[2021_04_14_06]社説:処理水の放出 対話する姿勢ないまま(京都新聞2021年4月14日)
 
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社説:処理水の放出 対話する姿勢ないまま

 政府はきのう、東京電力福島第1原発でたまる大量の処理水を、海洋に放出する方針を決めた。
 極めて重要な課題であるのに、地元漁業者はもとより、広く国民の理解を得ないままだ。多くの疑問や懸念を置き去りにした決定であり、承服できるものではない。
 第1原発では溶融核燃料(デブリ)を冷やす注水や、流入する地下水などで汚染水が増え続けている。多核種除去設備(ALPS)で処理し、大型タンクに保管する処理水は約125万トンに上る。
 来年秋以降にタンクは満杯になり、これ以上の増設は廃炉作業に支障が出るというのが、放出を急ぐ理由のようだ。
 処理水には技術的に除去できない放射性物質トリチウムが含まれる。人体への影響は小さいとされ、他の原発でも放出しているという。第1原発では濃度を基準の40分の1未満に薄めて放出する。それでも他の原発とは桁違いの量で、期間は数十年に及ぶ。
 漁業者が抗議するのは当然だ。福島県漁連は先月、厳しい制限を設けた試験操業を終え、本格的な漁業復興へ歩もうとした矢先だ。
 懸念される風評被害の再拡大に対し、政府が打ち出したのは水産業の販路拡大や観光客誘致など従来の支援策にすぎない。
 東電による賠償も盛り込まれたが、東電への不信は根深い。浄化済みと説明していた処理水に、トリチウム以外の放射性物質が残留していたことは記憶に新しい。
 政府と東電は、放出したトリチウムの濃度をモニタリング(放射線監視)し情報発信することで、風評被害をなくすという。しかし、それも信頼あってのことではないか。
 政府は昨春から意見聴取の会合を開いてきたが、関係団体などから意見を聴くだけだった。広く一般国民の声を聴く公聴会は一度も設けられず、処理水放出をめぐる対話の姿勢は見られない。
 昨年2月、政府の有識者小委員会は海洋放出の案を認めた際に、「国民理解の醸成」「双方向のコミュニケーション」を求めていた。
 風評被害をなくし、信頼にもつながる指摘であり、政府と東電はしっかりと受け止めてほしい。放射性物質の海洋放出は、何をもたらすのか。オープンでわかりやすい議論を進めるべきだ。
 2年後の放出に向け準備するというが、海でつながる中国や韓国、台湾から反発が出ている。国内外の懸念をよそにスケジュールありきで突き進んではならない。
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