた大阪北部地震で、阪神大震災の783億円を上回った。
 地震の大きさからいえば、6400人以上の犠牲者を生んだ阪神淡路大震災(1995年)はマグニチュード(M)7.3で、大阪北部地震はM6.1で犠牲者は5人だった。阪神淡路大震災の方が地震のエネルギーは60倍以上も大きかったが、大阪北部地震の方が支払額は大きかったのだ。
 支払額は866億円で、地震保険の支払額では過去3番目の規模だった。2016年の熊本地震(M7.3)では3824億円だった。つまり、最近は支払額が急増している。
 理由のひとつは、このところ地震保険の加入率が上がっていることだ。たとえば、2017年度に火災保険を新たに契約した人のうち、地震保険にも加入した割合(付帯率)は63%になった。数年前の地震保険加入率は20%台だった。なかでも熊本や、南海トラフ巨大地震の被害が予想される地域で増えた。
 しかし地震保険に入ったからといって安心してはいけない。地震保険に大きな制約がある。
 第一に損害額が受け取れる地震保険金となるわけではないことだ。被害額がカバーされる火災保険とは大いに違う。
 保険に入っていても、失った住宅や家財を元通りにはできない。理由は支払額が火災保険の保険金額の30〜50%の範囲内しか出ないからだ。地震で全壊してしまっても、最大でも火災保険の半分しか支払われない仕組みなのである。
 そのうえ、地震保険では、一回の地震での支払の総額が決まっていて、それを超えたら、それぞれの支払が減額されることになっている。つまり大規模な災害が起きると、貰える金が減る仕組みなのだ。
 民間の保険責任額を超えれば、国が支払うことになっている。しかし一回の地震で政府が支払う再保険金の総額は11兆1268億円で、民間保険責任額と合計した一回の地震等による保険金の総支払限度額は11.3兆円が限度なのだ。
 いままでは総支払限度額が「頭打ち」になることはなかった。だが、もし首都直下型地震や南海トラフ地震のような大規模災害が起きたら、どうなるか分からない。
 いままでの地震保険の最大の支払額は東日本大震災(2011年)が1兆2795億円で最も多かったが、これを大幅に超える可能性が大きい。
 9月に起きた北海道地震(北海道胆振東部地震)では、「被災者生活再建支援法」が適用されて、地震保険のほか、1世帯あたり全壊で最大300万円が支給される。しかし、これでも絶対的に足りないのだ。たとえ地震保険に入っていても、元通りの生活が営めるわけではない。
 北海道南西沖地震(1993年)や阪神・淡路大震災では、住宅が損壊しても住宅ローンの残額だけが残ってしまって、さらに損壊した住宅を建て替えるために再度銀行等から借入れをするなど、多くの二重ローン債務者が出た。二重ローン問題は重大な社会問題になっているのである。

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